教師力・人間力―若き教師への伝言(54)叱られるということ

 叱られるより褒められたい。厳しい言葉を掛けられるより優しく温かい言葉を掛けてほしい。誰でもそう思うのではないでしょうか。

 教育センター事務局に入るまでの三十年近い私の教師人生の中で、周りの人たちからたくさんの温かい言葉をいただきながら頑張ってきました。

 一方で、厳しく叱られたこともありました。とても恥ずかしいことなのですが、自分が教師になってから、厳しく叱られたときのことを書きます。十年目を過ぎたくらい、2つ目に赴任した学校でのことです。担任していた学級の学期末の評価をしていた私は、最終の評価結果について、一部迷っているところがありました。成績一覧表の提出締め切りの日を迎え、「いつまでも迷っていても仕方がない。これで決めて提出しよう。場合によっては再度提出すればよい」と考え、一覧表を提出しました。その後、もう一度検討し直し、評価の一部を変更することにしました。新しい一覧表を作成し、教務主任さんに「再度検討し、評価を変更しました。一覧表の差し替えをお願いします」と言うと、「そうか」と教務さんは受け取ってくださいました。

 その日の授業後、教務さんに「酒井君、ちょっといいか」と、誰もいない、備品の倉庫に呼ばれました。そこで「一覧表の差し替えとはどういうことだ。この間、ちゃんと印を押して一覧表を出したんだろ。担任として責任をもって評価した結果を出したんだろ。それを差し替えるとはどういうことだ」と、とても厳しい口調で言われました。私は「再度提出すればいいだろう」という気持ちだったことを見透かされたようで、「すみませんでした」としか言えませんでした。

 その教務さんは、日頃から私たち若手教師に対して、親身になって指導してくださり、いつも温かい声を掛けてくださっていました。その教務さんから、とても厳しく鬼のような表情で叱られ、私は驚いてしまいましたが、すぐに自分の愚かさを反省しました。そして、自分のために、心も顔も鬼にして、叱ってくださったことを、とてもありがたいと思いました。あの日、叱られたことが、自分の転機になったと言っても過言ではありません。

 私を叱ってくださった先生とは、今でもお酒の席でご一緒させていただくことがあります。そのたびに、「酒井君のこと、すっげー叱ったったなあ」「倉庫だったのは、自分に恥をかかせないようにしてくださったのですよね」と、その話題になります。二十年を過ぎても、覚えていてくださるくらいですので「こいつのこと何とかせな」という強い思いで叱ってくださったのでしょう。

 皆さんの周りにも、きっと皆さんのことを思い、叱ってくださる人がいると思います。叱ってもらえたときには、その言葉に耳を傾け、その言葉の奥にある思いも受け止め、自らを省みて、自分の成長につなげていってほしいと思います。そして、教師という立場で、子どもたちのために、思いが伝わるように叱ることも大切なのではないでしょうか。

 最後に、ラグビー選手として、伏見工業高校、同志社大学、神戸製鋼そして日本代表で活躍し、代表監督も務められた故平尾誠二さんが、生前に親友の山中伸弥さんに伝えていた「人を叱るときの四つの心得」を紹介します。教師として、きっと参考になると思います。「プレーは叱っても人格は責めない」「あとで必ずフォローする」「他人と比較しない」「長時間叱らない」

(名古屋市教育センター教育相談部長・酒井正幸)

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