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社説

[H22年7月29日]

学級規模の引き下げ 教員資質向上策との連動を

 

文部科学相の諮問機関である中央教育審議会の初等中等教育分科会は7月12日、公立小・中学校の学級編制の標準を現行の40人から引き下げることを求める提言を正式にまとめた。
 わが国で近代的な学校が制度化されたのは明治5(1872)年の「学制」においてである。当初は、教授の基本的単位は年齢ではなく、知識・技術の習得程度―今日の言葉でいうならば学力―によって編制されていた。
 今日のように同一年齢の児童生徒で編制する学級が成立したのは、明治24(1891)年の文部省令「学級編制等ニ関スル規則ノ事」からであるが、その規模の上限は、尋常小学校は70人、高等小学校は60人が基準とされた。
 その後、昭和16(1941)年の国民学校令で、初等科60人、高等科50人に引き下げされ、第2次大戦後の昭和23(1948)年、小学校において同学年の児童で編制する学級の規模の標準は50人以下とされ、特別な事情がある場合には、複数の学年の児童を1学級に編制することもできるとされた。
 それから教職員定数の改善などは行われてきたが、現行の40人学級が完成したのは、平成3年度のことである。
 それからは加配定数などの拡充により、指導方法を工夫改善して個に応じた教育の展開を図るティーム・ティーチングや、20人程度の少人数指導・習熟度別指導などの導入によって指導効果の向上が図られてきたが、このほど学級規模の上限を40人から引き下げることを提言した理由としては、新学習指導要領で全教科での言語活動や体験活動が重視されたこと、生徒指導上の課題が深刻化していること、子どもと向き合う時間を確保すること、などがあげられている。
 提言が指摘しているように、ここ数年は厳しい財政状況を踏まえた行政改革の方針のため、新たな教職員定数改善が策定されていない状況が続いているが、教育基本法が定める教育の目的・理念・目標を実現するためにも、財政上の特別の配慮が必要であろう。
 学級規模をどの程度引き下げるかについて、提言は、具体的な数値は示さずに、文科省が定めることとしていることから、文科省では小学校第1・2学年は30人程度、それ以上の学年は35人を上限とすることを検討しているが、30人、35人が最善の学級規模であるとは限らない。
 文科省が行った「今後の学級編制及び教職員定数の在り方に関する意見募集」の集計結果(本紙7月1日号参照)によると、教職員が考える小・中学校での望ましい学級規模は「26〜30人」が最も多くなっているし、アメリカでは、学級規模の学力面での効果に関する様々な実証的研究によって、20人を下回らないと顕著な効果は得られないという分析も行われている。
 わが国でも、学力に関する諸調査について、学級規模の効果の面からきめの細かい分析が求められる。全数調査か抽出調査かという議論も、このような視点から行ってほしいものである。
 また、学級規模が引き下げられても、教師の指導力がそれに対応していなくては、効果は期待できない。中教審では、教職員の資質向上についても審議はされているが、学級規模の引き下げと関連させた論議は行われているようには思われない。縦割りの議論ではなく、もっと横断的に検討することを期待したい。


[H22年7月22日]

特別支援学校の意義 多様な教育を認めるべきだ

 

平成19年4月1日から始まった特別支援教育の制度が丸3年を経過し、4年目に入って、まだ十分とはいえないが、すべての学校に浸透しつつある。
 この時期に内閣府の「障がい者制度改革推進会議」が特別支援教育に重大な影響を及ぼす議論をし、今年6月7日に、障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第1次意見)を明らかにした。
 ここで最も心配されるのは、今後、最終報告の内容に沿って閣議決定することで、全省庁を拘束する予定になっていることである。
 同推進会議は、今年1月12日に第1回が開かれ、月2回のペースで議論してきている。国連の障害者権利条約の締結に必要な国内法の整備を行うというのが、その根本的な背景としてある。
 議論の分野は障害者基本法、差別禁止法、虐待防止法、自立支援法、教育・雇用・交通と情報アクセス、精神医療、所得保障、福祉経済予算の確保、障害の表記の在り方などである。
 教育の中身の項目としては、就学者決定の仕組み、合理的配慮の具体化、聴覚・視覚障害がある場合の教育、特別支援教育などとなっている。
 教育については、今年4月26日に開催された第9回の同推進会議で議論された。論議では特別支援教育に対して「分離」「差別」などという発言が多く、特別支援教育にかかわる者は、おそらく違和感をもって聞いたことであろう。
 特に、国の重大な教育の方向づけを考える会議としては、重大な懸念を持つ。この推進会議には、教育の専門家が参加していないのである。障害児教育の専門家もいない。現在の小学校はもとより、特別支援学校を見たこともない委員が大半である。見たこともない教育を文面だけで議論しているのである。どう考えても無茶であり、傲慢さを感じさえする。
 しかも、先に、思想、理念ありきの議論である。
 同推進会議は第1次意見の冒頭、問題意識として「障害者権利条約においては、あらゆる教育段階において、障害者にとってインクルーシブな教育制度を確保することが必要とされている」と述べている。権利条約に掲げられたインクルーシブ教育とは何かについては、専門家間でも意見が分かれており、明確な定義もされていない。
 このインクルーシブ教育は、94年の「特別なニーズ教育に関する世界会議(ユネスコ、スペイン政府共催)で採択されたサラマンカ声明で、国際的に認められている。この教育は、本来的にすべての子どもは、特別な教育的ニーズを有するものであるから、様々な子どもたちが学習集団に存在していることを前提としながら、学習計画や教育体制を最初から組み立て直そうとすることである。この考えに基づいて、特別支援教育の制度がスタートしたのである。
 確かに、すべての学校に特別支援教育が導入されたとはいえ、地域の通常学級においては、個別に計画されたカリキュラムの作成ができていない。むろん特別支援学校では、個別の教育計画、個別の指導計画が大部分の学校で作成され実施されている。
 果たして、すべての障害児が通常の学級で学ぶことが可能か。理念ではなく実際可能かどうかを検証すべきだ。特に、障害の重度・重複化・多様化が進んでいるとき、多様な教育を認めるべきである。
 今後とも、特別支援教育が実質的に充実するよう、推進する必要がある。


[H22年7月19日]

学校週5日制 見直しが始まるのか

 

平成14年度から実施の学校週5日制は時間の経過とともに制度の趣旨が家庭や地域社会から理解され、休日には子どもたちが親や地域の大人たちとともに過ごす状況が定着しつつある。
地域によっては学校と地域を結び付けるコーディネーターも活躍し、5日制の趣旨である子どもたちの体験を豊かにする活動も活発に行われている。  一方、土曜日を部活動の日としている中学校は多く、管理職をはじめ多くの教員は実質勤務状態にある。地区大会のシーズンともなれば、日曜日も指導に多くの教員がかかわっている。中学校では部活動を重要な教育活動としているとはいえ、教員の勤務や生徒指導に関する課題は多い。
 東京都教委の調査(本紙6月24日付既報)によれば、学期に1回程度の土曜日に授業を実施している小・中学校は8割以上だが、授業以外の教育活動の実施状況は不明だ。中学校関係者に聞くと、土曜日は部活動をはじめ一部の生徒を対象にした補習などの指導のため管理職をはじめ多くの教員が勤務状態にある。多くの中学校では、教育課程に位置づけられていない教育活動が、休日にも行われている実態がある。
 そんな実態を追認するように都教委は平成20年に「学校週5日制の下での土曜日の活用について」を発出し、一定条件下で土曜日の授業実施を可としている。「土曜日における授業の実施に係る留意点について(通知)」(平成22年1月14日)でも土曜日の授業実施を月2回まで認めている。なお通知は実施にあたり週休日を規定している条例などの変更にまで言及している。
 学校週5日制は中教審答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」(第一次答申、平成8年7月19日)で提唱されたもの。その趣旨は「子供たちや社会全体に[ゆとり]を確保する中で、学校・家庭・地域社会が相互に連携しつつ、子供たちに[生きる力]をはぐくむということを基本にして展開されていくべきだと考える」と指摘している。学校はこの答申に基づいて改訂された学習指導要領によって教育課程を編成し、実施してきた。完全学校週5日制実施当初は学校運営上の課題も見られたが、試行錯誤しながらも改善を加え、現在は学校・家庭・地域社会の連携による学校運営も順調に行われている。また学校評議員制度や学校関係者評価などの新しい制度も導入され、保護者や地域住民の学校教育への理解と協力は一段と進んでいる。地域によっては土・日曜日の連休を活用して自然体験活動が行われたり、卒業生や地域の方々による様々な体験活動が行われたりしている。
 平成10年版の学習指導要領で設けられた総合的な学習では、地域の方々が児童生徒の土・日曜日の学習活動に協力している状況が見られ、児童生徒にとっては教室では体験できない貴重な学習活動となっている。学校週5日制は、わが国の新しい学校文化を創りだしつつある。
 改正教育基本法をはじめ関係法規も、学校・家庭・地域の連携による児童生徒の体験活動の充実を訴えている。このようなときに土曜日の授業を認めることは、子どもの教育を再び学校に任せる動きとならないか危惧している。新学習指導要領では「確かな学力」をはぐくむため児童生徒の豊かな体験活動を重視している。いまこそ土・日曜日を活用したボランティア活動や自然体験活動などの一層の充実が重要となる。学校週5日制下で学校、家庭、地域社会の連携による児童生徒の「生きる力」をはぐくむ新しい教育施策を期待している。


[H22年7月15日]

小学校教育との接続を通して 乳幼児教育の重要性

 

これまで、どちらかというと軽んじられてきた感が強い幼児期と児童期の接続に、ようやく日の光が当てられようとしている。
 文部科学省が設置した「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方に関する調査研究協力者会議」が、6月30日の会議で第7回を迎えている。すでに各委員からその問題点や成果などに関する意見が、数多く出されている。
 これまでの会議から、「幼児期から小学校にかけて子どもたちが身に付けてほしい力」として出された意見は、次のような内容である。
 ○幼児教育から小学校に向けて、「学びの基礎力」を育てる必要がある。それは、何についても興味をもってかかわろうとする態度、集中する力、持続する力、目的を持って行動するために気持ちを調整する力、仲間と協働して目的を達成する力などである。
 ○幼児が小学校に入学したときに、文字が書けたり読めたり、数の理解ができたりするかどうかよりも、教員の話を座って聞けることが重要である。子どもたちに、聞く態度が備わっていないと、授業が進まない。
 ○幼児期の教育で、特に重視するのは、基本的な生活習慣を身に付けること、自分の思いが人に伝えられること、社会的な規範やルールがわかり、守れるようになること、人とかかわる力を育てることなどである。
 このほかにも様々な意見が出されているが、圧倒的に、小学校教育から幼児教育への注文で占められている。
 児童精神科医の佐々木正美川崎医療福祉大学特任教授は、子どもの発達を乳児期、幼児期、児童期、学童期、思春期に分類して検討した結果、その期の発達に応じて、心の成長に大きな違いが見られるのだという。
 例えば、乳幼児期では、周囲の人と一体感をもつ喜びを味わう。周囲の反応がよければ、情緒的な表現が豊かになり、自己形成が加速する。コミュニケーションの成立は、「自分を形成する」ためのプロセスの始まりで、豊かな自尊感情、自己評価の基礎となる。
 幼児期では、自分の衝動を抑制することができ、自律性が育つ。自己と他者の2つの役割が発生し、自分の中の「他者」形成によって、社会的人格が形成される。児童期(小学校低学年)では、自発的な探究心、両親からの仮想独立のほかに、自分の限界を知る時期ともなる。
 最近、各地で幼(保)小連絡協議会なども開かれるようになったが、幼児期と児童期という発達の違う各時期において、適切な教育や保育が行われてきたかとなると、疑わざるを得ない。
 その意味からも、東京都教委が、平成20年度から実施している「乳幼児からの子どもの教育支援プロジェクト」が注目される。近年の医学・脳科学の研究で明らかになってきた乳幼児期の発達の重要性を踏まえ、人間形成の基礎となる乳幼児期からの子どもの健やかな成長を支援する様々な施策(乳幼児教育の重要性を保護者に伝える事業、地域における家庭教育支援など)を展開している。
 全国の自治体がこうした事業を取り入れることはもとより、多くの幼・小教育関係者がこうした事業に参加し、幼・小の教育の円滑な接続に貢献してほしいものである。


[H22年7月12日]

教員の資質向上策 社会性を視野に入れ改革を

 

教員の資質能力の向上は、教職生活を続けていく限り、永遠の課題として受け止める必要はあるが、川端達夫文部科学大臣は6月3日、中央教育審議会総会にその「総合的な向上方策」について諮問した。
これを受けて中教審は6月29日、教員の資質向上特別部会を設置し、初会合を開いた。  諮問の内容は、(1)新たな教員養成・教員免許制度の在り方(2)教員の資質能力の向上を保証する仕組みの構築(3)教育委員会や大学などの関係機関や地域社会との組織的・継続的な連携・協働の仕組みづくり――の3つの柱からなる。
 6月3日の中教審総会では、各委員から「教員の資質向上」に関して多くの意見が出されたが、意外にも「教科の専門性を高めることは当然であるが、同時に多様化・複雑化する現代社会の家族や親子の問題に関心を持ちながら、個々の家庭、親、子どもの状況にどれだけ寄り添えるかが問われる」「指導法の開発に加えて、保護者の多様な要望、校務量の増大などがある。そういうなかで、教員が孤立しているのではないか。条件整備についても考える必要がある」など、保護者との在り方を視野に入れた資質向上策を求める意見が多かった。
 鈴木寛文部科学副大臣の肝いりで、この4月からスタートした同省初のウェブサイト「熟議カケアイ」は、学校・家庭・地域の教育現場の人の声を集め、教育政策に反映させようとの試みであるが、ここでも資質向上策に関心が集まった。
 特に、教員に身に付けてほしい能力としては、教員・学生が「実践力」、学者・研究者が「専門性」なのに対し、保護者は「社会性」を多くあげていた。
 このなかには、「社会性を身に付けていない教師が多い。教員にとって必要な社会性とは何か。また、教員養成段階で身に付けるべきものは何かを議論すべきだ」「民間経験者であっても、教員養成課程で多様な経験を積ませたとしても、社会性を審査する必要がある」「教員には、学校の社会から子どもたちを外に送り出す責務があり、教員だけの組織にこもるのではなく、最も社会性を求められる職業である」などがあった。
 これまで教員の資質向上策として求められてきたのは、プロとしての使命感や責任感、教育的な愛情、専門職としての高度な知識・経験である。それに、保護者や地域とのかかわりを求める「社会性」が追加されたのである。まさに、教師という職業の「厳しさ」は、想像以上のものがある。
 今日の学校や教員を取り巻く環境は、あえていえば最悪の状況下にあるとみるべきだ。文科省が「学校現場が抱える問題の状況」を平成18年度と20年度を比較したところ、「不登校児童生徒の割合」は小学校が1.9倍、中学校が2.3倍、「学校内での暴力行為の件数」は小学校が1.4倍、中学校が1.4倍に跳ね上がっている。「いじめの認知件数」は国公私立の小・中・高校合わせて約8万4000件(平成20年度)にも達している。指導が難しいとされる「日本語指導が必要な外国人児童数」「通級による指導を受けている児童生徒数」なども軒並み比率が上がっている。
 このような厳しい状況下で、教員に対しては、ただ単なる使命感や専門的な知識だけでなく、保護者や地域住民との連携という「社会性」を大事にすることを理解してもらう必要がある。そのためにも、国は定数の改善はもとより、教員の待遇面の改善を含めた条件整備に本腰を入れる必要があることを肝に銘じていただきたい。


[H22年7月5日]

「常用漢字表」の改訂 学校の漢字指導は慎重に

 

文化審議会はこのほど、「情報化時代に対応する漢字政策の在り方について」で、文部科学大臣の諮問(平成17年3月30日)に答えて、現行の常用漢字表から5字削除、196字を追加し、2136字からなる新たな「常用漢字表」を答申した。
 「常用漢字表」は、「法令・公用文書・新聞・雑誌・放送等、一般の社会生活で用いる場合の、効率的で共通性の高い漢字を収め、分かりやすく通じやすい文章を書き表すための漢字使用の目安」として、戦後、「国民の生活水準をあげ、文化水準を高める」べく制定された「当用漢字表」(昭和21年11月制定)に替えて、昭和56年10月に制定されたもので、今回は29年ぶり2回目の改訂ということになる。
 今回の諮問に際して文化審議会では、国語部会の中に「漢字小委員会」や「漢字小委員会ワーキンググループ」を設け、約5年間に100回近い真剣な討議を繰り返し重ねて答申に至ったと聞く。何をおいても、まずは委員各位の労を多としたい。
 さて、新たに盛り込まれた196字の中には「憂鬱」の「鬱」、「語彙」の「彙」、「軽蔑」の「蔑」など書くのに難しい漢字もあるが、これまで常用漢字表の中に固有名詞という理由で含まれてこなかった「茨城」の「茨」、「岡山」の「岡」、「埼玉」の「埼」などの都道府県名の漢字が例外措置として扱われるようになったのはパブリックコメントなどでも好評を得たようだ。
 ところで、本諮問、「情報化時代に対応する漢字政策の在り方について」は、(1)情報化の進展に伴う漢字使用の見直し(2)固有名詞の扱いについての基本的な考え方(3)漢字の習得および運用、手書きの重要性――の3点の検討を求めている。
 (1)と(2)の検討内容では、新聞など膨大な資料の調査結果に基づき、出現頻度や造語力、漢字仮名交じり文の「読み取りの効率性」を考えて追加漢字を選定するなど、周到かつ慎重に検討を重ね、適切な字種選定がなされ、パソコンや携帯電話などの急激な普及という今日の情報化社会における漢字使用の目安という役割を十分に果たすものといえる。ただ、検討課題の(3)漢字の習得および運用、手書きの重要性に関しては、情報機器の利用が今後一層日常化しても、「習得時に当たる小学校・中学校では、それぞれの年代に応じて書き取りの練習を行うことが必要」「書き取り練習の中で繰り返し漢字を手書きすることで、視覚、触覚、運動感覚など様々な感覚が複合されて漢字習得に大きく寄与する」と、漢字指導と手書きの重要性を述べるにとどまっている。それをどうするかは、「別途の教育上の適切な措置にゆだねる」として、明確な内容は示されてはいない。
 答申では、「すべての漢字を手書きできる必要はなく、それを求めるものでもない」とはしているものの、中学校卒業までに「常用漢字」がほぼ読め、高校在学中にほぼ書けることが期待されている学校現場にあってはそうはいかず、増えた196字の指導の在り方なども含め、大きな課題になることは間違いない。また小学校における学年別配当漢字も881字から996字、そして1006字と、時を経るごとに増えてきた経緯を考えれば、指導すべき漢字がさらに増えることも十分予想される。
 文科省は、専門家会議を設置し検討に着手するというが、増えた漢字をどう指導するかだけでなく、国語科教育における漢字指導の基本的な在り方そのものについても児童生徒の習得、使用状況なども含め、慎重かつ十分な検討と対応が求められよう。


[H22年7月1日]

非常勤講師 待遇改善など地位向上望む

 

教育についての今日的な課題は、ときどきの時代性もあって数多くある。
わけても、教育を支える教師については、その養成、免許制度、教職への採用、研修、人事異動、人事管理など、常に意識されるべきことから当然のことなのである。  近年、いわゆる団塊の世代の大量退職を迎えていることから新規採用が多くみられているが、その需要増への対応を適切に行い、計数的に過不足なく誤りなく処理し将来の教育効果を損なうことのないように期待できるか。なかなか難しい問題である。
 そのために、都道府県の担当者は苦しんでいる。例えば、某県の教員採用で1次合格したものの、2次で不合格となった者を特例として、1次試験免除で受験可能とする、東京都の場合である。しかし、量的拡大がみられる採用事情のもと、いろいろと配慮しても、なお配置上のひずみが生じている。教員定数のことが問題としてあるからである。
 また、教育制度上、少人数学級やチームティーチングが進められる中で、カリキュラムを編成実施する場合、定数枠では対応しきれない場合がある。このほか、特別な科目、例えば、小学校でのそろばんや中学校での武道のことなど、必修ではあるが、配当時間数が少なく、その担任が専任の教諭で、内容などのことから対応しきれないケースがある。この場合、非常勤講師に授業を依頼することになる。非常勤講師の起用の必要性は、このほかに、専任教諭の病欠、産休、育休の代替のなどで、任用の運びとなる。
 文部科学省の学校基本調査などによると、09年度の全国公立小・中学校の教員に占める非常勤講師は、約7万4000人(11.1%)で、05年度の約6万1000人(0.1%)と比べて増えている。
09年度の東京都の非常勤教師数は4619人で、全体の教員定数の7.4%に当たる。年々増加して、05年度と比べると744人の増加である。
 この非常勤講師の存在とその増加は、いろいろな問題を提起する。例えば、学校での時間割の作成上、講師の都合を優先させる場合がある。児童生徒のためであるべき点からみると問題がある。
 非常勤講師の多くは、専任教諭を目指して教員採用試験の合格を志す、いわば教職への就職活動中の人である。当然、教員免許状は持ってはいるが、学校での待遇は時間給であり、しかも、週当たりの上限もあり、採用期間も不足する場合がある。当然のことながら収入は不安定である。
 経験年数によって異なるが、時給は2000円前後が多く、しかも1日当たり数時間の場合がほとんどである。それは、教職の当然の業務としての教材準備、テストの作成・採点、さらに質問への個別の対応は無給であり、個人の良心・善意に期待することになる。
 また、病欠の場合の代替任用は、病気が治れば不要というように、働く期間も不安定な場合が多い。ときには、専任教諭よりも人望があり、子どもたちに頼りにされる人も多いが、待遇上、極めて不安定で、収入の格差が大きいことは極めて問題だ。
 専任・非常勤を問わず、子どもと親にとって教壇上の教師は皆同じで、「先生」なのである。同じ教育の同志なのである。
 報酬アップはもとより、勤務実績の評価から教員採用への優遇措置など、非常勤講師の地位向上対策は、教育の質向上にプラスすると考える。政策としての前進を望むものである。


[H22年6月28日]

指導要録の改善 指導と評価の一体化で

 

新学習指導要領が告示されてからかなりの時間が経過しているが、このたび新しい指導要録に関する通知が発出され、学校現場では「ようやく出たか」といった感じで受けとめている。
新しい学習指導要領の趣旨にそって各教科等の授業はすでに行われているが、学校現場では、授業や学習評価に関する新しい指針が欲しかった。   現行の指導要録の通知(平成13年4月)において、学習評価の充実を図るには「各学校で、指導と評価の一体化、評価方法の工夫改善、学校全体としての評価の取り組み」が重要であると指摘しているが、この通知による取り組みを十分に行ってきた学校は、どれほどあるだろうか。学習評価とは試験をすることであり、ペーパーテストを学習評価とする傾向が強く、“指導と評価の一体化”とはかけ離れた実態がある。
 また、中学校では、学習評価に関しても学校全体としての取り組みよりは、教科担当者に任せる傾向が強く、学校へのクレームも学習評価に関するものが多い。
 このたびの「指導要録の改善等に関する通知」(平成22年5月11日)には、「学習評価を通じて、学習指導の在り方を見直すことや個に応じた指導の充実を図ること、保護者や児童生徒に対して、学習評価に関する仕組み等について説明したり、評価結果の説明を充実したりするなどして学習評価に関する情報をより積極的に提供することも重要とされている」とある。
 学校現場が学習評価に関して当面している課題に対する適切な指摘である。
 新学習指導要領の総則では「生きる力」の基盤となる学力について「基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくむとともに、主体的に学習に取組む態度を養い、個性を生かす教育の充実に努めなければならない」と各教科等ではぐくむ学力観、学習指導の在り方を明瞭に示している。この学力観、学習指導観に基づいた授業への組織的な取り組みが、通知の趣旨に沿った学校運営といえる。そのためには、学習指導要領の総則の第1から第4の各項を十分に生かして教育課程を工夫し、授業の工夫改善に取り組むことになる。
 学習指導要領の趣旨に沿った授業と適切な学習評価を行うためには“指導と評価の一体化”を目指す取り組みが重要だが、授業改善には単に1単位時間の授業の在り方の検討だけでは十分ではない。学校における教育活動を組織として改善することが重要である。そこで、授業改善を視野に入れた教育課程の見直しが必要となる。
 例えば、知識・技能を習得するために観察・調査や習熟度別の授業を行うとすれば、1単位時間や時間割の弾力的な扱いが必要となるし、学力観、学習指導観、評価観について教師間の共通理解が何よりも大切である。そのためには、小・中学校でもシラバスの開発に組織的に取り組むことも考えられる。
 なお、学力観、学習指導観での共通理解を図るには、このたびの指導要録の通知と別紙5「各教科等・各学年等の評価の観点等及びその趣旨」を活用したい。別紙5では、各教科等の目標・内容にかかわって評価の観点およびその趣旨が示され、各教科等ではぐくむ学力をどうとらえ、どう指導すべきかについて読み取ることができる。
 指導要録の通知による適切な学習評価への取り組みには“指導と評価の一体化”を図る授業の成立に向けた組織的な対応が必要であり、学校運営の大きな課題である。


[H22年6月24日]

「文化国家」の構築 文化省の創設で実現を

 

さほど大きなニュースとして扱われなかったが、わが国が“一流国”になるかどうかの分岐点ともいえる、極めて重要な動きがあった。
それは、6月7日に開かれた文化審議会の総会に、文化政策部会が提出した「文化芸術の振興のための基本的施策の在り方について」と題する「審議経過報告」である。  文化審議会とは、文部科学大臣と文化庁長官の諮問機関で、今後の文化政策を構築する上で、最も影響力のある機関であることはいうまでもない。「審議経過報告」からその内容をざっと紹介しよう。
 注目したいのは「文化芸術振興の基本理念」についての考え方である。
 そこでは、「グローバル化が進展する今日にあって、他国に誇る自国の文化芸術を持つことは、私たち一人ひとりにとって何物にも代え難い心のよりどころとなる」と、ごく常識的な記述がなされているが、重要なのは、その後段で、「あらゆる領域で創造性が重視される国際社会において、文化芸術の振興は持続的な経済発展や国際協力の円滑化の基盤となるものであり、わが国の国力を高めるものとして、文化芸術を位置付けておかなければならない」と指摘していることである。
「審議経過報告」では、さらに続けて「経済面での国際競争の陰に隠れ、文化発信面で国際社会に遅れをとってはならない。そのためには、国による文化芸術の振興を総合的に推進する必要がある」として、「文化省の創設」を明記している。
日本での「文化省の創設」は、フランスの文化省の影響を受けて、何度か取り沙汰された経緯はあるが、政府の審議機関で取り上げられたのは初めてであり、その意味でも画期的である。
 その上で、「審議経過報告」では、「新たな創造的人材の育成は必須の条件であるが、その流出すら懸念される危機的状況の中、文化政策は短期的なコスト削減・効率重視といったものであってはならない。『文化は国家なり』の理念の下、私たちは今こそ新たな『文化芸術国家』の実現を目指すべきである」と提言している。
 この提言の基本的な考え方に賛成であり、「文化省」の創設を支持したい。省への格上げが莫大な財源を必要とするなどの理由で、実現を危ぶむ声も強いが、「文化芸術の振興は持続的な経済発展につながる」という論拠を後ろ盾に、ぜひとも実現を図ってもらいたい。
 フランスの文化予算の増加が経済効果の上で大きな影響を与えているという点については、文化審議会の委員からも示されている。また、他の委員からは、フランスでは日本の約4倍の4000億円が文化芸術予算に使われているとも報告されている。
 古くは、ルネサンス期のイタリア・フィレンツェで実質的な支配者として君臨したメディチ家が経済的に発展したのは、1つには、文化芸術、学問を尊重し、奨励したことによるとされている。
 ちなみに、「審議経過報告」では、「文化芸術立国」を目指して、(1)文化芸術支援の在り方の抜本的見直し(2)文化芸術を創造し、支える人材の充実(3)子ども・若者向け施策の充実(4)文化財の修理など次世代への確実な継承(5)観光・地域振興等への活用(6)文化発信・国際交流の充実――の6つの重点戦略を打ち出している。
 同審議会は、今後、国民の声を聞いた上で、答申を予定しているが、より強烈に「文化国家」のシナリオを描いてもらいたい。


[H22年6月21日]

エコスクール 事例集作成を機に推進を

 

文部科学省は5月28日に、「すべての学校でエコスクールづくりを目指して―既存学校施設のエコスクール化のための事例集」を作成した。
 この背景には、わが国が昨年12月にデンマークのコペンハーゲンで、地球温暖化対策での温室効果ガス排出量を2020年(平成32年)までに、90年比で25%削減する目標を掲げており、低炭素社会の実現に向けた取り組みが求められているからである。
 08年の日本の温室効果ガス排出量は、京都議定書の基準年(90年)比で、1.9%上回っている。このことは、産業部門だけでなく、排出量の伸びの著しい業務その他の部門(学校も含む)や家庭部門の対策の強化が必要とされていることを意味する。
 このような中で、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(08年5月改正)で、事業者単位のエネルギー管理業務の導入により、教育委員会単位での定期報告や中長期計画書の提出が義務化されるとともに、中小規模の建築物(300〜2000平方メートル)も、省エネルギー措置の届出義務の対象となった。
 さらに、「地球温暖化対策の推進に関する法律」(08年6月改正)で、区域全体の温室効果ガス削減計画について、都道府県、政令市、中核市、特例市には策定の義務化、その他の市町村には努力義務が課せられた。
 そういう経過の中で、文部科学省は平成19年度に、今後のエコスクールの推進方策について、有識者会議で検討することとして、学校施設を取り巻く状況の変化、学校施設の最新エネルギーの消費実態、エネルギー消費の長期的展望などの観点から調査研究を実施した。
 平成21年3月に、その成果が取りまとめられ、地球温暖化対策をはじめとする環境問題に、より一層対応していくため、今後は、すべての学校がエコスクール化を目指すことが重要であるとし、その推進のための3つの視点と4つの方策が次のように示された。
 ○視点1・既存学校施設の「エコスクール」づくりを一層推進
 ○視点2・ベンチマークを活用した効率的な施設運営
 ○視点3・省エネ対策、省CO2対策の実施と同時に、教育環境の質的改善
 ○方策1・エコスクールの教材化、校内省エネ活動の実践
 ○方策2・省エネルギー効果などの可視化
 ○方策3・重点的なエネルギー利用効率化
 ○方策4・太陽光発電など再生可能エネルギーの導入
 これらを実現するため、同省では、エコスクール化を効果的に進められるように、整備事業に取り組む際の基本的な考え方や手順、先進的な取組事例の調査研究を行い、事例集としてまとめたものである。
 現在、公立小・中学校施設は、建築後20年以上を経過した建物が全体の8割あるといわれている。このため、今後、耐震補強、新築・改築する際、エコスクールづくりの推進が重要になってくる。
 エコスクールづくりをきっかけに、すべての学校が“草の根”の立場で「エコ化」に取り組んでほしい。校内照明のこまめな消灯、冷暖房の温度調整はもとより、リサイクル活動などの徹底に取り組んでほしい。地球温暖化防止のためにもエコスクールづくりを推進しようではないか。


[H22年6月17日]

教職のあり方を総合的に 人事評価をめぐる判決

 

法律に定める学校は、公の性格を持つものとされ、教員は、全体の奉仕者たるべく規定される。
その身分の法的性格も基本法上、明らかである。これが教員の身分・給与について、公平明瞭の原則が求められるゆえんである。  最近の都の教職における職務区分・階層性は、それぞれの給与上、成果主義的なものであるが、給与の本来の意義は、それぞれの生活の原資であり、教員としてのそれは、教育生産のエネルギーとして評価されるべきものである。
 最近、教諭からの昇給延期措置の取り消しを求めた訴訟で、取り消しを認め、かつ慰謝料請求を許す表決があった。5月13日のことである。
 昇給の延期は、当然ボーナスにも影響するし、場合によっては、退職手当やひいては年金にまで及ぶ関心事となる。人事管理上、また、教員個人にとっても重要な問題である。
 さて、判決に至るまでの当事者の主張の詳細は明らかではないが、新聞報道でみる限り、昇給延期措置が取り消されたのは、延期の評価の根拠としての、管理職による授業観察が2回と少なく、授業の進め方を問題視するには材料不足、人事評価は不当であったということが主因のようである。人事評価のあり方の指針として関心を持つべきことと考える。
 しからば、授業評価の基準としての観察は、何回ならば妥当であるのか疑いがあるが、それは、レジュメとの相関の上で考えられるべきであるし、観察するまでの日ごろの人間関係やコミュニケーションを通して概括されるべきであろう。
 また、評定がAからDまであるとのことだが、この評定に至るまでには、本来、自己申告に基づく評価と管理職との懇談の中に求められるべきものであることが求められる。
 その意味で、相対評価であってはならず、本人も納得できる絶対評価というべき評定であるべきものと考える。したがって、ときには本人からの開示請求にも応ずる用意があるべきものと考える。
 聞くところによると、相対評定数が甘く、Cなどをつけないことの繰り返しがなされると、管理職その人への評価も低くなるという。
 これが事実ならば、評価の大原則の公平性、さらに給与に反映されて、教育的向上心、動機づけについての期待が裏切られてしまうことになる。教育の機能の重要性に注目しないあり方とされよう。
 授業を含めた教員の人事評価は、日ごろの時間的規制の中から、まず第一歩としての遅刻・欠席の有無、チャイムが鳴ると同時に教室に出向くか(入っているか)が大事である。 
 また、生徒との間で好ましく人格の相互作用が営まれているか、生徒に感動を与え得る授業を心がけて、その継続と反省がなされているかである。
 さらに、その反省、自己評価を踏まえて常に止揚の心を持ち続ける毎日であるのかどうかなど、教職のあり方そのものに及んで、総合的に日常的・継続的に評定されてしかるべきであろう。
 客観は主観の共通というが、管理職の偏った主観的な評価は、自戒すべきことである。
 その評価することの“恐れ”を常に胸に秘め、人事評価が明日の教育機能を高めるべき期待を支える信頼の証となってほしいものである。


[H22年6月14日]

各学校での実践に期待 コミュニケーション力

 

5月26日に、鈴木寛文部科学副大臣の強い肝いりで設置された「コミュニケーション教育推進会議」は、今後の教育の在り方を考える上で、大変興味深い施策といえる。
 昨今、人間関係を円滑にする「コミュニケーション力」の低下が指摘されている。小・中学生はもとより、高校生、大学生になっても、対人関係がうまくいかないという調査結果もある。
 文部科学省の調査でも、約2割の高校生が「人間関係がうまく保てない」との理由で、高校中退を余儀なくされている現実がある。
 また、日本経済団体連合会が今年3月卒業の新入社員の採用時に、会社の担当者に「選考に当たって特に重視した点」を聞いたところ、実に約8割の会社が「コミュニケーション能力」をあげていた。
 これらの調査結果は、コミュニケーション能力がいかに欠如しているかを示したものである。
 子どもたちのコミュニケーション能力の欠如については、文部科学省の各種答申、報告などでも指摘されている。平成20年1月の中教審答申(学習指導要領の改善)では、「友だちや仲間のことで悩む子どもが増えるなど、人間関係の形成が困難か不得手になっている」としている。
 また、今年5月の同審議会キャリア教育・職業教育特別部会の第二次審議経過報告でも、「コミュニケーション能力、対人関係能力など、職業人としての基本的な能力が低下している」などと、率直に認めている。
 このため、新学習指導要領では、「言語活動」を充実させることによって、コミュニケーション力を高めることに力を注いでいる。
 また、文化庁でも、今年度の予算で「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」と題する事業(2億円)を始める。芸術家による、小・中・高校生への演劇、ダンスなどの実技指導などを通して、コミュニケーション力を高めようというものだ。
 これに呼応して、文科省初等中等教育局でも、今年度予算(1000万円)で演劇、ダンスなどの芸術表現を用いた学習プログラムの開発に着手する。
 鈴木副大臣によると、これら「言語活動」と「表現活動」を通して、最終的には、子どもたちのやる気、すなわち、「学習意欲」を向上させることを目指しているとのことである。
 これらの考え方を先取りした実践としては、東京都杉並区立富士見が丘小学校がコミュニケーション専科の教員を配置して、演劇、国語、英語などを通してコミュニケーション力をつける試みをしているが、全国的には珍しい実践とみられている。
 ただ、海外では、アートを通したコミュニケーション教育が盛んである。吉本光宏ニッセイ基礎研究所室長の調査によると、アート教育は、イギリス、アメリカ、フランス、韓国などで盛んに行われているという。
 例えば、フランスでは、「小・中学生を対象に、アーティスト1人、教師1人をパートナーとして、演劇実技の授業を年間50時間行うものと、高校を対象に、演劇理論やワークシップ形式の授業を週7時間行う」とのことだ。
 コミュニケーション力の向上が求められている日本の学校教育でも、実りある実践を通して、「言語活動」と「表現活動」の充実を期してもらいたい。


[H22年6月7日]

「当事者意識」を持てるか 「熟議」への期待と危惧

 

本紙4月29日号の1面では、文部科学省が4月17日に行った「熟議に基づく教育政策シンポジウム」の様子を詳しく報じている。
 「熟議」とは聞き慣れない言葉であるが、文科省によれば、「多くの当事者による『熟慮』と『討議』を重ねながら政策決定に結び付ける手法」で、民意を政策に反映させる仕組みとして、90年代に米国の公共政策の分野で広まった考え方だという。
 当日は、約200人の小・中学校の教師らが参加して、「小・中学校をよりよくするにはどうすればよいか」をテーマに、いくつかのグループに分かれて、熱心な討議が行われた。
 また、このシンポジウムと併行して、同省は、同日、Webサイト文科省政策創造エンジンを立ち上げ、教育にかかわるあらゆる当事者(教職員、教育政策関係者、保護者、学校支援ボランティアなど)が、会員登録をして熟議に参加できるシステムを稼働し始めたという。
 この「熟議カケアイ」は、(1)政務三役からWebサイトの掲示板に政策課題についての質問を投げかける(2)参加者がそれぞれの意見を投稿する(3)投稿された意見を踏まえ、Webサイトの掲示板上で、参加者間で議論、すなわち「熟議」が行われる(4)政務三役は、寄せられた「熟議」に基づいた意見を参考に政策決定につなげるというもの、スタートのテーマは「教員の資質向上」で、近く意見を集約するという。
 鈴木寛副大臣は、会議の席上、この試みについて、「教育現場の意見と中教審などの専門家などの提言との“双発的な改革案”が期待できる」と述べた。こうした、現場の声が教育政策に直接つながるシステムは、これまで公聴会やパブリックコメント以外にはなかったことを考えると、極めて画期的でユニークな試みといえよう。 「熟議」や「熟議カケアイ」を通して、現場の声が教育政策に反映されることを大いに期待したいところである。
 しかし、そうはいうものの、危惧されることもいくつかある。その最も大きな危惧は、民意こそ大切と言いつつ、真の民意、すなわち学校現場での教職員、子どもたち、保護者や教育委員会などの意見や思い、考えが本当に反映できるシステムになっているのかどうかということである。
例えば、ネット上での議論は、フェイス・トゥー・フェイスではなく、責任も問われないこともあって、意見のごり押しや感情的な意見のぶつけ合いに終始し、建設的な結論の出ないまま終わることが多い。
 文科省Webサイト「熟議カケアイ」は、そのようなことにならないために、どのようにして、参加者が当事者意識を持って責任ある発言をする仕組みを創り上げようとしているのか明確には見えてこない。
また、これまで文部科学省をはじめ、都道府県教委や市区町村教委、中教審などの諸会議、さらには、各校長会などの各教育関係諸団体が連携協力しながら、その責任においてそれぞれの立場や民意を代表して、様々な教育政策立案に関与してきたが、そうした教育政策立案システムと今回発足した「熟議」と「熟議カケアイ」はどうかかわり合うのかなど、課題は多い。
 文科省では、初めての試みであり、出てくるであろう様々な課題に対しては、恐らく「走りながら考える」ということなのであろうが、立ち上げた以上、当事者意識をもった熟議を通して、教育関係者の民意がより反映できる意義ある政策立案システムとなるよう一層の努力を期待したい。


[H22年6月3日]

衰退する農業と自給率 職業としての価値観高めよ

 

ギリシャの財政破たんの危機を、国の規模が違うとはいえ、日本も対岸の火事と高を括っている訳にいかなくなってきたようだ。
オリーブの輸出で知られるギリシャは、農業国でありながら、小麦やトウモロコシなど主食の食料自給ができない国だ。  かつて農業国だった日本は、明治維新の富国強兵政策と、第2次世界大戦の戦後復興政策により、一大工業国に変身し、工業偏重(農業軽視)の頭でっかちの国へと成り上がった。戦後の高度経済成長期の65年でも、日本の食料自給率は73%(カロリーベース)と高かった。それがいまは41%にとどまる。
 それにもかかわらず、私たちの「食」への関心は、日常の豊かな食生活に向いていて、食を支える肝心な農業と農村の再生問題には希薄である。国力があり、お金があれば、食料は輸入に頼れるが、国力が落ち、お金がなければ、食料は輸入したくてもできないのが、世界の実情だ。国力が低下し始めた日本が、その轍を踏まないという保証はない。
 欧米主要国のように、バランスのとれた国力と市民社会を維持するためには、食料の自給率の向上が必要である。
 日本の農業は衰退の一途をたどっている。90年度から15年間に、生産額は6.1兆円から3.2兆円に半減し、就業者は昭和ひとけた世代が過半数を占めるほど高齢化した。また、農地は、ピーク時(61年度)の609万ヘクタールから463万ヘクタール(06年度)に急減した。東京ドームの4280個分が毎年減っている(農水省の『農林水産業の将来ビジョン』)。
 焦眉の課題は、農業の担い手(後継者)を増やすことだが、若い世代の関心は低い。
 例えば、文部科学省が所轄する専修学校は全国に約3350校あり、約62万5000人の生徒が学ぶ。専修学校を8つの分野・課程別に分けると、生徒数が最も多いのが医療関係で、全体の3分の1を占める。2位が文化・教養関係(22.5%)、3位が工業関係(12.9%)。以下、衛生、商業実務、さらに教育社会福祉、服飾家政関係と続く。農業関係は最下位の8位で、わずか0.6%に過ぎない。
 また、道府県に設置されている約40校の農業大学校のうち、約80%で定員割れが恒常化し、すでに旧政権下で改廃に関する勧告が行われている。
 農林水産省は今年3月、「食料・農業・農村基本計画」を策定し、2020年度までに食料自給率50%を達成するために、農村を国民全体で支える社会を創造する目標を掲げた。
 その中で、農水省は農業の新しい担い手の参入を促進し、育成するため、道府県の農業大学校で職業訓練や生産技術の専門研修を実施する対策を打ち出した。
 千葉県茂原市に住む坂本祐一さん(40)は、酒類販売の自営業をやめ、同県の農業大学校で昨年6カ月間、研修と実技を重ね、長年の夢だった農業に転身した。奥さんも「食べていければ、やりたいことをすればいい」と応援している。近郊に借り受けた休耕地の55アールの田んぼに、坂本さんは今年4月半ば、水を張り、1週間かけてレンコンの種を植え付けた。今年は天候不順でレンコンの成長は遅れ気味だが、8月上旬の収穫が待ち遠しく、胸が躍る。
 農業を担う若者を増やすには、生計が立つよう所得を保証し、職業としての農業の価値観を高めることだ。それには行政全体の政策連携をもっと強化する必要がある。


[H22年5月31日]

校内研修の充実 移行期間中の大きな課題だ

 

1学期の学校生活も半ばを迎え、どの学校でも子どもたちの元気な声が聞かれ、活気のある充実した教育活動が行われている様子がうかがえる。
 新学習指導要領による学校教育が小学校で来年度、中学校で再来年から完全実施される。今回の学習指導要領の改訂は、教育基本法、学校教育法などの関係法規の改正および中央教育審議会答申(平成20年1月)を踏まえて実施された。答申からは今回の改訂が国際的な学力調査(OECDのPISAとIEAのTIMSS)の結果を踏まえて行われたことが読み取れる。
 新学習指導要領は、国際的な見地からわが国の教育の在り様を見据えた改訂で、わが国の威信をかけた改訂ともいえる。こうした国の態度は、新学習指導要領が全国の小・中学校のすべての教員に配布されていることからもうかがえる。
 新学習指導要領による教育活動は、移行措置によってすでに実施されている。全国連合小学校長会、全日本中学校長会は、移行措置による学校運営上の課題に関する調査結果を公表している。
 全連小調査では、教育課程編成上の課題として外国語活動の指導に関することが最も多く、次いで言語活動の指導、総合的な学習の時間や道徳の指導に関する課題などが上位を占めていた。
 全日中調査では、数学・理科の授業時間の増への対応として選択の時間や総合的な学習の時間を充てるなどの措置をしている状況がとらえられる。しかし、他の教科に関しては移行措置による先行的な取り組みは、ほとんど実施されていない。
 各学校の教育活動を組織的・計画的に行うためには教育課程の編成・実施に関する教職員一人ひとりの当事者意識が肝心だ。
 国レベルの教育課程は学習指導要領で明確に示されており、学校レベルの教育課程は教職員の合議を経て作成されているが、教室レベルの教育課程、つまり教師一人ひとりが新学習指導要領の示す趣旨にそった授業に取り組んでいるか、まだ十分とはいえない状況が見られる。
 今回の学習指導要領の改訂では学力問題が大きく扱われている。学校教育法第30条には、小学校(中学校)教育の目標として「基礎的な知識及び技能を習得するとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的な学習に取り組める態度を養うことに、特に意を用いなければならない」と学力に関する規定が新たに設定され、新学習指導要領の総則にも明示されている。ある家庭学習用の教材勢作会社が小・中の授業の実態に関して調査したところ、小テストや問題集を使った知識伝達型の授業が増えているとのことである。
 先の全連小・全日中の調査では、学校としての新学習指導要領への取り組みを取り上げているが、これからは教室レベルの教育課程、教師一人ひとりが新学習指導要領に示す趣旨を実現する授業への取り組みが必要となる。各教科における基礎的・基本的な知識・技能とは何か、また、それを確実に習得させ、活用する授業をどのように組み立て、実践したらいいのか。「確かな学力」をはぐくむ授業についての研修、授業の工夫改善に向けた校内研修の一層の充実が、残された移行期間中に取り組むべき課題である。
 もう時間的な余裕はない。新学習指導要領に示す理念がすべての学校、すべての教室で実現される具体的な教育活動の展開を切に願っている。


[H22年5月27日]

年長フリーターを防げ 定年教員の求人開拓も

 

パートやアルバイトで生活する25〜34歳の世代のことを年長フリーターと呼ぶ。
 結婚困難世代となり得るし、少子化の遠因をも形成することから、日本の国力という点で大きな問題になっている。
 最近、ギリシャの経済危機が叫ばれ、そのデフォルト(債務不履行)の不安がグローバル経済の弱点をつくものとして、世界的に波紋を起こしている。
 ギリシャ発行の国債への投資が世界規模で行われており、その取り立て不能、あるいは、大幅な債務免除を余儀なくされるとの予想が、かのリーマンショックの再来として、大きく問題視されているのである。当然、わが国にも直接的な影響があり得る事件である。
 そのような世界的な流れの心配もさることながら、わが国独自の問題として、当今のデフレ状況のもと、例えば、経済効果の少ない選挙至上主義政策としての財源なきばらまき政策や、財政再建の処方箋を示さないまま、ギリシャの数倍もの国としての負債を抱え、なお来年以降の一層の増大が予想される借金増財政は、子ども手当の満額支給などから確実視されている。ギリシャのデフォルトが対岸の火災視できない不安となっているのだ。
 現在の国民の最大の不満は、「経済的ゆとりと先行きの見通しの立たない毎日のこと」といわれる。それは、迷走ともいえる米軍の基地問題に象徴されている。
 働きたい人に仕事が用意され、それぞれが自ら生活設計を立て、やがて家族を築き、団らんの日々の可能性にこそ、ささやかな人間的な夢があるといえよう。
 ところが、フリーター(15〜34歳)は、09年に前年比8万人増の178万人で、このうち、年長フリーターが4万人増の91万人に達するという総務省の調査がある。
就職氷河期の再来といわれる当今の就職戦線。今年の1月末時点で、就職希望の高校生の18.9%、約3万人が内定できずじまいで、そのまま卒業した人も多いのである。年長フリーターの予備軍というわけである。
 これは、高校教育上、大問題であり、社会問題でもある。
 高校生の就職活動は、従来からハローワーク経由ではなく、学校単位の場合が多い。そこで、進路指導の大切さ、あり方が今日の就職事情上、問われることになり、その進路指導は、卒業後の指導、つまり追指導やフォローアップに及ぶべきことが強く望まれることになる。
 さて、年長フリーターたることを防ぐべく、高校教育としていかにあるべきか。
 高校でのキャリアガイダンスが卒業後にも及ぶべき計画と組織づくりを第一歩とするが、行政への就職支援を校長会などを通して、強く望むことが第二のことである。 例えば、定年教員の求人開拓や面接のあり方の指導などを含めた就職指導員としての再雇用などが考えられる。若者の夢を育てる援助員としての関与である。
 もちろん、最近の雇用事情の実態を踏まえて、その改善のため実効ある政策への要望、それは、大衆迎合の思いつきの安請け合いではないものでありたいが、教育界からも声をあげるべきだと考える。
 学校の進路指導の在り方が生徒の夢づくりと、その実現のためのサポートとして計画され、目標具現化の方法そのものとして作用するよう、心を新たにするときである。政府には、国民一人ひとりのスキルアップにつながる教育への支援を強く望みたい。


[H22年5月24日]

特別支援教育の整備 教員の資質向上に力を

 

文部科学省は4月13日に、平成21年度特別支援教育体制整備等状況調査結果を公表した。
これは国公私立の幼稚園、小学校、中学校、高等学校および中等教育学校を対象に、(1)校内委員会の設置状況、開催回数(2)実態把握の実施状況(3)特別支援教育コーディネーターの指名、連絡調整等の実施状況(4)個別の指導計画の作成状況(5)個別の教育支援計画の作成状況(6)巡回指導員の活用状況(7)専門家チームの活用状況(8)特別支援教育に関する教員研修の受講状況と併せて通級による指導――の調査の結果をまとめたもの。  それによると、平成20年度と比較して、全体的に小・中学校については、体制整備が進んでいるが、幼稚園と高校では、依然として体制整備に遅れがみられる。
 特に、特別支援教育の新たな教育・支援対象になった発達障害のLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、知的遅れのない自閉症(高機能自閉症、アスペルガー症候群)の教育・支援が社会問題になっているとき、幼児から大学までの一貫した教育・支援が重要である。そのためにも、幼稚園、高校の体制整備の遅れの解消に、緊急に取り組む必要がある。
 項目別に問題点をみていこう。
 (1)校内委員会の設置状況、開催回数については、全体で80%強の学校で実施されているが、特に、幼稚園の47%が低くなっている。回数3回以上が全体の50%を超えているが、3回未満が47%あり、設置されてはいるものの、機能していないことが推察される。3回以上実施していても、内容がどうかを問う必要がある。
 校長のリーダーシップのもとで、全校的な支援体制を確立し、障害のある幼児児童生徒の実態把握、支援方策などを行う必要がある。学校の中には、校長が自分の言いたいことを言って、会議の途中で退席してしまい、校内委員会が十分に機能していない例があると聞く。校内委員会が中心的な役割を果たすべく努力する必要がある。
 (2)実態把握の実施状況については、全体で 91%の学校で行われ、他の項目に比べて、幼稚園の実施率が私立も含めて高い。これは、各学校の実態把握がほぼなされていると考えてよい。
 (3)特別支援教育コーディネーターの指名・連絡調整等の実施状況は、全体で80%強の学校で行われているが、やはり幼稚園(53%)と高校(75%強)は遅れている。コーディネーターは、校長が指名し、校務分掌に明確に位置づけることになっており、校内委員会の企画・運営、関係諸機関・学校との連絡・調整、保護者からの相談窓口などの役割を担い、学校において組織的に機能する要となっている。指名していない学校は、即急に指名し、機能するようにすべきである。むろん、指名していても、すべてコーディネーターに丸投げすることなく、学校全体で支援することが大切である。
 (4)全体で、個別の指導計画の作成は62%であるが、個別の教育支援計画の作成は44%と低く、体制整備は進んできていても、教育・支援の中身は十分でないことを示している。
 同じ結果報告でも、障害のある児童生徒一人ひとりに対する支援の質を一層充実させることが課題と述べられており、その推進が今後の特別支援教育の重要な点である。そのためには、教員の資質向上を図るべく、研修が全体として54%では心細い。教員の資質向上策に力を入れる必要がある。


[H22年5月17日]

国際成人力調査 期待される学校教育分野

 

教育に関する新たな国際調査が実施されることになった。
 それはPIAAC(ピアック)と通称される「国際成人力調査」で、実施機関はPISAと同じOECDである。
 PISAは15歳の生徒を対象とすることが原則であるが、PIAACの対象は16歳以上65歳以下の男女である。調査は今年度に予備調査をして平成23年度に本調査が実施される予定になっている。
 この調査でいう「成人力」とは、「課題をみつけて、考える力や、知識や情報を活用して課題を解決する力など、実社会で生きていく上での総合的な力」のことで、日常生活の様々な場面で、文章や図などの形で提供される情報を理解し、課題の解決に活用する力が測定される。
 具体的には、「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」の3分野について問題が構成される。あわせて、学歴、職歴、収入、学習状況など、調査対象者の属性についても行われる。
 このような調査を行う目的としては、以下のような4点があげられている。
 (1)各国の成人が「成人力」をどの程度持っているかを把握する。
 (2)「成人力」の程度が、個人の生き方に対してどのような影響を与えるのか、また、国の経済成長など社会全体にどの程度影響するかを検証する。
 (3)現在の教育訓練の制度が、「成人力」を身につける上でどの程度の効果をあげているかを検証する。
 (4)学校教育、生涯学習や職業訓練などの分野でどのような政策的な工夫をすることが「成人力」の向上につながるのかを明確にする。
 調査結果が公表されるのは平成25年度になるようであるが、得られた情報は、企業内訓練や職場外での職業訓練、様々な機関での成人教育、学校教育など、幅広い分野で「成人力」を高めるためのより効果的な政策的立案に活用するとされている。
 OECDには現在、30カ国が加盟しているが、PIAACにはロシアなど非加盟国4カ国を含む27カ国が参加することになっている。
 アジアでは、日本と韓国が参加するが、日本では、文部科学省の国立教育政策研究所が責任機関となって調査が実施される。住民基本台帳から無作為に抽出された、日本国在住の対象年齢層に対して調査が行われることになっているが、郵送法で実施されるのではなく、対象者として選ばれた人には、調査協力をお願いする文書を送付し、その後、専門の訓練を受けた調査員が自宅を訪問し、調査日時を決め、希望により、自宅または自宅外で調査対象者と一対一の対面で行なわれるという。
 未成年の対象者の場合については、保護者の同意を受けた上で実施される。調査結果はすべて「統計」として集計され、個人が特定される形で結果が公表されることはなく、あくまでも政策立案に活用されることが基本となっている。
 このような方法、配慮などのもとで公的に実施される調査は、初めてのことで、適切な分析、それに基づく適切な活用が期待される。特に、これまで義務教育段階で実施されている国際あるいは国内の様々な学力調査の結果との関連についての追跡的分析を行うことが重要であろう。


[H22年5月13日]

子育て検討会議 基本はあくまで「家庭」に

 

「子ども手当」の支給とともに、いま注目されているのは、どのように子育ての支援策を構築するかだ。
具体的には、保育所の増設、待機児童の解消、学童保育の拡充などで、これは、3党連立政権の合意事項でもある。  政府は今年1月に、「子ども・子育て新システム検討会」を立ち上げ、3〜4月にかけて有識者によるヒアリングを行い、第1回の検討会議(共同議長・国家戦略担当大臣、内閣府特命担当大臣(少子化対策、行政刷新)の3人)を4月27日に開き、基本的な方向について議論した。
 この検討会議は、明日の安心と成長のための緊急経済対策(平成21年12月8日閣議決定)、新成長戦略(平成21年12月30日閣議決定)、子ども・子育てビジョン(平成22年1月29日閣議決定)などを受けて設置されたもので、その目的は、「幼保一体化などを含む新たな次世代育成の支援策」を構築しようというもの。新しい制度は、この6月にも基本的な方向を固め、平成23年通常国会までに所要法案を提出することにしている。
 検討会議が示した「子ども・子育て新システムの基本的方向(案)」によると、「子ども・子育てを社会全体で支援する」という前提に立ち、「家庭に必要なサービスを提供」「多様な保育サービスの提供」など、サービス面を強調しているのが特色だ。具体的には、子育てを社会全体で支援するため、「制度・財源・給付の一元化」を実現することが必要だとし、(1)現金・現物給付の市町村の裁量による一体的提供(2)幼保一体給与(仮称)の創設(3)基礎給付と両立支援・幼児教育給付の2階建ての給与設計により、親の就労状況に応じた多様な給付を保障――などをあげている。
 気になるのは、その支出額である。内閣府が明らかにした「児童・家庭関係支出額」(平成22年度予算ベースの粗い推計)によると、現物給付(認可保育所等、就学前教育、地域子育て支援拠点、一時預かりなど)で約2兆1100億円、現金給付(育児休業給付、子ども手当など)で3兆9800億円。総合計で約6兆900億円という巨費だ。現金給付のうち、子ども手当(児童手当2月分を含む)だけで3兆5500億円にものぼり、これだけでも金額の大きさがわかる。
 もう1つ気になるのは、「社会全体で子育てを」という考え方が貫かれていることだ。民主党のマニフェストにも「社会全体で子育てする国」「安心して子育てと教育ができる政策」が打ち出され、その中に、子ども手当の創設、空き教室などの活用による保育所の増設、保育ママの増員、待機児童の解消などが盛り込まれている。「社会全体で子育てを」というのは、一見、最もらしく聞こえるが、子育ての基本は、「あくまでも家庭にある」という基本に立ち帰り、側面から社会全体の支援策を考えることが重要ではないか。検討会議の審議には、その辺の配慮が欠けているような気がしてならない。
 検討会議の使命は、「幼保一体化の推進」にあるが、心配な点は、この一体化論議が単なる緊急経済対策に利用されないか、ということだ。文部科学省と厚生労働省はこれまで、幼保一元化のための試行錯誤を重ねてきたが、教育・保育のカベが大きく解決策を見いだせないでいる。
 今回の検討会議はいわば政府全体で幼保一体化問題に取り組むというまたとない機会である。ぜひ「教育と保育の在り方」という見地からも真剣な審議を期待したい。


[H22年5月6日]

「学校問題」の解決 過剰に反応せずに着実に

 

昨年8月に、東京都内の公立小学校で、木刀を持った保護者が校長室に乗り込み、理不尽な要求を繰り返すという事件があり、学校側が東京都の「学校問題解決サポートセンター」の支援で、問題解決を図ったと報道されたことがあった。  このような保護者や地域住民などによる法外な苦情、クレームなどに苦しんでいる学校があること自体、由々しきことであるが、「学校問題」を解決するために、行政をはじめ、多くの教育機関が支援する動きが高まっているのも事実である。
こんな状況の中で、東京都教委は今年2月に、都教育相談センター内に学校問題解決サポートセンターを設置した。
 その業務内容は(1)学校などに繰り返される保護者などからの理不尽な要求に対して相談を受け付ける(2)学校などに相談しても解決が図られなかった苦情などについて、相談を受け付ける――などというもので、その効果に大きな期待が寄せられている。
 それに続いて、千葉県教委も4月27日、「学校単独では解決が難しい問題」について、対応策などを学校や地元教委に助言する「学校問題解決支援チーム」を設置した。同チームは、弁護士、精神科医、臨床心理士など専門家と教育委員会の関係課職員ら約20人で組織して対応することにしている。
 東京都教育相談センターによると、平成21年5月から11月末までに寄せられた相談件数は112件。相談者は、保護者が圧倒的に多く78件にのぼった。学校種別では、小学校46件、中学校20件、高校15件などである。
 相談の内容は、児童生徒の指導にかかる学校の対応への不満61件、児童生徒同士のトラブルから学校への苦情に発展したケース8件、放課後・休日の学校外での児童生徒の行動に対する苦情2件などとなっている。
 「学校問題」の解決には、どうしても事前学習が必要である。そのためにも、都教委が全教員を対象に、今年1月に作成し配布した「学校問題解決の手引」が大いに参考になる。
 手引の内容は、(1)教員の苦情のとらえ方の特徴(2)学校が行う保護者などへのよりよい対応(3)事例からつかむ対応のヒント(4)学校問題の未然防止・早期対応に向けて――の4章から構成されている。
 興味深いのは、「教員の苦情のとらえ方」だ。この手引で引用されている日本苦情白書によると、「近年、職場で苦情が増えていますか」との質問に、教員の場合、他の職種(行政、福祉、病院、金融など)と比べ、苦情を感じている割合が強い。全体で39.7%なのに対し、教員は53.1%に達している。その原因も「配慮不足」(30.0%)が他の職種よりも多くなっている。その辺の教員側の反省点はあるようだ。
 その上で手引では、未然防止・早期対応に向けて、(1)日ごろの接遇を見直し、初期対応力を上げる(2)事務室・経営企画室の対応を再確認する(3)困難事例の面談場面も想定しておく(4)校内での事例検討で対応力を上げる(5)学校から保護者へのアプローチを行う(6)学校問題の実態についての知識をもつ――の6項目をあげている。困難な作業だが、ここを避けて通ることはできない。
教員はいま、児童生徒と向き合う時間の確保が課題とされている。これを実現するためにも、保護者などの良識ある行動はもとより、教師の冷静沈着な対応が求められる。


[H22年5月3日]

「生徒指導提要」の意義 活用次第でバイブルにも

 

文部科学省は4月2日、新たな生徒指導の指針ともいえる「生徒指導提要」を取りまとめた。昨年6月から専門家による協力者会議が検討してきたもので、昭和56年に改訂した「生徒指導の手引」を基に、小学校から高校段階までの生徒指導の意義を問い直すとともに、時代の変化に即した課題をも盛り込んだ基本書である。今後の活用次第では、生徒指導のバイブルとして扱われることは間違いない。
 新たな「生徒指導提要」の内容構成は、小学校における生徒指導も対象と考え、必要に応じて学校段階別に内容を書き分けるとともに、学校種間の連携について詳しく記述するとともに、少年非行、いじめ、性、不登校など、個別の課題ごとの指導の基本的な考え方を述べている。また、発達障害についての理解と支援の在り方も盛り込んでいる。
 注目したいことの第1は、生徒指導の「意義」を明確化し、重要な教育の領域として位置づけた点である。「生徒指導とは、1人1人の児童生徒の人格を尊重し、個性の伸長を図りながら、社会的資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動のことである。すなわち、生徒指導は、すべての児童生徒のそれぞれの人格のよりよき発達を目指すとともに、学校がすべての児童生徒にとって、有意義で興味深く、充実したものになることを目指している」と述べていることからも、それがうかがえる。
 その上で、「生徒指導は、学校の教育目標を達成する上で重要な機能を果たすものであり、学習指導と並んで、学校教育において重要な意義を持つものといえる」とし、「生徒指導」を「学習指導」と同列に位置づけている。
 この考え方は、教育の本質を示唆するとともに、今後の教育の方向性を示したものして画期的なことである。
 注目したいことの第2は、「生徒指導」と「教育相談」を車の両輪ととらえていることである。
 その理由としては、「教育相談は、主に個に焦点を当て、面接や演習を通して個の変容を図ろうとするのに対して、生徒指導は、主に集団に焦点を当て、行事や特別活動などにおいて、集団としての成果や変容を目指し、結果として個の変容に至るところにある」と記述している。こうした考え方は、これまで強く打ち出されなかっただけに、新鮮な感じすら受ける。
 ただ、心配な点としては、「個別の課題を抱える児童生徒への指導」に対して、期待感が大きいことである。
 基本書として網羅的に課題を掲げるのはやむを得ないが、それにしても、「喫煙、飲酒、薬物乱用」「少年非行」「暴力行為」「いじめ」「インターネット・携帯電話にかかわる課題」「性に関する課題」「命の教育と自殺防止」「児童虐待への対応」「家出」「不登校」「中途退学」などの課題への対応を求めていることは、現場教師にとっては酷なことといえる。
 その点については、教育委員会がマニュアルなどを作成するなどして、対応策を講じる必要があろう。
 この提要の最後には、「これからの私たちの社会に新たな地平を拓き、人々の個々の幸福の実現と社会の発展を展望するとき、社会の形成者としての資質を涵養する生徒指導こそが鍵になるといっても過言ではない」と結んでいる。生徒指導の重要性を象徴した言葉である。学校現場での十分な活用を望みたい。



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