教師力・人間力―若き教師への伝言(52)謙虚な気持ちで

 私の初任地は、豊田市の中学校でした。私を含めて一度に5人の新任が赴任した大規模校でした。生徒指導面で苦労を重ねながら5年間勤め、出身地である蒲郡市の中学校に戻ってきました。

 初めての転勤で不安もありましたが、5年間の経験を経て、当時はそれなりにやれるという自信もありました(後に、自分を過信していたことに気付かされましたが)。

 しかし、子どもたちとの出会いから1カ月ぐらい過ぎた頃、学級経営がうまくいっていないことに気付きました。あれこれと手を打ってみましたが、どれもうまくいきませんでした。でも、自分に原因があるとは考えず、何かのせい、子どものせいにして責任転嫁していました。その当時はまだ聞かれなかった言葉ですが、あの年は学級崩壊していたのでは、と思います。

 悶々とした日々を過ごす中で出合ったのが、相田みつをさんの『にんげんだもの』という本です。ページをめくっていく中で、「いいことはおかげさま わるいことは身から出たさび」という言葉に出合い、衝撃を受けました。その言葉と出合ったことで、「今まで自分でうまくやれていたと思ったことも、周りの人の支えや援助があったからではなかったのか」「同僚の先生方からのアドバイスに、素直に耳を傾ける自分はいたのか」「子どものせいではなく、心から子どもに寄り添う指導・支援ができていなかった自分に原因があったのではないのか」、自分を深く見つめ直す機会となりました。それ以来、

いいこと=おかげさま

悪いこと=身から出たさび

 この思いを大切にして教員生活を続けてきました。

 2000年のシドニーオリンピック柔道100キロ超級に篠原信一選手が出場していました。近年は、バラエティー番組に出演するタレントのようですが、当時は金メダルが確実視される柔道家でした。決勝戦。篠原選手が相手の技を透かして「一本勝ち」と思いましたが、審判は相手にポイントを与えて試合続行。結局、試合はそのまま終了。篠原選手は判定で破れ、銀メダルに終わりました。「世紀の誤審」と言われる試合です。

 審判のせいにして、不満を言ってもおかしくないのに、篠原選手は「あれは自分が弱かったから負けた」「審判に不満はない」という発言をしたそうです。この話を聞いたとき、他人のせいにするのではなく、自分を振り返る篠原選手の姿に感動を覚えました。

 私たちは、何か苦しいことやつらいことがあったり、失敗したりすると、すぐに誰かのせいにしたり、人を批判したりすることがあります。その方が気持ちが楽になるからです。しかし、それでは何の解決にもなりません。現実(結果)を素直に受け止め、自分には何が足りなかったのか、どうするべきだったのか、しっかり振り返り、自分を見つめ直すことが成長につながるはずです。

 「おかげさま」と周りに感謝する気持ちと、「身から出たさび」と常に自分を見つめ直す姿は、謙虚さにつながります。特に授業づくりが優れていたわけでも、生徒指導に強かったわけでもない私が、ここまで教師を続けてこられたのは、「おかげさま」と「身から出たさび」という言葉を大切にしてきたからだと思います。

 若い先生方には、常に感謝の気持ちをもち、謙虚さを大切にして頑張ってほしいと思います。そうすれば、いつも誰かが見守ってくれています。困っている・迷っているなと思えば、誰かが必ず声を掛けてくれます。支えてくれます。

 (大竹浩文・蒲郡市立形原小学校長)

あなたへのお薦め

 
特集