(提言)「ありがとう」

愛知県教育委員会生涯学習課・主幹 山﨑 喜一

「生涯学習の仕事は『ありがとう』と言ってもらえるからやりがいを感じる」と語る同僚の言葉を耳にしたのは、今から15年前。私が初めて学校現場を離れて勤務した、ある町の生涯学習課でのことでした。それ以来今日まで、幾度もその言葉を思い出しています。 例えば、今年度の県生涯学習課の事業三つに照らしてみますと、一つに子供の不登校等に悩む家庭へ「家庭教育コーディネーター」を派遣する事業があります。その任には校長として退職された方に当たっていただき、相談の対象となった8割以上の子供たちを良い方向へ導けています。「ありがとう」の声が、県内各所で静かに響く事業です。 二つ目に、学習の遅れがちな中学生等に学習支援を行う「地域未来塾」の事業があります。担任として個別指導してあげたいと思う生徒への学習支援を、放課後のひと時、地域にお願いする事業とも言えます。 ある市では、かつて塾生として地域の方から学んだ中学生が大学生になり、ボランティア指導者として塾に戻ってきています。教えてもらった感謝の気持ちから芽生えた「次は自分が教える側に」という意思が、新たな「ありがとう」を生み出しています。 もう一つは、中学卒業時の進路未定者や高校中退者等に社会的自立を促す「若者・外国人未来応援事業」です。 これは、高等学校卒業程度認定試験の合格を目指した学習支援や相談活動を実施する事業です。ここでの支援を受けたことで、資格を得て進学や就職の道を開いた若者や、引きこもりから抜け出し働き始めた若者がいます。ある受講者からは「この場を作っていただいた全ての方に感謝いたします」という手紙も寄せられました。 ともすれば生涯学習は子供たちから遠い世界と思われがちですが、意外と近くにある存在です。「ありがとう」と言える子、そして、「ありがとう」と言ってもらえる子を育む環境が、子供たちのすぐ身近にあるのです。 ペップトークの日本の第一人者である岩﨑由純氏は「『ありがとう』は、最も美しい日本語であると同時に最強のペップトークだ」と語っておられました。 これからの社会を築いていく全ての子供たちに、多くの「ありがとう」を体感できる経験が、生涯学習事業を通して広がっていくことを心から願っています。