(提言)45通の絵手紙

岡崎市教育委員会教育長 安藤 直哉

「やあ、担任の山田です。よろしく。」

水彩の絵に、そう言葉を添え、はじめの絵手紙を送った。

差出人は青年教師、受け取ったのは中2の女の子である。彼女は、中1の秋、突然、学校に行くのを止めた。家族に理由を言うこともなく、学校からの全ての連絡を絶っていた。そして、2年生になった4月11日、初めてこの絵手紙を目にした。

「芽がでたよ、先生の子供がまいたあさがお。種は芽が出る前に必ず根が出る。土の中で見えないけど、これが大事なんだ。」

青年教師は、12通目の絵手紙にこう書いた。

彼は、教室から見える自然、大好きなジャイアンツ、授業での失敗など、まるで帰りの会で生徒に話すように、絵手紙にして送った。学級で席替えをしたときには、女の子の席が中央の一番前で、後ろに誰がいるとか、黒板が見やすいとかを文字と絵で、風景が目に浮かぶようにして伝えた。

女の子は、時々届くこの絵手紙だけは読み、大切にするようになった。

この青年教師に限らず、多くの先生は、学校に登校できない子の心のエネルギーが少しずつ、少しずつたまるように必死になってアプローチしてきた。

ところが、教師のそんな地道な取り組みが無くなるのではと、心配になる通知が10月末に文部科学省から出された。これまで、不登校児童生徒への支援は、「学校に登校することを前提」にしてきた。それが、「社会的な自立」を目指すことに変わったのである。つまり、不登校児童生徒に限っては、「社会的な自立」ができれば、学校に登校しなくてもいいとも解釈できるのである。

学校は正念場を迎えている。教育委員会は学校をどう支えるのか、知恵を絞らなければ、学校改革どころか、学校教育の衰退になりかねない。

青年教師は、44通目にこんな絵手紙を送る。

「桜の枝を見ていたら蕾が膨らんでいました。冬の間、何も変化がないようだったけど、ちゃんと準備ができているんだなあ。春近し。」

3月も終わりに近づいたある日、この言葉に触発されるように、ついに女の子は登校した。

「とってもいい笑顔だったよ。がんばったね。うれしかったよ。」

と、彼は、45通目の絵手紙に大きく、温かく書いた。

一人の女の子を救ったのは、たった一人の教師の絵手紙にこめた心である。

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