(こだま)学校給食……

 山形県鶴岡市の大督寺を訪れたことがある。1889年、この寺にあった私立忠愛小学校で貧しい子供たちにおにぎりと焼き魚、漬物を与えた。学校給食の始まりとされ、境内には「学校給食発祥の地の碑」が建てられている。

 以来さまざまな変遷を経て、学校給食が全国で始まってから今年で70年目を迎える。思えば、給食との出合いは、飲みづらい脱脂粉乳を鼻でつまんで飲んだことに始まる。栄養補給が第一だった当時から生活も豊かになり、給食は飛躍的に多彩でおいしくなった。一方で昨今のコロナ禍での「黙食」は、子供たちから楽しい給食時間を奪っている。

 多くの小学校では、1年生の保護者を対象にして給食試食会が開かれる。子供たちが毎日どのようなものを食べているかを親子そろって食べることで、「食」について関心をもってほしいとの願いがある。参加した一人の母親の言葉が今でも忘れられない。「お昼が給食ということは、娘の体の3分の1は給食でできている。親のものじゃない手間暇が3分の1も入って娘ができていると思うと感謝の一言だ」

 世界的にもトップクラスの充実を誇る日本の学校給食であるが、その目的は当初の貧困救済や栄養改善という面を超えて今や多岐にわたり広がっている。「食文化への理解」「バランスのとれた献立・栄養管理」「食事のマナーの習得」「食品ロス等社会問題への関心醸成」など、学校給食の役割は今後ますます重要になっていくだろう。

 京都大学の藤原辰史准教授は、「歴史を振り返れば、学校給食とは、国家機能が劣化したり、災害や戦争で生活基盤が失われたりしたときに、その社会を癒し、整え直していくプロジェクトでもあった」と言う。1923年の関東大震災、45年の終戦、53年の西日本水害のとき、そして現代、貧困家庭にある子供たちの命が給食によってどれだけ救われたか。

 世界は今、きな臭い状況にある。こうした危機の時代だからこそ給食の持つ力を再認識したい。

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