(提言)学び続ける人

田原市教育委員会教育長 鈴木 欽也

先日、田原市内在住のA氏とお話をする機会があった。

少し前に、地元の中学校で文化体験講座の講師をやられたということであったが、氏の年齢を聞いて驚いた。今年で米寿を迎えられたとのこと。この年齢で、中学生相手にパワーポイントを駆使して、2コマの授業をやられたとのことであった。

A氏の経歴を伺い、一層驚いた。氏は、国立大学と私立大学で長年教鞭(きょうべん)をとり、72歳で退官されたあと、アイルランドの大学へ単身で留学をされた。

何かつてがあったわけではなく、インターネットなどで調べを進めたところ、氏が研究したい学科が、たまたまアイルランドの大学にあり、レポートを提出するなどの申し込みをする中で、入学の許可が出たとのことであった。

それから約10年の間に2つの大学で学び、81歳の時に、社会高齢学の博士号を取得された。

社会高齢学とは、耳慣れない学問であるが、医学的に健康を目指す分野とは別の視点、つまり社会性の向上という面から高齢者が健康に生活できる社会を実現しようという研究である。超高齢化社会を迎えた今、克服すべき多くの課題に対するA氏の切実な思いから取り組まれたものなのである。

A氏のお話を伺う中で、私が最も感銘を受けたのは、氏の学びに向かう姿勢である。心の底からの「学びたい」という強い思いが、氏を突き動かしてきたことは間違いない。その思いが、高齢になった現在までずっと学び続ける姿勢を生み出しているのである。また、「学びたい」という思いの根底には、「いくつになっても成長したい」という強い向上心と、自分の周囲の問題を常に自分事として捉える資質がある。このことは、氏がご高齢になられた今も健康で活力にあふれていることとも大いに関係があると思っている。

コロナ禍の閉塞(へいそく)感が広がる中、教育現場では、限られた時間や活動の中で、真に大切にすべきことは何かを問い、それを絞り込みながら、必死に教育活動を進めている。

A氏の学び続ける姿は、今の私たちが大切にしなければならないことのひとつの指標であると思っている。子供たちにも、生涯学び続け、前向きに生きる人になってほしい。こんな時代だからこそ、その思いを強くしている。