やさしさにつつまれる小さな物語

「小さな親切」運動本部 編
河出書房新社
1300円+税

混み合う電車の中で故意に押す人、すれ違いざまぶつかっても謝らない人。人の悪意に遭遇するたび、心の中で舌打ちする。そうしたことが重なれば、街を行き交う名も知らぬ人々が、利己的で非情な集団にさえ見えてくる。

だが私たちの周りには、それ以上に人を思いやる心が存在していると本書は教えてくれる。収載された110編は、「小さな親切はがきキャンペーン」への応募作品6996通から選ばれた。日常の中の親切や、それに対する感謝の気持ちがつづられている。

入院した母親の見舞いに行く道中、自宅の梅の木を手折って渡してくれた無愛想な近所のおじいさん。社会人として初出勤の朝、励ましてくれたコンビニ店員。鉛筆の持ち方を正してくれた友達――彼らが出会った親切はごくさりげなく、自分の心に余裕がなければ見過ごしてしまうかもしれない。その小さな優しさを受け止める感受性にハッとさせられる。

大きな荷物を抱え、埼玉に向けて秋田から電車に乗り込んだおばあさんのエピソードが印象的だ。パンパンに膨らんだ重いカバンは、最初に声をかけてくれた女性からリレー方式で運ばれてゆき、迎えにきていた娘の手に無事届けられた。人々の温かさと、それに感謝するおばあさんの姿が、忙しい日々の中で忘れかけていた気持ちを呼び起こしてくれる。

人が人を思う心が詰まった110編、一つ一つ大切に読み返してみたい。