(読者の窓)校歌を歌える日まで

 毎年行われる校内合唱コンクールの校長あいさつの中で、私は音楽のもつ力について伝えている。音楽には、人の心を一つにする力、大切なメッセージを伝えて聞き手の心を動かす力がある。また、過去の出来事を一瞬にして思い出させる力がある。音楽は人生を豊かにする。

 半世紀前に自分が通っていた小・中学校の校歌は、今でも何となく口ずさむことができるのに、年齢を重ねたせいか、最近は勤務校の校歌がなかなか覚えられない。メロディはまだしも、歌詞がおぼつかない。校歌は、長年に渡って愛され、歌い継がれてきた、学校の大切な伝統である。校長が歌えないとあっては、生徒に示しがつかない。転勤の度に、必死に覚えようと努力するのだが、コロナ禍では、生徒が学校行事の中で校歌を歌うこともままならず、耳にする機会が減っている。仕方なく、音源を入手し、個人練習に励んでいる。

 私は、過去の離任式の際、惜別の思いを込めて、校歌を独唱してきた。そして、今年4月の入学式でも、舞台上から校歌を歌った。従来の入学式では、式の後、合唱団が校歌披露をしていたが、この2年間はかなわなかった。私が歌い終わると、会場から拍手をいただいた。後から聞いた話だが、涙を流して聴いてくださった保護者の方もいたという。歌い終わったところで、新入生にこう伝えた。「いつか、皆さんと一緒に校歌を歌うことができる日が来るのを楽しみにしています」果たして、その日が来るのは、いつになるのだろうか。

 (武田一宏・名古屋市立矢田中学校長)

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