トピックス 教育新聞社
[11月27日号]

大学教員になるチャンスを
全国日本大学開放推進機構 香川正弘理事長

 生涯学習に対する市民意識の高まりと地域社会に貢献する大学経営のあり方を考えるため、今年2月に発足した全日本大学開放推進機構(理事長・香川正弘上智大学教授)が11月から、初の養成講座として「大学拡張認証講師養成セミナー」をスタートさせた。同セミナーは、地方の中小企業と大学を結びつけ、地域経済の発展につながるための土台づくりとなるものとして期待されている。セミナー実施までの経緯や地域社会との連携について、香川正弘理事長に話を聞いた。

■セミナー実施までの経緯
 全日本大学開放推進機構は、土・日曜日を利用して短期間に集中的に実施する養成講座を開くことにした。
 このヒントは、かつて「サラリーマンの生涯学習考」(12回講義、実員20人)を4期担当したことがあり、それが基で、自主的な学習団体としての紀尾井生涯学習研究会ができ、そこで研究発表や論文作成などをするということを繰り返して、大学の専任教員や非常勤講師などを7、8人輩出したという経験があったからである。
 大学というところは、書いた物で評価する。自分のテーマをもち、人前で発表し、評価され、かつそれが論文を持っていれば、その専門性の高さから大学の教員になれるチャンスも生まれる。こうした養成をもっと組織的にやろうというのが、今回のセミナーである。
■講座の内容・方向
 大学開放講座は、これから発展していく分野で、取り上げねばならない内容がたくさんある。たとえば、消費者教育や年金問題などもそうだ。消費者教育は大学の授業ではほとんど開かれていないし、専門の教員もきわめて少ない。年金関係では、実務とそれを成り立たせている社会保障論の両方が分かっている人材が必要だろう。地域社会のニーズに応えた内容を講座にしていくべきであると考える。
 開放講座の内容は、教養的、専門的、職業的な3分野に分けられるが、社会人はいずれの場合も生活から生じる課題意識、すなわち実学的な側面から関心をもって入ってくる。しかし、すぐに役立つ実学であれば、社会にたくさんそうした学習の機会は開かれているから、大学で行う必要はないだろう。大学で実学に関わる内容を扱うとすれば、実学プラスその背後にある原理をも教育することが不可欠である。
 従来の公開講座は、不特定多数を対象にしているものがほとんどを占めている。今後は、それだけでなく、特定の指向性をもつ集団に向けて講座を提供していく必要がある。
■開放講座は可能性の大きい分野
 今までの大学開放講座は、学科の教育内容を地域の人々に開けばいいというように考えていて、地域社会の人々の切実なニーズに応えるという姿勢が欠けていたと思う。例えば、不振の商店街、リストラで解雇された人たち、社会問題となっているフリーターなどの問題に、まったくといっていいほど大学の開放講座は関心を示していない。それは、長い間にわたって構築されてきた学科の教育内容に、そうした内容がほとんどないことによる。学問になる途上の内容は、大学開放講座で扱うのに適している。
 大学と地域との連携をいうのであれば、地域社会の人々の切実なニーズに応えることが必要であろう。主として年金受給者と主婦を対象にしていれば、地域社会を相手にしていると思ってはならない。地域社会の活性化に寄与したいならば、そうした人々はもちろんとしても、地域に住んで現役で働いている人々をこそ対象としなくてはならないだろう。
 中小企業、地場産業、個人経営、そうしたところで働く人々の切実なニーズに応えることが、大切な観点であると思う。
 今や国際競争は、大企業だけの問題ではなく、どのような職業分野でもかかわっている。勤労者は就業能力を、企業や専門・職業団体は創造力を高めないと存続が危うい状況にある。こうしたことに寄与することが、これからの大学開放の重要なテーマになる。

[11月24日号]

03年日本教育カウンセリング学会開く

 NPO日本教育カウンセラー協会(会長・國分康孝東聖徳大学教授)と日本教育カウンセリング学会(理事長・茨木俊夫埼玉大学教授)は10月25、26日、東京・葛飾区の聖徳栄養短期大学で、「これからのスクールカウンセリングに期待するもの」を主題に、03年度の研究発表大会を開いた。「公開シンポジウム」や発表論文などを紹介する。

学び方の多様性を市川教授
 2日目に開かれた公開シンポジウム「これからのカウンセリング」では、新井邦二郎・筑波大学教授をコーディネーターに行われた。
 内閣府「人間力戦略研究会」の座長を務めた市川伸一東京大学教授はまず、スクールカウンセリングの機能について(1)子供たちの「学習活動」への支援(2)教師の授業に対するコンサルテーション(相談)――の2点を提唱した。
 子供たちの「学び」に対する意欲の低下を危惧する市川教授は、同大学内に「学習相談室」を設け、現職教員らを対象に、認知カウンセリング・ゼミを開いている。
 この認知カウンセリングのねらいは、「学習者の自立」で、学習に対する有能感や応力感、自信などを子供自らが培う点にある。
 その際、カウンセラーの役割は、子供たちへの相談・指導で、「何を学ぶのか、なぜ学ぶのか」といった学習活動へのサポートであり、「学び方の多様性を子供たちにアドバイスする点にある」と指摘する。
 学習相談設置の動きは、埼玉県草加市立松江中学校や東京・大田区立入新井第一小学校など、一部の学校で取り入れられており、「子供たちへの学習相談、教師に対する授業改善へのアドバイスなどがスクールカウンセリングに組み込むことは非常に意義のあることだ。こうした取り組みが全国に広まることを期待したい」とカウンセラーの新たな役割に、市川教授は期待を寄せる。
生き方相談を重視 柏木教授
 続いて、「ジェンダー」研究の第一人者である柏木恵子文教学院大学教授は、家庭教育力と子供の育ちの側面からカウンセラーの役割に触れ、「生き方相談」を重視した機能充実をあげた。
 柏木教授は、「今や、どの学校を出たかといった『学校歴』から、何を学んできたかが問われる『学習歴』時代」だと述べる一方で、「親や教師の『いい学校』志向は依然として強く、愛情という名の親の幻想が子供を縛りつけ、自立を阻害している」と語る。
 こうした上で柏木教授は、学校・家庭・地域全体で、子供の自立について再考する時期に来ていると指摘。
 生活の大半を過ごす学校教育に期待する点としては、「生きるとは何か」と子供自身が「生き方」を見つけるためのアドバイスをする相談体制の確立をあげるなど、進路意識の啓発から保護者との橋渡しを含む専門家配置の必要性を訴えた。
キャリア教育推進で 菊川教授
 キャリアカウンセリングの研究・実践家で知られる日本進路指導学会理事の菊池武剋東北大学教授は、フリーターの増加や若年者短期離職問題を踏まえ、教育現場の現状に言及。
 進路指導が進学指導に偏っている点を問題視し、「単に上級学校への進学や職場への移行ではなく、人生設計を見越した指導が重要」と述べ、「生きる力」を培うキャリア教育の必要性をあげた。
 キャリア教育とは、主として、(1)人間関係形成(2)情報活用(3)将来設計(4)意志決定――の4つの能力を育成するもので、菊池教授は、「小学校段階の早いうちからキャリア教育を推進していくことが重要だ」と強調した。
 また、「個々の教師がキャリアカウンセリング・マインドを持つことが重要」だとした上で、「児童・生徒の適応支援の相談活動や進路問題に対し、学校・保護者・地域との調整役をつとめるキャリアカウンセリングを担当する専門的な人材の配置が必要だ」と語った。
スキルもった人材こそ 田上教授
 最後に、教員免許を持ち、同時にカウンセリングの資質を備える「相談教諭」配置の必要性を訴えてきた日本カウンセリング学会理事長の田上不二夫筑波大学教授は、教員とカウンセラーとの連携について触れ、「相互間の協力関係」の大切さを強調し、「それぞれの専門性を理解し合うことが重要だ」と述べた。
 特に、「学校教育が抱える問題は、教師個人ではもはや対応できる状況にない」とし、「教師がチームを組んで取り組むことが必要であり、その際、カウンセラーの役割は、コーディネーターとしての働きだ」と述べ、分担の明確化が相互の関係性を生かしていくものだとの点を強調した。
 その上で、田上教授は、「地域や学校種別それぞれのニーズに見合った専門性を持ち、その専門性を学校現場で生かせるスキル・経験を持った人材を登用する環境の改善が求められている」と指摘し、現行制度によるスクールカウンセラーの在り方に一石を投じた。
 こうした動きに対して文部科学省では、「不登校対策など問題解決に通じるならば、『臨床心理士』に限定せず、門戸開放を検討する余地はあるが、まずはスクールカウンセラーに準ずるだけの実績をあげてほしい」との回答を寄せている。
 NPO日本教育カウンセラー協会=〒112-0012東京都文京区大塚1-4-5/03-3941-8049。

[11月20日号]

特別支援教育の課題 対談
清野佶成氏(聖母女学院短期大学教授) 細村迪夫氏(国立特殊教育総合研究所理事長)

 国立特殊教育総合研究所は、わが国の特殊教育に関するナショナルセンターとして、71年に文部省(現文部科学省)によって設置され、01年4月から新たなスタートをした。一方、今年3月に、文部科学省の特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議が「今後の特別支援教育の在り方について」と題する最終報告を出すなど、「特殊教育」も新しい展開を迎えている。そこで、同研究所の細村迪夫理事長と、長い間、東京都立の養護学校長を努めた聖母女学院短期大学の清野佶成教授とで「特別支援教育の課題」をテーマに対談してもらった。

司会 小・中学校の通常学級の先生は、国立特殊教育総合研究所に関してご存知ない方も多いと思いますので、役割を教えてください。これまでの「特殊教育」よりも広い範疇をカバーするとみられる「特別支援教育」に、どのように対応するかが課題になると思うのですが。
細村 「特別支援教育」の定義は、文部科学省からすでに発表されています。これまでの「特殊教育」の対象は、視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱・虚弱、言語障害、情緒障害の7つですが、それにLD、ADHD、高機能自閉症の3つを加えて、「特別支援教育」の対象とするといっています。
 今後は、広汎性発達障害の1つであるアスペルガー症候群を対象に加えるかが課題になってくるでしょう。
 私どもの研究所では、通常の学級に在籍する児童・生徒に関する研究としては、プロジェクト研究として、(1)学習障害児の実態把握、指導方法、支援体制に関する研究(2)多動など行動上問題のある児童への特別支援教育の在り方に関する研究(3)多様化している情緒障害教育における一貫性と継続性に関する実際的研究を行うとともに、通常学級に在籍するADHD児に必要な特別な配慮に関する研究などを行い、その成果をセミナーを通して普及すること、としています。
 また、今年度から新たに、(1)「養護学校等における自閉症を併せ有する幼児児童生徒に応じた教育的支援に関する研究」(2)「小中学校に在籍する特別な配慮を必要とする児童生徒の指導及び支援体制に関する研究」のプロジェクト研究に取り組んでいます。
 プロジェクト研究は、障害種別の組織の枠を超えてチームを作って行っています。縦割り組織というのは、いろいろな問題があるので、平成16年度から組織再編することとしています。
清野 今までの組織は障害別に研究室になっていましたが、横の組織にするのですか。
細村 課題に柔軟かつ迅速に対応できるよう、通常学級の支援も視野に入れて、室を廃止し大括りの組織とします。しかし、これまでも研究室はありませんが、自閉症の研究については、かなり前から行われ、LDに関しては、15年間ほど研究をしています。
 それから「特別支援教育」体制の確立に当たって重要な要素である盲・聾・養護学校をはじめ、小・中学校において関係者・関係機関との連絡調整を行う特別支援教育コーディネーターの養成研修を始めました。今年は2日間でしたが、来年度は内容を充実し、5日間で実施します。
清野 各都道府県では、モデル地域として、例えば、東京都墨田区と稲城市や千葉県船橋市など、多く指定されているとか。
細村 特別支援教育コーディネーターの在り方については、都道府県が推進地区を定めて、今年度から2年間の文科省のモデル事業として、研究しています。私どもの研究所では、「指導者の指導者」になるような人を養成することになります。そういう人たちに、各都道府県の研修事業の企画立案をしてもらうことになります。研究所では現在、チームを作って、都道府県等で実施する際に参考となる研修のプログラムの大枠について研究し、提示していくこととしています。
清野 どんなプログラムですか。
細村 連絡・調整、ネットワークの構築、障害のある子供や保護者の理解、教育実践の充実等の内容になります。本省と協議しながら、全国的なモデルになるようなものを作っていきたい。
司会 「特別支援教育推進体制モデル事業」に関して、当社が都道府県教委にアンケート調査しました。コーディネーターの質問に関しては、モデル地域内の各小・中学校のコーディネーターに教員を配置したとの回答が数多くありました。また、問題点としては、特別な支援を必要とする子供の判断基準がわからないということがあげられていました。
細村 今年3月に出た「今後の特別支援教育の在り方について」の最終報告では、特殊教育に関する専門的知識や技能、カウンセリングマインドのある者が望ましく、盲・聾・養護学校または特殊学級や通級による指導の経験者のほか、コーディネーターとしての高い資質や能力を有する教員も考えられると書いてありますが、特別支援教育コーディネーターを小・中学校3万4000校に加配することは大変なことです。
 そこで、学校が校務を整理・統合して、組織再編する必要があると考えています。そうしなければ実現しません。校長・教頭先生のリーダーシップにかかっています。
 近年、盲・聾・養護学校の方が地域のセンター的機能を果たしています。神奈川県では、盲・聾・養護学校の校務分掌に地域支援部というような部門ができているそうです。見通しの際に参考になると思います。
 また、私どもの研究所でも、「特殊教育諸学校の地域におけるセンター的機能に関する開発的研究」を行っています。
司会 文科省の説明によると、小・中学校における特別支援教育のコーディネーターは、教員が望ましいが、教員でなくても、ある程度知識や専門性のある人ならいいのではないかという見解です。そのことは都道府県教委には伝えられていないようですが。
細村 文科省もまだ、モデル事業における調査研究を通して検討中です。「個別の教育支援計画」の作成にも関わることから、候補者について私どもも検討する必要はあると考えています。
清野 「特別支援教育」に関して、何年くらいをめどにコーディネーターの養成を行うのですか。
細村 都道府県などのレベルで平成19年までの予定です。制度改正ははっきりしませんが、早ければ来年度にも案が示されるのではないかと考えています。
清野 現場の先生方が一番悩んでいるのは、自閉症の指導ですが、自閉症の特性からして、視覚の刺激が多く入らないほうがいいので、一人ひとりの机の前に囲いを作って見えないように工夫すると落ち着いて、机に座って勉強するようになります。ヨーロッパ、中でもイギリスでは、早くから自閉症だけの学校を作っています。日本には単独の自閉症の学級がありませんが、必要だと思います。
細村 本研究所で以前から行っている自閉症に関する研究内容を整理し、まとめていきたいと思っています。さらに、研究所の実質的な附属学校である国立久里浜養護学校が自閉症中心の学校に転換しますので、研究所と一体となって実践的な研究をしていきます。
清野 久里浜の特色は、重度重複の研究だったと思いますが。
細村 来年度、国立学校の法人化の関係で、筑波大学附属の久里浜養護学校になります。知的障害を併せ有する自閉症児を就学させ、これまでと同様に本研究所と相互に連携協力を図って、その子供たちの指導や研究に当たります。すでに、今年度からは、自閉症に限って入学させており、来年度入学の子供も同じだと思います。
清野 今後、「特別支援教育」を展開していく上で、「脳科学」の問題は避けて通れないと思います。東北大学の川島隆太教授の研究で、脳の活性化が知的障害の教育に効果があると証明されています。
細村 本研究所でも検討グループを立ち上げ、脳科学と障害のある子の教育という観点に立って研究を進めるよう準備しているところです。

[11月17日号]

多摩川流域で総合的学習 “海洋・水”の理解を

 海洋レクリエーション活動を通じて、子供たちの健全育成を目指しているB&G財団(財団法人ブルーシー・アンド・グリーンランド財団、梶田功会長)は10月18日、東京都内の小学校3〜6年生とその親16組32人が、バスで多摩川流域を巡回しながら学ぶ総合的学習を実施した。「こども海洋リサーチ学習会―多摩川の観察&学習」と題するもので、日本財団の助成事業の一環として行われた。
 この学習会は、今年6月に実施した千葉・九十九里海岸に続く取り組みで、「海辺や川辺の自然環境や人々の関わり方の変化などを調査することで、“海洋・水”についての理解を深め、自然を守る心を育んでもらう」ことが目的。
 今回、選ばれた多摩川は、山梨県塩山市にある笠取山が出発点で、東京都と神奈川県境を流れて、羽田沖(東京湾)に注ぐ総延長138キロの1級河川だ。古来から飲料水はもとより、農・工業用水をはじめ、漁業、交通のほか、人々の安らぎの場として親しまれてきた。
 この自然豊かな多摩川も、高度経済成長期には、工場や生活廃水などで川の汚染が進んでいたが、浄化施設の整備などにより、徐々に水質が改善されており、川辺の植物や魚・水生昆虫などの貴重な自然を後世に残すための様々な活動が行われている。現在、東京都の水道取水量の約2割が賄われているほか、運動公園などとしても利用されている。
 当日は参加者を東京・大田区大森在住の親子を対象にしたことから、近くにある平和島競艇場をバスで午前8時半に出発。一路、多摩川の中流域にある羽村の堰(羽村市)に到着、昼食のあと、大丸用水堰(府中市)を経て、多摩川河口、平和島競艇場に午後5時半に到着するというスケジュール。
 この間、案内役(講師)には、宇多高明土木研究センター審議役(工学博士)と清野聡子東大大学院総合文化研究科助手(工学博士)が当たった。宇多先生は、国内はもとより世界各地の海岸調査を実施するなど、海洋研究のエキスパート。「河川」問題にも詳しい。一方、清野先生は、海辺や川の環境問題が専門。「水の生き物が住む環境と人間生活との折り合いをどうつけるか」を研究している。
 2人の先生は、バスの中をはじめ、川辺などで親子学習会にふさわしく、専門的な事柄を懇切丁寧にわかりやすく説明して案内した。
 羽村の堰では「多摩川上流と中流の分岐点で、川をせき止め、都民の水道源である玉川上水へと流水している」様子を実際に見ながら、堰の役割や玉川上水がどうしてできたかなどを学習。その後、河原に降り、親子が一緒になって水に入り持参した網でメダカやハヤなどの小魚を追ったり、石の下に住む水生昆虫などを観察したりした。
 このあと、バスは、下流域をひた走り、府中市の大丸用水堰を目指した。
 バスの中では、「玉川上水」に関して、「羽村から四谷大木戸(現在の新宿区)までの約43キロの長さを持つ用水路」で、「かつては、多くの水が流れ、近辺の重要な灌漑用水として使われた」などの説明があり、「水」の大切さを学んだ。
 大丸用水堰では、「平成10年に魚が川をのぼるための最新式の魚道が整備された」など、珍しい「魚道」について学習した。そして、バスは、最終の目的地である川崎市の多摩川河口を目指した。
 講師からは、「かつての大森海岸は日本でも有数の海苔の生産地だった。川には、“ベカ船”が浮かび、あちこちで海苔干しの様子が見られた」「ヨシの群落は、多摩川河口域全体に広く群生している」「多摩川の河口付近では、淡水(普通の川の水)と海水が混じる所がある。それを汽水域(きすいいき)という」「川にすむ生物の種類によって、その川の水の汚れ具合がわかる。水生昆虫など、川の水質の違いによって、住んでいる種類が変わるためだ」「どぶ川のように、汚れがひどい所は、アメリカザリガニやエラミミズなどがいるが、大部分の生物は生き続けることはできない」など、「川」にまつわるたくさんの知識を学んだ。
 多摩川河口では、全員で干潟に降りて、カニやタニシなどの水生生物などと戯れるなど、親子が思い切り楽しんでいた。また、ここには、ペットボトルなどが散乱しているが、「中流域の羽村に投げ込まれたボトルもあると考えられる。環境問題がいかに大事かを学んでほしい」との講師の説明に、子供たちは神妙に聞いていた。その意味でも、今回の学習会は、成功を収めたといえよう。
 B&G財団=〒105-8480東京都港区虎ノ門1-15-16、海洋船舶ビル9F/TEL03-5521-6742。

[11月10日号]

「大豆の変身」で総合的学習 「序・破・急」の手法で
静岡・藤枝市在住の佐野藤雄さん

 能楽の「序・破・急」の理論を授業に応用するという独自の方法を生み出した静岡県藤枝市在住の佐野藤雄さん(81)は、今年も10月23日に、藤枝市立藤枝小学校(鈴木雅義校長)で、5年1組(33人)の「総合的学習」を指導、「大豆の変身」をテーマにした授業で、主役である子供たちの想像力や知識力などを引き出すことに成功した。「主題を明確にし、効果的な題材を使い、的確な展開を図る」ことを重視した“佐野式教授法”は、この日、参観した先生方にも感銘を与えたようだ。

 佐野先生は、静岡大学附属小学校教諭を皮切りに、主に藤枝市内の小・中学校で教鞭をとり、藤枝小学校の校長を最後に退職。その後、藤枝市教育委員会委員長などを務めた。
 この「序・破・急」の理論による授業は、退職後の平成元年から年1回、藤枝市内の小学校で実施してきた。特に、「総合的学習」が導入される以前からこの“教科”の重要性に着目。実際の授業では、それこそ1年がかりで、指導案や題材の選定などを準備して授業に臨んできた。
 先生の授業を受けた子供たちは、「楽しくて、よくわかる」「総合の授業はおもしろい。1回だけではなく、何回もしてほしい」など、たいへんよい評価を受けている。
 今回の「総合学習」の題材は「大豆の変身」。「大豆は、生育の過程でも食材に供されるが、完熟した粒は加工して、日本の伝統的な食品として使われていることを知る。また、大豆の油脂が環境保全の役割を果たしていることにも気づかせる」ことが目標だ。
 さあ、授業開始だ。子供たちは、6班(1班5、6人)の少人数編成。佐野先生は、根の付いた枝豆の茎を見せた。 「これは何だろう」と先生。子供たちは、口々に「エダマメ」と。ほとんどが知っているようだ。
 そこで、各班に、ゆでた枝豆を配り、試食させた。みんな一様に「エダマメは、おつまみにおいしい」などと答える。この段階ではまだ、枝豆があの堅い「大豆」に変身していることは、理解されていない。
 ここまでが「序」の段階。これからが「破」の段階だ。
 「大豆を加工した食品には、どんなものがあるかな?」と、黒板に、(1)きな粉(2)とうふ(3)あぶらあげ(4)なっとう(5)みそ(6)しょうゆの6種類の名前を書いた。各班で話し合わせた。その結果、一部の子供から「きな粉は違うな」「あぶらあげも」などの反応が返ってきた。  そのあと先生は、各班にその6種類の製品のサンプル(市販品)を渡し、その表示に着目させた。「なーんだ、全部、大豆でできているのか」と全員が納得。ここでは、「教える」というのではなく、「納得させる」という方法が取られた。佐野式教授法の真骨頂だ。
 そして、6種類の製品1つひとつについて説明、「きな粉は、大豆を炒(い)って粉にする」「あぶらあげは、薄く切ったとうふを油で揚げた食べ物」というように、「確かな知識」にし、「大豆を加工した調味料は、伝統的に日本の食卓に欠かせないものである」ことを分からせた。
 このあと、佐野先生は、スポーツ新聞紙を取り出し、大きく広げた。唐突なことなので、子供たちは一様に驚く。「大豆の授業なのに、何でスポーツ新聞なのか」といった表情だ。参観の先生たちも同じような感想をいだいたに違いない。
 この場面こそが「急」の段階だ。能舞台では、クライマックスの場面である。
 子供たちは、「何で新聞と大豆と関係があるんだ」と不思議そうな表情だ。誰もが正解に結びつくような発言はない。
 しばらくして、先生から「実は、スポーツ新聞の印刷のインクの油は、環境に配慮して、石油から大豆油に切り替えられている。その意味で、大豆油は、環境保全に役立っている」との説明があった。
 意外な回答にあっけにとられていた子供たちも、「大豆は、いろいろと変身して、自分たちの生活を守っているのだな」と理解し、全員納得した表情で授業を終えた。

[11月6日号]

貧しい子供たちと未来を拓く
03年全米最優秀教師ベツィ・ロジャース博士

 03年全米最優秀教師に選ばれたアラバマ州のベツィ・ロジャース博士が10月22日から30日までの9日間、(財)国際教育交流馬場財団(中島章夫理事長)の招きで来日。全米最優秀教師の表彰は全米及び世界の人々の教育への関心を高めることを目的に51年に設けられた制度で、毎年、全米250万人の幼・小・中・高校の教師の中から1人選出されている。第53代受賞者であるロジャース博士は、例年の受賞者にならい、6月1日から1年間、現場指導を離れ、スポークスマンとして世界各地の教育界や産業界で講演し、人々と交流していく。博士の人生と教育哲学について聞いた。

――教師としての哲学は。
 教師は「学習者」であり続ける者です。子供は一人ひとりがユニークです。それぞれに必要な学習方法や材料を探すのが教師の役割です。教師が「ちゃんと教えているのにこの子は理解しない」と嘆くのは間違いで、その子が「分かった」と言える方法が見つかるまで探すべきなのです。
――全米教師教育委員会(National Board Professional Teaching Standard=http://www.nbpts.org)から、幼児教育全般通暁者の認定を受けたそうですが、この資格について説明してください。
 国が定めた資格です。400時間の授業を通して子供の達成度に着目しながら、その子の作品や文章を分析していきます。授業をビデオに記録したり、分析結果をレポートにまとめて提出します。その際の重要ポイントが5つあります。(1)個人としての子供が必要とする教育的支援(2)教育への家族参加(3)地域社会の貢献(4)子供自身の学問への興味や感動(5)教師教育の機会(ワークショップや大学院での勉強)を実践に生かすことです。
 つまり、「学習者」としてのプロ教師が、指導力を高めるための資格です。
 なお、この認定を受けた教師は、アラバマ州では給料のほかに、年間5000ドルを10年間もらうことができます。額は州によって違います。もちろん私は、自分の指導力を高めるためにこの資格に挑戦しました。
――教師としての生きがいは。
 アラバマ州は美しいけれど貧しい州で、半数以上の子供たちが貧困生活を送っています。私の勤める学校の子供たちも、裕福な地域の子供たちに比べれば、外界の刺激や体験が非常に少ないし、教育予算も全米で最低レベルです。私たちのフラストレーションはたまりますが、ユーモアで乗り切っています。
 このように、恵まれない学校には最強の教師がすばらしいカリキュラムを組んで当たることが必要です。「学習者」としてしっかり歩んでいる教師がいれば、子供たちの瞳は希望に輝くのです。
 多くの教師は、博士号を取得したりなにがしかも資格を得ると、豊かな地域の学校へと移っていきます。私が貧しい学校にいつづけるのは、ここの子供たちを愛し、彼らが自分を必要としていることを知っているからです。そして、この多様性豊かな学校で働くことを心から楽しんでいます。
 特に幼い子供が読むことを覚え、世界を広げた時、私は大きな幸せを感じます。
 アラバマ州には優れた教師がいます。その代表はアラバマ州出身のヘレン・ケラーの家庭教師であったアン・サリバンでしょう。ヘレンがサリバン先生に会わなかったら、どんな人生になっていたでしょうか。ヘレンは自叙伝にこう書きました。「教育を施される前の私は、行く先の分からない、霧に包まれた船のようでした。『光をください!』という私の心の叫びは、先生に出会ったときに叶ったのです」
 このように、1人の教師は、子供の人生に大いに貢献できるのです。

生涯を通じて学び続ける人
 74年、アラバマ州バーミンガムのスタムフォード大学卒業(初等教育専攻)以来、育児休職中と中学生の数学を担当した1年間を除き、ずっと小学校低学年の教師として歩み続けている。2人の息子たちが高校を卒業したあとは、志新たに大学院に通い、教授法を学びながら教師を続ける道を選んだ。
 24年ぶりに学生として学びながら、教師として実践を積むという幸せな日々を過ごしたのもつかの間、最初の半年が過ぎた頃、ロジャースさんは夫を急な心臓発作で亡くしてしまった。98年、彼女が46歳の時だった。
 自分の人生が終わってしまったような喪失感を味わい、担当の教授に学業を断念すると言ったものの、2週間後には大学院に戻った。自分自身が「生涯を通じて学び続ける人」のモデルとなり、子供たちを励ますことが己の仕事だと悟ったからである。
 翌年、修士号を取得した時は、達成感と充足感を大いに得たが、それでも夫を失った傷は深く、彼女の心はぽっかりと穴が開いたままだった。
 そんな折、彼女のクラスにドントレイという6歳の少年が入ってきた。彼は体に重い障害をもち、しかも母親を失ったばかりだった。「マミーに会いたい」とロジャースさんによくすがりついてきていた。
 そんなドントレイがある日の算数の授業で、「世界一周」というゲームをやっていたとき、クラスで一番大きく、賢い男の子を相手に「さあ、来い」と、勇敢に立ち向かったのである。ドントレイのチャレンジ精神に深く感動したロジャースさんは、さらに教師としての力量を高めようと、全米教師教育委員会から、幼児教育全般通暁者の資格を得ようと決意し、00年には認定を受けた。
 また、ほとんど時を同じくしてスタムフォード大学院の博士課程にも進み、02年に博士号を取得。そして今年、第53代全米最優秀教師に選ばれたのである。

[11月3日号]

すみだの街のエジソンに 「発明」視野に総合的学習
東京都墨田区立本所中学校の1年生

 「すみだの街のエジソンになろう!」。こんな思いを込めて、東京・墨田区立本所中学校(森本芳男校長)の1年生(167人)がユニークな総合的学習に取り組んでいる。発明王エジソンが創始した世界第一の大企業「ゼネラル・エレクトリック社」(GE)の社員のアドバイスを受けながら一緒に街に出かけ、“すみだの街に役立つ発明”を考えようという企画だ。10月20日の学習を終えて森本校長は、「外部の人たちの協力により、生徒たちが自信をもって、生き生きと活動しているのをみて驚いた。これこそ総合的学習だと手応えを感じた」などと感想を述べていた。

 「開かれた学校」を信条とする森本校長は、日頃から外部の教育支援団体との接触が多く、今回、ゼネラル・エレクトリック(GE)ジャパンとの橋渡しの役割を果たした東京ボランティア・市民活動センターとは、数年前からのつき合いだ。
 同校のある墨田区は、東京・下町にある。いち早く「マイスター制度」を導入するなど、古くから「物づくり」の街として知られ、数多くの“発明品”も生み出している。
 そんな環境にある子供たちも、少しずつ「地域」との関係が薄れてきており、「物づくり」にもあまり関心をもっていないのが現状だ。
 そこで、同校では今回、GEジャパンの協力を得ながら、「地域に役立つ発明家になろう」というテーマを設定、1年生の総合的な学習の時間を利用して、「発明」の重要性を理解してもらう企画をたてたもの。
 この日の学習に入る1週間前、すでにオリエンテーションが行われ、GE社員が各クラスのゲストティーチャーとして参加、10月20日の学習の目標やねらいなどを学習した。
 当日は、1年生5クラスを6班ずつに分け、GE社員約40人(外国人も数人参加)が指導者として、各班に1〜2人ついた。指導者と生徒がグループで一緒に街に出かけ、「住みよい墨田の街をつくるために何が課題かを考え、その解決のために、どのようなプロジェクトや製品を創ったらいいかを検討し、その作品を発表する」というもの。
 午前9時、各班は今回の課題、調べたいもの、歩くコースなどを確認したあと、一斉に街に繰り出した。午前中、街の探索をしたあと、各クラスで役立つ製品や発明品の企画書をまとめ、模造紙に書き上げた。午後は、各クラスで発表会が行われたあと、作品をGE本社に提出した。
 発表会での作品は、5クラスから計30本。その多くは、ごみや自転車の違法駐車などの環境問題、老人介護などの福祉問題が目立った。GE社員から「実現不可能でもよいから、プラスの発想をしてほしい」との注文があったせいか、作品の中には、奇想天外とも思える「物」(発明品)もあった。
 中には、「たばこのごみを収拾するために、ゴミタンク車をつくったらどうか」「違法駐車した車は、大きな発信音が出る機械を取りつけるべきだ」「車いすを利用する人たちのために、駅などの出入り口は、すべてスロープに」などの発表があった。これに対して、反対する声、支持する声などが飛び交い、終始、活発な雰囲気でつつまれていた。
 なお、これらの生徒の作品は、後日、GEの社員が投票し、「エジソン・チーム賞」「努力クラス賞」などの優秀作品制作者は、東京・六本木本社で、GE社長から表彰される。また、GEホームページで世界に発信されることになっている。  同校所在地=〒130-0005東京都墨田区東駒形3-1-10/TEL03-3625-0355。


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