ヘッダー
鉄筆
[H22年7月29日]

この7月の連休を利用して、群馬県にある草津白根山周辺に出かけた。咲き乱れる高山植物を鑑賞するためで、山頂付近の砂礫地に咲くコマクサや野反湖畔に咲くノゾリキスゲの群生は色鮮やかさといい可憐さといい、見事だった▼高山植物のガイドといえば田中澄江の随筆集『花の百名山』『新・花の百名山』がよく知られているが、その中では上信越高原国立公園に指定されているこの地周辺は紹介されていない。それこそ穴場としてお勧めだ▼登山口に「白根火山自然歩道セルフガイド」という小さなパンフレットが置かれていて、料金箱に100円を入れるようになっていた。自然保護活動の経費の一部にするためだろうが、ほとんどの人たちは素通りしていた。自然の恵みに慣れ親しんできた日本人とって“山歩きはただ”という印象が強いのかもしれない。白神山地は300円の入山料を取っているが、これは例外的なのかもしれない▼比較にならないが、チョモランマ入山料は800万円とか。当然、自然保護活動だけではない“利益”を見込んでの徴収額であろうが、それにしても、日本人の自然保護への“寛容さ”も限界にきているのではないか。自然保護に対する個々人の責任の取り分への関心の低さも、大いに気になる。入山料はもとより、トイレ使用料もきちんと徴収し、自然保護活動の徹底をと訴えたい▼最後に、「花盗人」(田中氏の表現)にひとこと。これは犯罪であり許されない。高山植物を鉢植えで商売している店も、即刻、中止してほしいものだ。

[H22年7月22日]

演劇やダンスなどの表現活動が子どもたちのコミュニケーションツールとして見直されようとしている。この5月に「コミュニケーション教育推進会議」が鈴木寛文部科学副大臣の強い意向で設置され、これまで3回の会議が開かれた▼昭和60年代の中学校が荒れていた時代、文化庁が音頭を取り「中学校芸術鑑賞教室」を全国的に展開、成功を収めた例がある。中学校に一流の芸術家を派遣し、体育館などで主に音楽の生演奏などを聴かせ、情操を豊かにしてもらおうという取り組みだ▼今回、文科省が計画している「コミュニケーション教育」は、演劇、音楽などの芸術教育だけでなく、言語活動など各教科にまたがる領域まで考えている▼アートによる表現活動を学校教育に積極的に導入しているのは欧米諸国。同推進会議委員で株式会社ニッセイ基礎研究所の吉本光宏主席研究員によると、英仏独米で盛んという。全米最大の公共地域劇場のリンカーンセンターシアターでは、91年から公立学校向けの教育プログラムを開始。いまでは「演劇は国語力を高めるのに役立ち、特に学力や学習意欲の低い子どもたちを、より積極的に楽しみながら学習させ、理解力を高めるのに大きな効果がみられた」とのこと▼対して日本の場合、90年代後半から公立文化施設や芸術団体がアーティストを学校などに派遣してワークシップ型授業を実施しているが、大きく展開されているとはいえない。同推進会議が今後、どのような報告書を出すか、注目して見守りたい。

[H22年7月19日]

民族学・文化人類学研究で多くの業績をあげた国立民族博物館顧問で初代館長を務めた梅棹忠夫氏(文化勲章受章者)が7月3日に老衰で亡くなった。90歳だった。その多彩な経歴と著作から、世界に誇れる稀有な「行動派学者」といえよう▼著書の中で衝撃を与えたのは、1957年に発表した「文明の生態史観序説」(中央公論2月号)である。戦後間もない当時、自信を喪失していた多くの日本人(主にインテリ)に受け入れられるなど、大きな反響を呼んだ▼論文の中で最も有名になったのは「日本と西欧の等価性」との指摘だ。「私は明治維新以来の日本の近代文明と西欧近代文明の関係を一種の平行進化とみている」と記述している。「日本は、西欧の猿まねではなく、独自の設計思想を持ち、独自の発展を遂げた高度な文明」「西欧文明は、日本文明と歴史は変わらない。あくまで古代帝国のインパクトによって成立した周辺文明」との見方もしている▼この論理は、マルクス主義者からは「日本主義イデオロギー」として反発を受けることになる。それにもめげず、唯物史観にとことん戦いを挑んだのが、同氏であった。共産・社会主義国が崩壊または崩壊寸前にある現状をみるにつけ、梅棹理論が卓見だったともいえよう▼教育界にも、いまだに社会主義イデオロギーで論陣を張る人を見受ける。イデオロギーで目の前の子どもを見失うことなく、梅棹氏のように卓見をもって山積する教育課題、問題解決に臨みたいものだ。

[H22年7月15日]

奨学金返還の未納問題を考えていたら「相互扶助」という言葉が浮かんできた。日常的にはあまり使われなくなったせいか、色あせた感はあるが、他人を押しのけ拝金主義が横行している社会にあって、もっと大切にしてほしい言葉の1つだと思う▼奨学金返還の未納者は後を絶たず、しかも、返還能力のある者が応じない。「車のローンがあって払えない」といったふざけた例や「なぜ返還する必要があるのか」という開き直りの許せない例も多い▼奨学金が「相互扶助」の精神で支えられていることに無知な“やから”には、追徴金を課すなどの厳罰以外にないと断じたいのだが、民主主義の日本では、そんな強硬手段もとれないらしい▼「相互扶助」でもう1つ思い浮かんだことがある。脳科学者の茂木健一郎氏がある中学校教師の実践を紹介し「集団としてお互いに助け合う精神を促進することによって、個人の成果、学校でいえば成績が伸びることにつながる」「優等生、エリートは助け合うことを知らない。劣等生とはいかなくても、どこかで挫折した経験がある人は、友だちに助けられた経験があり、互いに扶助することが大切なことだと、体感的にわかっている」と述べている▼個人の「成果」は組織内の「相互扶助」と相いれないことではない、むしろ両立するという見方は、たいへんユニークで、今後の学習指導や生徒指導を考える上で、大きな示唆を与えてくれる。これがうまくいけば、奨学金返還の未納問題も、解決することになると期待したいのだが……。

[H22年7月12日]

児童精神科医で、川崎医療福祉大学の佐々木正美特任教授の記念講演を聞いた。「発達障害」の研究で知られ、そのユニークな発想とわかりやすい語り口は、すこぶる評判がよく、全国各地の講演会にひっぱりだこだとか▼6月30日に都内で開かれた「学校教育相談実技研修会」(全国教育研究所連盟主催)には、全国から多くの現場の先生方が参加して、熱心に耳を傾けていた。講演は、「ライフサイクル理論による発達課題について〜依存・反抗から自立へ」との難しいタイトルがついていたが、内容は示唆に富んだものが多く、感動的でさえあった▼「赤ちゃんが喜びを共有できるのは、母親とのコミュニケーションのときである。そこから、情緒的な表現が豊かになり、自己形成が加速する」「幼児が後ろを振り返る動作をするのは、常に親の姿を探しているからだ」など、乳幼児期の発達の特性を指摘する▼現代病ともいわれる不登校やひきこもり、ニートも乳幼児期の育ちと関連があるとし、「日本型の不登校、ひきこもりは、日本特有のもので、それは、“子どもが母親から無条件で愛されなくなった”と感じているからだ」などと述べる▼心と心を通わせるコミュニケーションがいかに大切かを語ったもので、最後には、「学校の先生には、子どもたちとの真の交流は休み時間にこそできると考えてほしい。そこが生き生きとした人間関係の構築の場であることを考えてほしい」と提案していた。この休み時間の効用を試すためにも、早速、実践してほしいものである。

[H22年7月5日]

一時期、8割を超える高い支持率を受けた大阪府の橋下徹知事。いまでも大阪府民の評価は世代や地域を超えて高い。国の直轄事業の地方負担金の請求に対し「まるでぼったくりバー」、関西3空港の問題については「民主党には理念がない。うそ八百だ」などの“名ゼリフ”が大いに受けているようだ▼知事就任後、08年9月の記者会見では、全国学力調査の成績が2年連続で低迷したことを受けて「『教育非常事態宣言』を発する」と述べ、教育力向上の徹底を求めた。また、前回の全国学力調査の結果を公表しない府内の市町村教委に対し「くそ教育委員会」などと断じ、歯に衣着せぬパフォーマンスをみせている▼さらに6月24日に開かれた府の教育委員との懇談会では、毎月定例の教育委員会会議への府知事の参加を希望し、規則改正を要請した。これに対し、各教育委員からは「教育委員会の権限が実質的にない方が問題」などと異論が続出し、結論は出なかったという▼教育委員会制度とは「政治的中立性」を確保するため、首長から独立した行政委員会として位置づけられている。選挙で選ばれた首長の政治的介入を阻止するために導入されたもので、この制度に関する表立った批判はいまでは聞かれない▼一部報道によると府教委側は橋下知事のオブザーバーの参加の可能性を示唆しているが、どんな資格にせよ、知事の教育委員会への出席は、同制度の規則の趣旨に違反する恐れがある。強引に出席などすれば、面倒なことになり、支持率を大幅に落とすことになりますぞ。

[H22年7月1日]

第22回参院選が、6月24日に公示された。投票日は7月11日。17日間の激しい選挙戦が繰り広げられる。長い間、参院は良識の府とされてきたが、いまでは、衆院よりも下に見られる存在になり、意義そのものが疑問視され、不要論、無用論までも飛び出す始末である▼その根拠は、「政府が衆院で一度決定したものと同じ議案を、参院で再び決定するのはおかしい」ということだ。二度の決定は、「独裁」を防ぐ有効な手立てという意見もあるが、このご時世からみる限り、誠にごもっともな意見。これを無駄といわずに何というのか。それこそ、仕分けの対象にしてもらいたいくらいだ▼BSフジの「PRIME NEWS」(6月22日)の番組で、元首相秘書官の飯島勲氏が述べたもので、同感である。“良識の府”である参院選で、各党とも政策論争そっちのけで票読みに明け暮れている姿を見ていると、“良識の府”というよりも“無駄な府”という感が否めない▼また、人気取りだけのタレント候補者、業界・組合代表の候補者などに、日本の国を託していいものかと疑いたくなる▼その番組で、元参院議員の平野貞夫氏が「参議院よ 憲法オンブズマンたれ!」という提言をしていた。「憲法改正を前提に、100人程度の有識者の専門家を国民が選び、外交、安全、教育など超党派で扱うべき提言などを審議し、それらを政府が尊重する機関に改革すべきだ」という大胆な意見だ。大いに賛同できる考え方である。

[H22年6月28日]

1府12省の事務方のトップである事務次官がいま“閑職”に追いやられている。鳩山内閣発足直後の昨年9月、「政治主導の意思決定を阻む元凶」として、123年間続いてきた「事務次官会議」が廃止されたのが理由だ▼その結果、どのような事態を生じたのか。その生々しい“証言”が「文藝春秋」7月号(元厚生事務次官・古川貞次郎氏、元文部科学事務次官・小野元之氏、元経済産業事務次官・北畑隆生氏の鼎談)に掲載されている▼事務次官会議は、原則として週2回の閣議前の月・木曜日に開かれる。そこで重要案件のお膳立てをする。このため、事務次官が「政治を左右することはありえない」とのことだ。むしろ、「政治主導」ではなく、「政治家主導」のほうが問題で、「選挙ばかりを意識した政策運営が行われているように見える」としている。同感だ▼その証拠に、「子ども手当」の支給で、外国で500人以上の養子縁組をした男性が市役所で総額数千万円を申請したのは、まさに「事務次官会議」を廃止した象徴的なケースだとみている。高校の授業料無償化問題にしても、朝鮮高校を対象にするかどうかで、混乱が生じているが、これも「政治家主導」の失態を示す証ではないか▼同会議の廃止に伴い、副大臣、政務官といった「政務三役」が晴れの舞台に登場しているが、「スタンドプレーが目立ち、効率性の点から弊害が生じている」とも証言。そういえば、某省では次から次へと思いつきの施策が打ち出され、事務方を困らせている。事務次官を遊ばせる手はない。

[H22年6月24日]

国際学校図書館協会の会長であるジェームズ・アンリ氏が社団法人全国学校図書館協議会の招きで来日し、6月12日に「全国SLA創立60周年記念講演会」(本紙前号で詳報)で、「世界の学校図書館の動向とこれからの学校図書館の在り方」と題して講演した▼1時間余り、ユーモアを交えて、世界の学校図書館の実情を紹介したが、今後の教育の在り方に多くの示唆を与えてくれた。結論をいえば、「学校図書館を学習の場の中心に」ということだった。日本では、言われてはいるが、なかなか実践しきれていない▼アンリ氏は、豪州のタスマニア大学で教育学などの学位を取得。高校の司書教諭をした後、カナダや香港などの大学を歴任。現在はノース・テキサス大学(米国)、国立台湾大学、ホバート大学(豪州)で教鞭をとっている。その間、図書館情報学関係の数々の賞を受賞するなど、いわば「学校図書館博士」ともいうべき存在▼講演から“アンリ語録”を紹介する。「最良の学校は最良の学校図書館があるかどうかである」「従来の箱型教室での学習は教育ではない。オープンな教室にする必要がある」「よい教師とは、同僚教師と知識を共有するものだ」等々▼興味深かったのは司書教諭の心構え。「学習とは理解を積み上げていくこと。そのため、常に学習者の理解のレベルを上げることが必要。知識のコピーは学習ではない」「このような学習を実現するには、校長の支持が重要だ。校長のサポートなしには、司書教諭の仕事はできない」。言外に、校長の学校図書館への理解をと訴えていた。

[H22年6月21日]

菅直人首相は6月11日、国会で所信表明演説をした。突然の就任のせいなのか、高邁な理想を掲げて国家百年の計を謳い上げるといった内容ではなく「経済・財政・社会保障の一体的立て直し」を大きく掲げるなど、より現実路線を目指した論調になっている▼「教育」に関する論調はということで、演説の全文に目をこらしてみたが、「わが国の未来を担う若者が夢を抱いて科学の道を選べるような教育環境を整備する」とあるのみで、正直いって拍子抜けの感であった▼小泉元首相の場合も「日本人としての誇りと自覚を持ち、新たなる国づくりを担う人材を育てるための教育改革に取り組む。教育基本法の見直しについては、幅広く国民的な議論を深める」と短かったが、多少は具体性があった▼長かったのは安倍元首相で「改正教育基本法、教育再生3法の成立を受けて、いよいよ具体的に、高い学力と規範意識を身につけるための改革に乗り出す」と強調している。鳩山前首相も同様に「教育」に大きなスペースを割き、「財源をきちんと確保しながら、子ども手当の創設、高校の実質無償化、奨学金の大幅な拡充などを進めていきたい」と述べ、実現させた▼ちなみに、麻生元首相は「保護者が納得するに足る、質の高い教育の実現」、福田元首相は「先生が子どもたちと十分に向き合える時間を増やすとともに、メリハリのある教員給与体系の実現」を取り上げた。それらに比べると、菅首相の「教育」への取り組みは、「無関心」といえるほどあっさりしている。心配になってきた。

[H22年6月17日]

6月8日に民主、国民新両党連立の菅内閣が発足した。菅直人首相はその日の記者会見で「政治の役割は『最小不幸の社会』をつくることにある。貧困、戦争などをなくすことに政治が力を尽くすべきだ」とし、経済成長と財政、社会保障を一体とした新戦略を打ち出した▼それを裏づけるように早速、昨年の衆院選挙時のマニフェストの見直しに着手するようだ。長妻昭厚労相は8日の記者会見で早速、「子ども手当」に関して、「平成23年度以降の満額支給(月額2万6000円)は財政上の問題が大きく、現物、現金を問わず満額を確保するのは非常に難しい」と表明▼その上で「上乗せ分の税収をどれだけ確保できるか。国民に説明しなければならない」と述べ、事実上「満額確保」を断念した。子育て中の親からは「こうなると思っていた。裏切り行為だ」などと手厳しい批判も聞かれる▼「子ども手当」の支給に関しては、多くの調査結果からも保育所の増設など、現物支給を望む声が多い。今回の政府の見直しの措置は、こうした「民意」に沿った決断であるとはいえ、「満額支給」の約束が、明らかに選挙目当ての公約だったことがわかる▼長妻大臣はもとより、菅首相も明らかに公約違反だったことを認め、国民に率直にお詫びすることが先決ではないか。この7月の参院選挙時には、新しいマニフェストを作成すると聞いているが、あらゆる面で実行可能な、国民の納得のいくものを提案すべきだ。あとは、選挙民に判断を委ねる以外に、信頼回復の道はない。

[H22年6月14日]

鳩山由紀夫首相の辞任会見(6月2日の民主党両院議員総会)をテレビで見ていて驚いた▼「国民が徐々に聞く耳を持たなくなった」というのだ。正確には米軍普天間飛行場の移設問題と「政治とカネ」の問題をあげたあと、「政権・与党のしっかりした仕事が国民の心に映っていない。国民が徐々に聞く耳を持たなくなった」などと述べた▼このフレーズを耳にしたとき、一瞬、国民に対して批判めいたことを言ったのかと思ったが、そのあと「私の不徳と致すところだ」と続けているので自らの非を認めての発言だと解釈した。ただ、ぶら下がり会見では解散総選挙をしないのを「国民に信を問わずとも、国民が聞く耳を持ってくれるようになれると信じたからだ」と、再び「国民が聞く耳を」という言葉を使った▼ある識者はこの発言を「国民の声なんか聞く必要がない、われわれは絶対的に正しいのだから、国民は我々の言うことを聞くべきだという傲慢さが現れている」と手厳しく批判していた。一連の発言には表現のまずさが露呈していたが、傲慢さは感じられなかった。それでも、発言がいのちの政治家としてはまずかった▼確かに民主主義国家では「国民の声」を聞くのは重要だ。それが「民意」という形で政策合意に威力を発揮する。半面、「民意」を尊重しすぎると、政策立案に齟齬を来たす。現在の政府はそんな傾向がある。誤解を覚悟でいえば、「国民の声」に惑わされず、決断するときは決断することも政治家の資質だ。

[H22年6月7日]

NHKが先日、放映した「シリーズ 音楽のチカラ『ピアニスト・辻井伸行―心の目で描く“展覧会の絵”』」を観て、感動した人も多いことだろう。45分間のドキュメンタリーで、米国で演奏したムソルグスキーの「展覧会の絵」の習得過程に密着した展開だ▼辻井氏(21)は昨年6月、世界的に評価されているヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝したピアニストだ。その快挙については、新聞やテレビを通じてクラシックファンだけでなく、大勢の人たちに知られている▼「展覧会の絵」という作品は、難曲として知られるピアノ組曲で、『プロムナード』『古城』『雛の踊り』『キエフの大門』など、10枚の絵の印象を音楽に仕立てたものである。テレビでは、最後の「キエフの大門」の絵のイメージがつかめず、苦闘する姿が映し出されていた▼驚いたのは、美術館に出かけ、少しでも絵の雰囲気をつかもうと、必死になって自分の目では見えない絵を心の目で見ようとしている姿だった。最後の公演では、そのイメージがつかめたのか、素晴らしい演奏となって結実した▼子どもたちを「心の目」でみる大切さは、教育の在り方を考える上でも大切なことである。教師が子どもたちの表面ばかりを見て、その子の本当の悩み、苦しみなどを知ることができなければ、適切な指導など期待できない。それほど厳しく、難しいのが教職である。その半面、子どもの心の内を本当に知り得たならば、その喜びは、大きいことだろう。

[H22年6月3日]

教職員組合はもとより、組合の支持によって誕生した民主党連立政権は、とかく、組合に“甘い傾向”にある。その中で、川端達夫文科相は、あくまでも“中立の立場”の姿勢を貫いている▼その証拠に、同文科相は5月18日の国会内での定例記者会見で、横浜市教職員組合(浜教組)による教科書採択問題を取り上げた記者の質問に答え、「市教委が教組に対して適切な文書を出したと聞いている」と述べ、横浜市教委の対応を支持した▼この問題は、浜教組が昨年8月に採択された自由社発行の「新編 新しい歴史教科書」に反対し、その代わりに、ほかの教科書や資料だけで授業を展開する例を示す「授業マニュアル」を作成、教職員1万人以上に配布していた“事件”だ。これに対して、市教委は「教育委員会が採択した検定教科書の使用を義務づけた学校教育法や市の規則などに抵触する可能性がある」と浜教組に警告した。当然の措置である▼5月25日の参院文教科学委員会でも、自民党の義家弘介議員から同様の質問が出され、同文科相は、浜教組の行為を改めて「不適切」と判断したが、中立性ということから考えれば、至極当然の判断だった▼義家議員によると、その配布用のマニュアルは、「階級闘争史、自虐史観のオンパレード」とか。国の検定教科書を使用せずに、組合版の“教科書”を使用することは、教育の中立性を著しく欠く行為で、法令違反といわれても仕方がない。1日も早くアナクロニズム(時代遅れ)から脱出し、正常な教育に戻してほしいものである。

[H22年5月31日]

最近、「民意」という言葉が政治家の間でしきりに使われている。懸案となっている米軍基地の移設問題では「受け入れを拒否する沖縄県民の『民意』を裏切ることはできない」などと、「民意」が絶対視されている▼「民意」とは一般的に「国民の意思」の意味で使われ、民主主義体制下の政治家が「国民の意思」を最上位に位置づけることに異存はないが、絶対視すべきものではない。民主党のマニフェストには「民意」が結集したものとの固い信念みたいなものがある。例えば「子ども手当」も「国民の『民意』で実現するのだ」という。ところがいざ、蓋を開けてみると、この手当は必ずしも「民意」を反映していない▼「中学卒業まで、1人当たり年31万2000円の『子ども手当』を支給する」という、国民にとってありがたい政策で、「これほどの高額な手当を支給すれば、多くの国民は歓迎してくれるだろう」との選挙対策上の“読み”があっただけで、必ずしも「民意」を反映したとはいえない▼その証拠に、主婦を対象にした各種世論調査を見る限り、単なる現金支給に対する賛成意見は「条件付き」を含めて約6〜7割。「条件付き」とは「現金給付と保育費などの現物給付を半々に」などとの意見だ▼このため、民主党は早速、「民意」を修正し、夏の参院選のマニフェストに満額支給をやめ「財源状況を勘案して、月1万3000円支給の上積みから現物支給に切り替える」とした。「民意」を軽々しく使うべきではない。

[H22年5月27日]

知的ゲームの代表格の1つとされる将棋。子どもたちの人気もいまだに衰えず、各地で全国規模の大会も開かれている。テレビなどを通して、対局姿勢などを見る限り、きちんとした礼儀作法を身につけている姿に驚くことが多い▼この将棋のよさを生かそうと、東京都足立区は、日本将棋連盟(米長邦雄会長)の呼びかけに応じて、当面、区立桜花小学校と鹿浜第一小学校(いずれも3〜6年生)の2校をモデル校として、「将棋塾」を開くことになった。将棋のプロ棋士を講師に、将棋の指し方はもとより、勉強の指導、礼儀作法までトータルで学ぶという全国初の試みである(産経新聞5月19日付)▼同区が小学校の教室などを開放して実施している「あだち放課後子ども教室事業」に組み込むもので、モデル校での実績を積み上げて、効果があれば、区内全小学校に拡大していく方針だ▼東京都の教育委員を7年間務めたことのある米長会長は、教育にも大変熱心な人で、この「将棋塾」について「将棋は頭が良くなり、成績が上がるともされる。この事業では、遊びながら規則正しい生活が送れるようになることも同時に実証していきたい」などと述べている▼プロの将棋の対局は、お互いに一礼したあと、「お願いします」とあいさつ。終了と同時に、「ありがとうございます」「負けました」などと述べる。そのとき、勝者は敗者にいたわりの心を持つことが大事だとされている。囲碁の世界も同じとのこと。将棋の普及により、礼儀作法を身につけることをお勧めしたい。

[H22年5月24日]

仙谷由人国家戦略担当大臣は、保育問題に大きな関心を持つ政治家として知られているが、「専業主婦」に対して、偏見と思えるような発言をした。その発言が“誤解”ならばよいが、“真意”であれば、大きな問題といわざるを得ない▼大臣は4月26日に、都内で開かれた全国私立保育園連盟の「子ども・子育てシンポジウム」で講演し保育政策について、独自の見解を述べた。この中で、すでに見直しが求められている「子ども手当」に対しては、現金給付と現物給付(保育サービス)の一元化を主張するなど、極めて良識的な見解を明らかにした▼大臣の母親は、高校教師をしていたので、母親から具体的な子育て行為を受けた記憶がなく、もっぱら祖母や同世代の人たちや地域の人たちに育てられたという。大臣は、それが「本当の子育て」と固く信じているようで、子育ては「社会全体で」という民主党の政策に連動する考え方につながっている▼講演では、そうした体験を披瀝したあと、あえて「専業主婦」の問題を取り上げ、「専業主婦は、日本の戦後の一時期、約50年ほどの間に現れた特異な現象。もうそんな時代は終わったのに、それに気がつかずに専業主婦という病気を引きずっている」と発言した▼愛情深い専業主婦に育てられた人たちは、この発言をどう思うだろうか。帰宅すれば、いつでも世話をやいてくれる母親の「ありがたさ」を知っている鉄筆子にとっても、心外といわざるを得ない。この発言を撤回してほしい。「社会全体で」という言葉も、軽々しく使わないでほしい。

[H22年5月17日]

高校生の就職活動は厳しさを増し、新たな氷河期に入るなど、事態は極めて深刻だ。また、せっかく就職を果たせたのに、早期に離職する者が約44%にも達し、そのままフリーターなどになる例も目立つという▼現在、中教審のキャリア教育・職業教育特別部会が開かれ、近く最終報告が出される予定だが、その審議経過報告を一読すると、誠にごもっともなことが書かれている。模範解答といってもよい内容である。これをそのまま踏襲すれば、就職希望者の大半が一流企業に就職できるかとなると、首を傾げたくなる。現実は、そんなに甘くはない。企業の経営状況は想像以上に厳しいのだ。「人は雇わない」ことが常識化しているのである▼企業経営の厳しさを知る上で、参考になるのが帝国データバンクの今年度の「業界天気図」だ。主要業界の天気図を快晴、晴れ、薄日、曇り、小雨、雨、雷雨の7段階のお天気マークで分析したところ、興味深い結果が得られた▼それによると、最もひどい雷雨は、建設、総合スーパー、衣料品小売、旅行。最も多いのが小雨・雨で、銀行、損保、住宅、ホテル、コンビニ、新聞・出版の数々。これに対し、晴れマークは、総合商社、テレビ・ネット通販のみで、快晴はなし。ちなみに、教育サービス業(学習塾、家庭講師派遣など)は薄日▼このような実態を知らないで、「有名企業」という尺度だけで会社を選ぶ時代ではなくなった。現実を見据えながら、「適職」とは何かを考えながら就職先を選ぶ時代がきたといえよう。

[H22年5月13日]

民主党の4月の政党支持率がついに危険水域を超える20%を切った。時事通信社の発表(4月17日)によると、民主党は17.2%という政権発足以来の最低を記録した。自民党もそれに追従して14.2%という低率で、支持政党なしの57.5%に大きく引き離された▼政党の本来の姿は、少なくとも政策の是非を競い合い、選挙という形で選択を委ねるものだが、支持政党なしというのは、選択する政策がないだけに、結果的に投票行動につながらない。それが半数を超えたということは、民主主義の危機といってもよい▼民主党の支持率が急落した原因は、「政治とカネ」や沖縄の基地の問題など多々あるが、支持率の拡大をねらった「子ども手当」「高校授業料の無償化」がそれほど支持率に結びついていないとの見方が広がっている▼親の収入にかかわらず、中学校卒業まで1人月額1万3000円(来年度以降はその倍額)を支給するという、一見“受けのよい”政策が、必ずしも政党支持にはつながっていないのだ▼7月の参院選を前に、読売新聞社がインターネット利用者1000人を対象に行った「参院選ネットモニター調査」の結果(発表は4月12日)によると、「子ども手当」は34%、「高校授業料無償化」は51%が「評価する」と回答しているにすぎない。しかも高校生以下の子どものいる人に限ると、「評価する」は、子ども手当で54%、高校授業料無償化で67%にとどまっていた。やはり、民主党のマニフェスト政策はバラマキだとの見方をしているのである。

[H22年5月6日]

内閣府から4月27日に、日本人の「幸福度」をみる上で、興味深い調査結果が発表された。国民生活選好度調査というもので、10段階評価での平均値は「6.5」。「5」を選択する人が多かったほか、「幸福度」は男性よりも女性の方が高く、30歳代が最も高かった▼「幸福度」で重視したのは、健康(69.7%)、家族関係(66.4%)、家計状況(65.4%)。政府に求めたのは、「公平で安心できる年金制度」(69.2%)、「安心して子育てできる社会」(64.9%)が多かった▼EUでも、08年に同様の調査を実施した。最高はデンマーク(8.4)、次いで英国(7.4)、ドイツ(7.2)、フランス(7.1)などの順。指標の違いもあり、単純比較はできないが、日本人の「幸福度」が低下しているのは事実だ▼また、英国のあるシンクタンクが数年に1度実施している「幸福ランキング」というのもある。世界178の国や地域を平均寿命や生活満足度などで分類したものだが、昨年の調査で第1位に輝いたのは、南太平洋上にある「バヌアツ共和国」。2位はコロンビア、3位はコスタリカで、いずれも小さい国々。「幸福度」の指標として重視しているのは、「本人が幸せかどうか」▼ちなみに、ドイツ81位、日本95位、英国109位、フランス129位、米国150位だった。「指標」をどのように設定するかで、「幸福度」も大きく様変わりする典型的な例だが、先進国はもう少し、「バヌアツ共和国」などに学ぶ必要はありそうだ。

[H22年5月3日]

政府の行政刷新会議(議長・鳩山由紀夫首相)は4月23日「事業仕分け」の第2弾に着手した。科学技術振興機構や国立科学博物館など、文科省関係の独立行政法人の“仕分け”も俎上にのぼった。参院議員選挙目前のパフォーマンス感は否めないが、税金の無駄使い排除に反対はない▼ただ、現政権は国会議員の定数削減はおろか、給与見直しの「仕分け」に着手する気配がないのが不思議だ。国会議員の給料は国会法第35条で「議員は、一般職の国家公務員の最高の給料額より少なくない歳費を受ける」と決められているが、最高裁判事のような特別職の公務員は別にして、最も給料の高い一般公務員と同じか、それ以上の給料(歳費)を受けとっている▼議員1人あたり月額137万5000円。これにボーナスに当たる期末手当が718万円。また文書交通費と称して毎月100万円。月65万円の立法調査費もある。そのほかJR各社や航空会社の特殊乗車券(航空券)も提供――などを合わせると、ざっと年収3400万円超を国費から使われている▼3人の公設秘書の給与2000万円は、もちろん税金で支払われる。ほかにも、政党助成法による政党交付金(総額319億円超)や議員宿舎の整備・維持費がある。総額にして、議員1人に要する費用は年間3億円ともいわれている▼この実態が適切かどうか、「仕分け」によりメスを入れる必要はないのだろうか。まず、隗より始めよといいたい。現政権には期待薄だが。

[H22年4月29日]

「2010年PIGS危機」という言葉がある。PIGSとは、ユーロ圏の南ヨーロッパ4カ国、ポルトガル(Portugal)、イタリア(Italy)、ギリシャ(Greece)、スペイン(Spain)の頭文字をとった略語で、財政危機に瀕している国々を指している。これにアイルランド(Ireland)を加えてPIIGSと呼ばれることもある▼PIGS諸国の中で最も懸念されているのはギリシャで、貯蓄率が際立って低い(GDP比7.2%)。ユーロ圏平均は約20%、アイルランドの17%、スペインの19%と比べると、そのひどさがわかる▼また、ギリシャは、高い財政赤字比率(GDP比12.7%)が深刻だ。昨年10月の政権交代後に、「財政赤字水準の過少申告」という国家的な粉飾問題が明らかになった。この問題がユーロ圏最大のアキレス腱になっているのだ▼それに比べて、日本はどうか。不況の波は少しずつ、しかも確実に押し寄せてきており、金融危機、財政破綻すら現実味を帯びている。デフレスパイラルという暗闇の中に入り、“生きることの不安”さえ感じさせられる状況だ▼それを救う手立ての1つは、経済成長とそれを支える教育の力である。経済同友会がこのほど発表した「豊かな社会に向けた3つの成長戦略〜成長の果実を将来世代と分かち合うために〜」の報告書の中で児童・生徒・学生への投資が、長期的には日本経済を潤す原動力とみている。人材の育成しか、この暗闇から脱出する手立てはない。

[H22年4月22日]

ゴールデンウイークを利用して、海外旅行や海外研修などに出かける人は多い。しかし、ぜひ心しておきたいのは、思いがけない事件・事故に巻き込まれること。この最悪のケースを考えないと、悲惨な目に遭うことがある▼62歳の女性がアメリカに観光ツアーで参加した。渡米後、2日目から嘔吐・頭痛の症状を発症した。その後、意識不明になり、救急車で搬送され、緊急入院し、手術を受けた。45日間の入院を余儀なくされたが、その治療費は、何と8000万円、搬送費が250万円、救急車費用が200万円。この女性は、保険に入っていたので、自己負担額はゼロだった▼治療費が安いとみられる中国の例。48歳の男性がホテルの前で、石につまずき、頭部を打撲、軽度の脳挫傷と診断される。治療レベルの高い香港に搬送されて治療を受けたあと、チャーター機で日本に搬送され、入院した。入院日数は海外が45日、日本が150日。その費用は、治療費が1400万円、搬送費が750万円、救急車費用が200万円。うち、自己負担が1150万円だった▼この2つの例は、「びっくり事例集」(AIU保険会社)に出ているものであるが、通常、欧米では、「盲腸の入院で240万円」「治療費・救援者費用は3000万円では足らない」というのが常識だそうだ▼PRのようで気が引けるが、万一のことを考えて海外に行く際には、絶対に「海外保険」に入ることをお勧めしたい。あとから「3000万円」の請求書が来て、慌ててほしくないので。

[H22年4月19日]

国の仕事は、本当に困っている人に対し、様々な支援策を講じることにあるが、現政権のお偉方はそうした理屈をご存知ないらしい。例えば「子ども手当」。この6月から15歳以下の子ども1人当たり月額1万3000円が支給(来年度は2万6000円)されるが、所得制限をつけないため、年間所得1000万円に達する約1割の世帯にも支給されるという、ありがたい手当だ▼どう考えても所得制限が必要と考えるが、民主党は「制度の哲学は、すべての子どもたちの育ちの支援だ。高所得者には所得制限ではなく、累進課税や控除廃止などで対応する」とおっしゃる。これを屁理屈というのだ▼厚生労働省によると、今年1月に生活保護を受けたのは、全国で131万8761世帯にのぼり、前の月よりも1万1316世帯増えて過去最多となった。増えた世帯の内訳は、「高齢者」2281世帯、「母子家庭」1113世帯、「障害者」962世帯などの順で多い。失業問題も深刻だ▼ある「母子家庭」の母親が失業のため、生活の困窮を訴えていたテレビを観たが、本当に困っている世帯に手厚い手当を支給するというのが政府の仕事ではないのか。ちなみにある新聞の調査によると「子ども手当が必要か」との質問に国民の85%が「ノー」と回答していた▼民主党は、夏の参院選挙のマニフェストに「いのちを守るための友愛政治の実現」を掲げている。それが本気ならば、本当に困っている人たちに手を差し伸べるべきだ。

[H22年4月15日]

逮捕者まで出した北海道教職員組合(北教組)の政治資金規正法(1600万円の選挙資金拠出)の違反事件の原資になった現金は、「主任手当」のプール資金で賄われていたことが確実視されている▼「主任手当」は、昭和50年に制度化されたもので、調和のとれた学校運営を目指し、学校における教育指導の充実を図るために、教務主任、学年主任、生徒指導主任などの名称で、1人200円を支給する趣旨で実施された▼これに対し日教組は、「学校運営の中に上命下服の命令体制を持ち込むもの」として、ストライキを含む反対闘争を展開した。それが「定着」したとみるや、主任制反対闘争の重点として主任手当拠出運動に切り替え、組合員に同手当を拠出させた。その金額は55億円にも達し、その拠出金は、奨学金の給付や住民への文化活動などに充当されたという▼北教組は、荒っぽいやり方で反対闘争を展開。プールした現金をダンボールに詰めて道教委に運び込むという行動に出た。そのやり方に世論から批判を浴びるや、ある時期から現金ではなく、普通為替証書で送ってくるようになり、平成19年まで続いたとのことだ▼これに対し文部科学省は、「主任手当の拠出は遺憾」との趣旨の通知を出すだけで、それ以上の強い措置は取っていない。3月3日の参院予算委での、義家弘介議員の追及により、道教委と札幌市教委を介して実態調査に踏み切るというが、この際、主任手当拠出の実態を赤裸々にしてほしい。

[H22年4月12日]

「知識基盤社会」。教育関係者の共通理解に至らず、独り歩きしている感のある言葉だ。的確に説明できる人はそう多くないだろう▼この言葉がデビュー? したのは平成17年の中教審答申「我が国の高等教育の将来像」だ。そこで「新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として、飛躍的に重要性を増す社会」と定義された▼国際通で知られる木村孟氏(都教委委員長)によれば、「知識基盤社会」が日常的に使われるようになったのは、99年にドイツで開かれたG8サミット。議論の中でイギリスからアイデアが出されたのだという▼その知識基盤社会において人間が備えるべき力のうち基本的なものを「キー・コンピテンシー」と呼ぶ。そこには、3つのカテゴリーとして、(1)社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力(個人と社会との相互関係)(2)多様な社会グループにおける人間関係形成能力(自己と他者の相互関係)(3)自律的に行動する能力(個人の自律性と主体性)があるとされる(文科省の中等教育資料4月号から)▼この知識基盤社会におけるキー・コンピテンシーは、新しい小・中・高校の学習指導要領の背骨をなす考え方である。その推進役の1人が当時の中教審教育課程部会長だった木村氏だ。全国学力・学習状況調査で、「知識の活用」にかかわるB問題が出題されているが、このB問題が知識基盤社会の構築には欠かせないのだという。それを培うのは、当然、「生きる力」の教育である。

[H22年4月8日]

由々しきことだが、教師による不祥事が連日のように新聞紙上をにぎわしている。教師や警察官など公務員の場合は、マスコミの格好の餌食になる。容疑の段階でも、いったん報道されてしまうと、それだけで退職を余儀なくされるケースもある▼つい最近、教師の不祥事の中でも、それほど目立たなかった「万引」で逮捕される事件があった。和歌山県警新宮署は3月27日、スーパーで万引して逃げる際に保安員に暴行を加えたとして、奈良県十津川村の小学校男性教諭(56)を強盗容疑で緊急逮捕した▼この教諭は、スーパーで、文具類など総額5万円相当を万引し、車で逃走したが、約3時間後に逮捕された。容疑を認めているという。万引と暴力という二重の犯行に及んだこの教師の悪質さに、大きな衝撃を受けた▼教師による万引は、昨年だけでも数件が明るみに出ている。千葉県の小学校の女性教諭の場合は、数回も万引を繰り返し、窃盗罪で懲戒免職処分を受けるとともに、公判で検察から懲役1年を求刑された。また、大阪府の高校の男性教諭による事件では、スーパーで食パンなど2000円相当の万引で、懲戒免職処分という措置が講じられている▼文部科学省は例年、「教育職員に係わる懲戒処分等の状況」を発表しており、体罰(平成19年度で124人)やわいせつ行為(同139人)については、防止対策も講じられている。しかし、万引(人数は不明)の防止策は手つかずの状態だ。何とかする必要がある。

[H22年4月1日]

先日、東京都江戸川区立二之江小学校の小林省三校長から「特別支援学級(知的障害児)における国際コミュニケーションの素地を育む外国語(英語)活動の研究―理論と実践」とする修士論文が送られてきた▼「小学校長が忙しい校務の中、修士論文?」と一瞬驚いたが、昨年、同校の英語活動を取材した折に、文京学院大学大学院修士課程外国語学研究科英語コミュニケーション専攻(指導者・渡邊寛治教授)に入学し、英語教育を学び直していると聞いたのを思い出した。これはその努力が結実したのだ▼小林校長が修士論文にこだわったのは、渡邊教授の論稿で「寡黙な子が活発に、不登校児や自閉症児がALTとの楽しい活動だけに参加したり、自閉症児がALTと臆することなく話をしたりするという知見を得た」との指摘があり、自校の特別支援学級(わかくさ学級)に、この理論を実践化したいという願いからだ▼特別支援学級の子どもたちは、週1回の英語活動を体験。ALT、担任の教師などの粘り強い努力などで本来の目的である「積極的なコミュニケーション力」が身につくようになったばかりか、行動面でも積極性が出て、明るく笑顔も絶えない▼この論文には理論面だけでなく、豊富な事例を駆使した実践の軌跡がわかりやすく説明されている。今後の特別支援教育のあり方に一石を投じることは確かだ。校長が学者の理論を応用し、それを学校内外の先生方が実践化するという教育の新しい切り口を提示したともいえよう。

[H22年3月29日]

先日発表された文部科学省の平成20年度全国学力・学習状況調査で、朝食を「毎日(ほぼ毎日)食べる」子どものほうが「あまり(全く)食べない」子どもよりも学力テストの成績がよいという結果が出されるなど、子どもと朝食問題が改めてクローズアップされている▼全国農業協同組合中央会が昨年末に発表した「小学生の子どもの朝食実態調査」によると、朝食を毎日食べている子どもほど、みんなと一緒にゆっくり食事をし、家族で過ごす時間が長いことがわかった▼また、この調査では“ご飯派”が49.8%、“パン派”が48.9%とほぼ同率で、母親の意識が高いほど、毎日欠かさず朝食をとり、約9割の母親が子どもの食事の栄養のバランスを意識していた▼このように、小学生の朝食のとり方で心配することはないが、食事の内容と質によっては、脳のスムーズな働きの妨げになり、学習意欲の向上につながらないとの見方も有力である▼その1人である川島隆太東北大学教授は、3月14日に開かれた第29回公文障害児指導研究大会で、「朝食の質が脳活動の活性化に影響を与えている」と分析。その際、「毎日、白い食パンや白米を食べるのはよくない。そこにはリジン(必須アミノ酸)がごく少量しか含まれていない。できればナッツなどを加えたパンやご飯の上に納豆、それにみそ汁をかけたものでもよい。何よりも大豆をとることだ」と発言した。食パン、ご飯は学校給食の主食になっているが、主食を中心にした給食の質の問題を見直す時期にきたのではないか。

[H22年3月22日]

民主党が衆院選マニフェストに掲げた最重要政策の「高校授業料無償化法案」が3月16日、衆院本会議で与党と公明、共産両党の賛成多数で可決した。自民党とみんなの党は反対した。両法案は参院に送付され、今月中に成立する見通しだ▼懸案の朝鮮学校を支給対象に含めるかどうかは、4月以降、文部科学省内に第三者委員会を設置し検討する方針だ。その際、省令でどのように決着を図るかが焦点になる▼朝鮮学校の扱いでは、本会議上程前の衆院文部科学委員会で厳しいやりとりがあった。川端達夫文科相は、自民党の馳浩議員の質問に答えて、国交や民族教育の有無では区別しない姿勢を強調し、「ここを入れよう、ここを排除しようとの立場で議論していない。検討しているのは(支給基準となる)高校の課程に類するかどうかを客観的にどのように判断するかだ」と述べた▼恐らくこの判断は、正論だとは思うが、なぜか、文科省をはじめ現政権の姿勢には、北朝鮮との国交がないせいか、朝鮮学校に対して、腫れ物にさわるかのような態度が見え隠れする。問題は、「高校の課程に類するか」の客観的基準をどのように確認するかだ。馳議員は、「北朝鮮本国に確認できないのだからそれは難しいのではないか」と手厳しい▼政府は明確な方針を出し、納得できる解決策を講ずるべきで、曖昧な決着は禍根を残す。それにしても、「高校の課程に類する」などという言葉はあまりにも曖昧で、抽象的すぎるとの印象を受けた。

[H22年3月18日]

博報堂生活総合研究所が「子どものシアワセをカタチにする」という風変わりなプロジェクトを進めている▼このプロジェクトは、全国から集まった大学生たちが、子どもの生活の中でも「放課後」に着目、子ども・保護者へのヒアリング・調査からシアワセな生活を実現するための商品、サービス、仕組みなどを“造形”したものという▼3月4日に都内で開かれた報告会では、「子どものシアワセをカタチにする66の視点」という小冊子が手渡されたが、これがとても面白い。子ども個人、家族や友人関係、地域社会、社会システムに関する視点で、子どもたちの姿を赤裸々にしている▼この中に、「アポなしでは遊べない」「今からパラサイト」「『おかえり』が消えている」「あいさつを受け流しがち」「子どもに花金」など気になる視点がある。子どもの世界で「アポなしでは遊べない」とは悲しい。塾や習い事で放課後の遊び時間はとれないのだろうか。「今からパラサイト」とは驚くが、「家出もひとり暮らしも冒険もしたくない。自宅がいちばん」という考え方だ▼そんな忙しく、疲れている「子どもたちにも花金」をというのは、大学生が発見した貴重な視点なのだろう。「子どもは本当は遊ぶのが仕事。ぐっすり眠って、無心で遊ぶ。そんなウキウキする毎日にしてあげたい」とのコメントを寄せている。「日の出、日没」を見たことがないという子どもが半数もいるというのはショック。大人自身が「子どもの本当のシアワセ」を真剣に考える時期にある。

[H22年3月15日]

ユネスコが主催する3大事業の1つに、ユネスコ世界記録遺産事業がある。「記憶遺産」とは、日本人にとってなじみは薄いが、「危機に瀕した歴史的記録遺産を最新のデジタル技術を駆使して保全し、研究者や一般人に広く公開すること」とされている▼人類が長い間、記憶して後世に伝える価値があるとされる楽譜、書物などの記録物(動産)とユネスコ世界記録遺産国際諮問委員会で定められ、97年から2年ごとに実施。すでに57カ国120点(06年9月現在)が登録済みである▼世界各国の登録例をみると人権宣言(フランス)、ゲーテの直筆文学作品など(ドイツ)、古代の医療に関する文書(セネガル)、現存する世界最古のコーラン(ウズベキスタン)、清朝時代の満州語による機密文書(中国)など▼日本からの推薦は長らくなかったが、日本ユネスコ国内委員会は3月2日に開いた会議で、同事業に関する準備委員会を設置し、推薦に向けた作業を開始することを決めた。12年3月までに日本ユネスコ国内委員会がいくつか推薦を出す方針だ。候補としては鳥獣戯画や源氏物語絵巻などがあがっている▼これらの「記録遺産」が毀損されたり、永遠に消滅する危機に瀕してしまうことは、人類にとって大きな損失。世界遺産ということになれば、いままで以上に文化遺産に対する関心が高くなり、教育的にも大いに意義がある。この際、教育現場からも鳥獣戯画、源氏物語絵巻以外の候補作をどしどし推薦してほしいものだ。

[H22年3月11日]

民主党の小林千代美衆議院議員が北海道教職員組合(北教組)から総額1600万円の違法な選挙資金(昨年8月の衆院選)を受け取ったとされる事件で、札幌地検は3月1日、政治資金規正法違反(企業・団体献金の禁止)で、北教組の幹部3人を含む4人を逮捕した▼北教組は公立小・中学校教員を中心に約1万9000人が加入。組合離れが続く中、34.2%(昨年10月現在)という高い組織力を誇る。管理職を除けば、7〜8割は組合員とされている▼「あまりにもイデオロギー過ぎる」ことを理由に、北教組を脱退したある教師の証言によると、「脱退者に対する攻撃は激しく、しかも執拗だ」という。また、「教育委員会ににらまれるよりも組合ににらまれるほうが怖い」という。左翼的イデオロギーを盾にした攻撃はいまだに健在なのだ▼北教組日高支部はこの春、「『日の丸君が代』強制に反対するとりくみについて」と題する“闘争マニュアル”を作成したが、その内容があまりにも前時代的な考え方なのに驚いた。日の丸君が代への反対を表明した上でその理由に「憲法の主権在民や良心の自由を侵害」「侵略戦争のシンボル」「政治大国、軍事大国のシンボル」「掲揚や斉唱を通じて改悪学習指導要領の徹底につながる」などをあげている▼国会議員への献金が自らの政治的要求を貫徹するために行われたとは思いたくはないが、実際に法律違反の献金が行われたならば、その主張も色あせたものになろう。

[H22年3月8日]

4月実施を目指す高校授業料の実質無償化で“迷走”が続いている。朝鮮学校を入れるかどうかで首相をはじめ、閣僚間で様々な意見が飛び交っているのが原因だ▼“迷走”は米軍基地の移設問題と同様、現政権のお家芸で、驚くには当たらないが、審議会なりで十分な審議を経ずに法案を提出してしまった“ツケ”がここに来て露呈したといえる▼“迷走”の発端は、中井国家公安委員長が北朝鮮への制裁(拉致問題)との関連で、朝鮮学校を無償化の対象から外すよう川端文科相に要請。これに対し、文科相は、外交問題を対象決定の判断材料とはせず、「何をもって『高校と同じもの』とみなすのかという判断基準は、国会の議論も踏まえながら最終的に省令で決めたい」との考えを示した▼“迷走”に拍車をかけたのは、やはり鳩山首相の発言。首相は当初、中井国家公安委員長の発言を支持していたが、翌日には、朝鮮学校側の反発を恐れてか、「文科省を中心に検討している」と、すぐさま修正に動いた▼“迷走”する政府の姿勢に、朝鮮学校側は、「あくまでも対象にすべきだ」と反発を強めている。また、イーエーエスブラジル学校浜松校(浜松市)が南米系外国人が通う各種学校も無償化の対象に含めるべきだとした報道もある。多額の血税を導入する高校の実質無償化を実施するためには、納得のいく線引きをする必要がある。その際、あくまでも「高校」にこだわる必要がある。文科相の指導力が問われる問題だ。

[H22年3月1日]

文藝春秋3月特別号で「ひとを動かす言葉の力―指導者研究」という特集が組まれている。そのリードに「なぜ彼は大事業を成し遂げることができたのか。どうして彼のまわりには人材が集まってくるのか。なぜ彼の存在がかくも大きく重く感じられるのか。身近で接した人だけが知る忘れ難い一言、人間力の秘密」とある▼取り上げられたのは、政財界、官界、学会、スポーツ界などで活躍した超一級の人物15人。かつて親しく交わった人たちが執筆しその素顔とともに「ひとを動かす言葉」を紹介している▼連合艦隊司令官・山本五十六の「ほめてやらねば人は動かず」はあまりにも有名。「経営の神様」といわれた松下幸之助は社員が製品開発で大苦戦しているとき、「君は商品を抱いて寝たことがあるか?」と一言。「寝食を共にするほど徹底的に商品に向かい合うこと」を示唆▼ソニー創業者の井深大は細かな管理などをせず、仕事の裁量をすべて本人に任せる鷹揚さを持ち「仕事の報酬は仕事」との名言を残した。日本サル学のリーダーで登山家・探検家として多くの学術探検を主導した今西錦司は「真っ直ぐや!」が口癖で右顧左眄しないことがモットー▼もう1人、政治家の岸信介。「昭和の妖怪」と呼ばれる一方、「戦後日本の宰相の中でも傑出した存在」ともいわれ、評価が分かれる。座右の銘が「決意を断言するのが政治家」。そうでない政治家は評論家にすぎないとみている。いまの宰相の言動をみると、けだし名言だ。


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