思考力を育む道徳教育の理論と実践

浅沼茂 編 著
黎明書房
2500円+税

米国の心理学者・コールバーグの「道徳発達段階論」は、道徳的な価値発達段階を全6段階に構造化し、道徳教育に大きな影響を与えた。本書ではこの論に立脚しながらも、内在する問題点を取り上げ、ドイツの哲学者・ハーバーマスの「対話による相互理解」の観点から、自らの価値に気付き、論理的思考力を伸ばす実践と評価の在り方を示している。

理論編ではコールバーグ理論を基礎にした実践例から、その中に潜む具体的な問題点を挙げる。筆者は問いに対するさまざまな意見を、コールバーグが示す「段階」に当てはめることはできるが、相互の意見のやりとりと理解に欠けると指摘。ハーバーマスが提唱する「相互理解と対話的な手続き」の観点から、問題解決教材のフォーマットと道徳の五段階評価を提示する。

実践編は、既存の道徳授業で陥りがちな一方的な徳目の教え込みではなく、子供たちに道徳的な葛藤場面を考察させながら、道徳的価値の問い直しや考えを深める実践例を示す。エピソード(教材の内容と実践に用いた意図)や著者が実際に行った授業案、ワークシートの活用法、授業の記録などが詳細に記載されている。誰もがよく知るイソップ寓話の「アリとキリギリス」、イスラム教徒の女生徒に校内でスカーフ着用を禁じたフランスの公立校の問題と、小学生から高校生まで発達に応じたテーマも多彩だ。授業に徹底的に寄り添う、実用性の高さを評価したい。