(読者の窓)その一人のために

 二度、延期した修学旅行でのことです。2泊を1泊にして宿泊した旅館は、バスの中から「すごい」と生徒の歓声が上がるほど豪華な外観でした。

 食事の時間は、畳敷きの大広間に集まりました。大広間は、300人ほどが十分に間隔をとって座れる圧巻の広さでした。しばらくして、食事を済ませた生徒たちが会場を後にする頃、体調不良の一人の生徒が遅れて大広間の隅で食事を始めました。生徒は、少量をゆっくり口に運んでいます。すると、生徒のそばで膝をつき、係の方がお茶を入れつつ「ゆっくり食べてくださいね」と温かい声を掛けてくれました。その後、小半時が過ぎても、食事係の方たちは、食べ終わった大量のお膳の片付けを始めず、生徒の食が進むように「おみそ汁のおかわり、どうですか」と優しく尋ねる他は、生徒から離れて見守っています。私は食事係の方たちのこの後の予定が気になり、片付けを始めてほしいと二度お願いすると、食事をしている生徒から最も離れているお膳から音を立てずに片付けを始められます。生徒に近づくにつれて膝をついてゆっくり片付け、食事をしている生徒の列の膳には、一切手を付けません。私は、この光景を目の当たりにして、一人のお客にここまで心遣いをしながら接していただけるものかと、強く心を揺さぶられました。

 私たちも、家族にとってかけがえのない大切な子どもたちを託されている身です。改めて、真心を込めて、その一人の子どもと接することができているかと、自分に問う修学旅行になりました。

 (木野昌孝・刈谷市立雁が音中学校長)

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