【教師力・人間力(41)】是非の初心忘るべからず

新任の先生、教育実習の学生にはいつも、次の質問をします。ありきたりかもしれませんが、自分自身もそのたびに自問自答してきました。

■あなたは、なぜ、教師を目指すのですか?

動機です。これまでの生い立ちやさまざまな出会いの中で、先生を目指したことが伝わります。先生同士でも、お互いに知り合うことは大切。根っこの部分を知ると、互いに大きな支えにもなります。

私も、たくさんの人たちのおかげで、この道を目指しました。感謝と恩返しの気持ちで、この道を歩き始めました。「初心忘るべからず」志を立てた頃の気持ちは、決して、忘れるわけにはいきません。

■あなたは、子供に何を伝えたいですか?

子供の可能性は無限です。そこで「一万個のトマト」の話をよくします。たった一株から「水平放任栽培」によって、一万個以上のトマトが実を結びます。ギネス記録にもなっています。

「子供というのは『身の程知らずに伸びたい人』のこと」という大村はま先生の言葉。子供の可能性の芽をつぶしてはいけません。そのために教師は、常に刺激を求めて、一緒に学び続けなければならないと思うのです。

いろんなことに興味のある、学ぶ姿勢のある教師は、子供にとっても魅力的です。さしあたって役立つのは、学生時代に夢中になったことです。

私は学生時代、人形劇や絵本に出会い、今でも読み語りを続けています。現場には、さまざまな特技を持った先生がいます。一緒にコラボすると幅が広がり楽しいです。

どんなときも、自分の与えられる全てを惜しげも無く、子供たちにぶつけてみることが大事です。良いことも、悪いことも。それが子供たちの「生きる力」を育むのです。ただいい先生だけではダメで、厳しさと優しさで人を育てていくものです。

■あなたは、教師に向いていると思いますか?

答えはいりません。向いているかなんて、自分で決めることではないはずです。ところが、自信たっぷりに「自分は先生という仕事に向いています」と言い切る若い先生がいると、恐ろしくなります。子供や同僚が求めるのは、「この先生と一緒に学びたいなあ」の一点なのです。

さらに、どの子もまるごと受け止める覚悟。子供たちは、それぞれの家庭環境を抱えて、学校にやってきます。先生は分かってくれている、先生は守ってくれているという安心感。さらに、みんなに認められている所属感が、学びの意欲を生むのです。「学校は社会の中でもっとも平和で安心な場所でなくてはならない。なぜなら、大切な命と笑顔を預かっているのだから」生徒指導に迷っていた頃に出会った、夜回り先生こと、水谷修先生の言葉。つまり、居場所づくりができるかどうかが、大きな鍵です。

教師はドラマチックですてきな仕事です。見返りを求めず、与え続ける仕事です。教え子の多くが、それぞれの道を歩き出し、社会の一員として立派に働いていると思うと、わくわくが止まりません。思いをつないでくれている子供、教師たちがいてくれることが、今の喜びです。

コロナ禍の中でも、真理は変わりません。

是非の初心忘るべからず
時々の初心忘るべからず
老後の初心忘るべからず
(世阿弥『花鏡』)

多難の時代ですが、その都度、初心を振り返りたい。初心は、一生続くものです。

(林正人・蒲郡市立西浦小学校長)