【教師力・人間力(39)】ソフトボールの神様

教職に就いて36年と半年がたちました。あと1年半で38年間の教員生活が終了します。この間、数多くの生徒と出会い、いろいろなことがありました。

最後に赴任した現任校の2階にある校長室から、運動場がよく見渡せます。この運動場で起きた26年前の夏の出来事が今も強く心に残っています。

当時、私は瀬戸市内の別の中学校でソフトボール部の顧問をしていました。当時の中総体のソフトボールの会場が、現任校の運動場でした。

私は、その中学校に赴任すると同時に、ソフトボール部の顧問になりました。私が顧問になった年の1年生の中に、特に一生懸命練習する生徒、Nさんがいました。Nさんは、3年生の中総体が終わるまで、一度も休まず遅刻もしないで練習に参加しました。毎日帰りの会が終わると真っ先に校舎から出てきて、バットやボールなどの道具を運んだりベースを置いたりしていました。

Nさんは、本当にまじめに練習に取り組みました。毎日練習の最初に「塁間ダッシュ」を10本していました。ソフトボールの塁間は18・29メートルです。その18・29メートルをダッシュする練習です。Nさんは一生懸命走るので、いつも塁間の倍くらいのところまで走っていました。

そんなNさんがキャプテンになり、迎えた最後の中総体。会場は、水野中学校でした。準決勝のことです。試合は1点リードされたまま最終回の裏の攻撃になりました。ツーアウト、ランナーは二塁・三塁。最後にバッターボックスに立ったのは、Nさんでした。

Nさんが打ちました。ショート正面のゆるいゴロになりました。普通ならこれで「ゲームセット」となるところですが、毎日毎日全力で塁間ダッシュを繰り返してきたNさん。最後の最後にその成果があらわれました。

審判の判定は、「セーフ」。

相手のファーストの選手は、当然アウトで試合終了と思ったのでしょう。審判の判定の後、一瞬、審判を見て肩を落としました。そのわずかなすきに、三塁ランナーに続いて二塁ランナーまでもホームインしました。劇的な逆転勝ちを収めたのです。

私は、その中学校で9年間ソフトボール部の顧問をしましたが、顧問をしながら感じたことがありました。それは、高い運動能力があるという選手より一生懸命練習したという選手の方が活躍するということです。そして、一生懸命練習したチームが勝つということです。それはまるで、いつも誰かが練習を見ていて、「一生懸命がんばってきたこの選手に打たせてあげよう」とか「この試合は、よく努力してきたこちらのチームに勝たせてあげよう」などと決めているような感じがしました。私は、その誰かを「ソフトボールの神様」と呼んでいます。

生徒たちには、よくこの話をしました。そして、次のように締めくくりました。

「ソフトボールに限らず、また部活動に限らず、勉強にも、日常生活にも『神様』はいる。そう信じて、正直にひたむきにがんばっていってほしい」

(中崎毅・瀬戸市立水野中学校長)

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