連載・特集 案内
【特集】 学校力・教師力パワーアップ講座
教科書大転換―「すべて取り上げなくともよい」
継続して扱いの検討を
いよいよ4月から小学校を皮切りに新教育課程がスタートする。その対応の中で、教科書の取り扱いに変化があり、学校現場でも戸惑いが見られるようだ。「全て取り上げなくてもよくなった」教科書について、どのように対応すればよいか、考えてみよう。
ページ数は3割増に
小学校の新教育課程スタートに伴い、教科書も新しくなった。ページ数3割増と格段に厚くなる。これまでは教科書内容はどの内容も重要とされて、すべて教えることが前提であった。しかし、新教科書は文科省が「すべて取り上げなくともよい」としたのだ。
教科書の扱いの大転換といってよい。現場の教師たちの戸惑いは大きいであろう。学習指導要領改訂当時は、教科書が増ページになるとの予想はあったが、ここまで転換するとは考えていなかったに違いない。新教育課程実施に向けて、教科書の扱いは学校の最も重要な課題となった。
教科書が変わった背景には教科用図書検定調査審議会の『報告』(平成20年)の影響が大きい。その『報告』は新教科書について「質・量の両面の格段の充実」を求めていたのである。その充実方策は表①の通りである。
『報告』は、これらすべてについて「教科書発行者における教科書の著作・編集の改善が求められる」としたのである。その結果、教科書各社は競争的にこれらを取り上げたため、きわめて厚い教科書が誕生した。その結果として学習内容が多くなっただけでなく「習得」や「活用」をめぐる学習方法が多彩になり、正規の授業時数では全てをこなせなくなった。
教師も保護者も、これまで教科書内容は全て教えるもの、と考えてきた。そのため、この新しい事態をどう受け止めるべきであろうか。「教科書はすべて教えられない」とすれば、教師による取捨選択が必要になる。その取捨選択の基準は誰が決めるのか。もし、教師が勝手にやれば保護者からの批判が大きくなるのではないか、と危惧する声は大きい。
危惧される過履修
そこで強引に教科書内容を教え込むと、かつてのような「詰め込み」教育となって、むしろ新しい教育実現に反する結果になる。また、ベテランと新任教師等との間に指導格差が大きくなることも予想される。
東京都公立小学校のA校長は、新しい教科書は「教える側の主体性が非常に求められる教科書だと感じる」と一定の評価をしながら、「全てをなぞるように授業を展開するとオーバーフローというか、過履修になるのではないか」と危惧している。
過履修は結果的に未履修を生み出す恐れがある。過履修に対する教師たちの意識を高めるとともに、過履修と未履修にどのような手を打っていくのか、経営上の大きな課題になる。
こうした様々な課題を抱えながら、新教育課程の教科書対応は従来に比べて大きく転換することは確実である。
学校や教師は新教科書にどう対応すべきか、いくつかの方略をあげておく。
全員で教科書について話し合い
①新教科書を入手した段階で従来の教科書と内容を比較検討する。どこが新しくなったか、変わらない部分は何か、などを全校的に発表し合う。
②審議会『報告』では最後の部分で、従来の指導観を転換するために「個々の児童生徒の理解の程度に応じて指導を充実する」「児童生徒が興味関心を持って読み進められる」「児童生徒が家庭でも主体的に自学自習できる」といった観点で教科書を取り上げたい、と述べている。この趣旨を教科書対応に生かすことが大切である。
③また、審議会『報告』に示された提言項目は、基礎・基本の指導、活用の指導、学習意欲の向上策などに分けて読むことができる。教科書内容もまた自校の子どもの実態に応じてウエイトのかけ方を考える。すべて万遍なく教えることは不可能であるから、取捨選択の方略を創り出す。
④教科書内容の軽重の差、取捨選択、重点化について全員で話し合う。共通認識に基づいて教科書対応を考え、直ちに新年度の指導計画作成に入る。保護者にも新教育課程のあり方について十分説明し、理解を求める。教科書の扱い、家庭学習等についてよく説明する。
これからは教科書の扱いについての共通認識を進めながら、継続してその取り扱いを考えることが重要である。
学校経営の全体構想―新課程の趣旨をどう盛り込む
23年度は従来とは異なり、新教育課程となるため新たなビジョンが必要である。移行措置期間において準備してきたといっても、新教育課程への完全移行であるから、すべて見直して新たな確認のもとに学校経営を展開していきたい。新教育課程の理念などの実現に向けて、学校経営をどう構想するか、校長の力量が問われる。
教職員の共通認識を
新教育課程の趣旨を盛り込んだ学校経営構想の構築のため、3つのポイントについて考えてみたい。
(1)学校の教育目標・経営方針の見直し
学校経営には多様な目標・方針がある。例えば、「地域における自校のミッション」「学校の教育目標(目指す子ども像)」「年度(次)経営方針」「目指す学校像・教師像」「年度(次)研究目標」などである。
これらの全てを新年度で変えることはないが、主要な目標や方針については見直し、積極的に変えることが望ましい。特に校長の考えを示す学校経営のビジョンや方針は必ず変える。新教育課程の完全実施であるから、その趣旨を反映した新しい経営観の提案が必要である。
最近の校長は、経営方針を数ページにわたって記述し、具体的に示すことが多くなっている。形式的でマンネリ化した従来の形を改め、積極的・具体的に経営方針を伝えることで、それが教職員の共通認識・共通実践の土台となる。
(2)新教育課程の趣旨を経営ビジョンに生かす
新教育課程の趣旨は平成20年の中教審『答申』に示されている。その内容を十分確認したい。
まず、従来の教育課程の反省点として、①「生きる力」育成のコンセンサスが十分でなかった②子どもの自主性を尊重するあまり指導を躊躇する状況があった③各教科と総合的な学習との連携が十分でなかった④必修教科の授業時数が十分でなかった⑤家庭の教育力が低下するなかで、豊かな心や健やかな体の育成が十分でなかった――などがあげられている。
これらの点を学校教育でも十分踏まえる必要がある。中教審は、さらに7つの改訂ポイント(表②)と7つの改善事項(表③)を示している。新教育課程の趣旨としてきわめて重要な内容である。これらのポイントのいくつかは新しい教科書内容に示されているので、授業等でどう指導するか、具体的な指導重点等を示す必要がある。
むしろ校長として悩むのは次の7つの改善事項であろう。
これらを万遍なく指導することは不可能であるから、軽重の差をつけながら指導の重点化を図ることになる。そこで何をどう取捨選択するか、軽重の差をどうつけるか、重点的な取り扱いをどう行うか、などの経営判断が必要になる。
(3)校長の経営判断を支える2つの役割
校長の判断要素には2つの大きな働きがある。
1つは、外部経営としての経営判断である。
新教育課程の経営はまさに中教審答申が示す外部的要請に基づく、これからの教育実現を目指す方向としての学校への導入である。
もう1つは、子どもの実態、学校や地域の実態に即した望ましい教育実現である。
それぞれの学校は同じように新教育課程に基づく教育活動を実施するといっても、かなりの違いが見いだされることがある。校長はそのような自校の実態を勘案した教育課程経営を進める必要がある。また、学校の経営方針等は校長一人で独自に決められるものではない。教職員との意思疎通に基づく関係性が大切である。
ともあれ、新教育課程完全実施を迎えて何よりも校長のビジョンに基づく経営方針や、学校の年度(次)重点教育目標等の設定が重要である。学校の新たなチャレンジに期待したい。











