【教師力・人間力(48)】トヨタ自動車での学び

 豊田市教育委員会に勤務した1年目の2016年度、トヨタ自動車に研修員として勤める機会をいただきました。本社ビルにある総務部という部署で、多くの貴重な経験をさせていただきました。それまで教員の世界しか知らなかった自分は、大きな刺激を得ることができました。その一部ではありますが若き先生方に伝わるものがあれば幸いです。

ゆとりあるアクセルワーク

 4月1日に初出勤し、社内で異動された方と共に配属先であいさつをしました。不思議なことに新入社員が一人もいませんでした。教員は、辞令を受けて学校へ赴任し、第1回の職員会議が行われる日です。後に知ったのですが、キャリアの新入社員は、約半年間の研修を受けてようやく配属先が決まります。それで新入社員がいなかったのです。教員は1週間もたたぬうちに始業式があり、授業を行わなくてはなりません。中には担任を受けもつ人もいます。トヨタ自動車では「モノづくりは人づくり」という人材育成の理念のもと、配属後も研修やOJTが続きます。

 一方で、教員は新任でも4月から責任とやりがいのある仕事をベテランと同様に担い、理想の教師像を具現化していくことができます。

 しかし、いざ仕事に就いて働き始めると、授業や教材研究だけではなく、想定外の事が起きたり、保護者への対応が発生したりして、体力だけではなく精神的にも疲れることがあります。そのような経験をされた方もいると察します。

 教師の仕事の力量は研修だけで高めることは難しく、生身の子供を相手に実践する方法以外にはないのです。時には全力で向かうことも必要ですが、気持ちのゆとりをもったアクセルワークで目的地を目指すことが大切です。子供にとって、担任の先生は1人しかいないのです。

 他の職種との比較ではなく、子供たちが憧れるような存在であり続けるために、いつも笑顔でいられる働き方を自らつくることが大切です。「人づくりは国づくり」という気概で心にゆとりをもち学び続ける教員でありたいと思います。

新聞を読む

 研修員の2年が終わろうとしている頃、上司と2人になった折に「近藤さん、学校の先生には新聞を読んでほしいです」と含むように言われました。上司は、人事部から異動されてきた方で、小学校に通う娘さんもおられました。上司は何を言わんとされたのか、その奥にある思いをくむと、返す言葉に詰まりました。この一言が今でも頭から離れずに残っています。

 日々の忙しさの中では、つい教えることの目的は頭から離れてしまいがちです。何のために、この授業を教えているのか、何のために朝の会や帰りの会で子供たちに話をするのか。自分の中の価値観をよりどころにして話します。当然それでいいと思うのです。しかし、この国の将来を担う子供たちを育てる先生方には、世の中がどのように変化しているのか、そのためにどのような力が求められているのか、そういったことも理解した上で子供たちの教育をしてほしい。そんな思いから「新聞を読んでほしい」と言われたのではないかと思うのです。

 世界のトヨタと言われる企業で働く人も、学校の教員には期待をされているのです。「先生方、世の中の動きも知ってください。政治や経済、国際情勢、情報化、流行など、世界は刻々と変化しています。変わらないものもあります。これらのことを理解した上で子供たちを導いていただけませんか」そんな期待の言葉が聞こえてくるのです。

 若き先生方、共に頑張りましょう。

 (近藤宣広・豊田市立御蔵小学校長)

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