どう読むか 学習指導要領案「前文」

新設だが中身に十分反映されず

神奈川大学特別招聘教授 安彦忠彦

2月14日に公表された学習指導要領案の「前文」について、安彦忠彦神奈川大学特別招聘教授に論説してもらった。


次期学習指導要領に「前文」が付いたことに注目する向きがあるが、それほど特別な意味を持つとは思えない。現行でも、教育基本法や学校教育法(抄)がその前文に当たる位置に置かれていて、その「目的・目標」に向けて公教育を行うよう意識づけられているからである。

今回は、「総則」を教育課程のマネジメント・サイクル(編成・実施・評価・改善)に合わせた章立てとしたため、その編成に入る前の「目的・目標」を、前文で一層丁寧に説明したと解される。

ただ、今後も法的拘束力を意識させるために、この法律重視の様式を定着させる可能性はある。

しかし、前文に記されている内容は、必ずしも次期学習指導要領の本体に反映されてはいない。例えば、「一人一人の児童(生徒)が、自分のよさや可能性を認識する」「あらゆる他者を価値ある存在として尊重し」「多様な人々と協働しながら」「様々な社会的変化を乗り越え」「豊かな人生を切り拓き」「持続可能な社会の創り手となる」ことが目指され、最後の方でもその一部が繰り返されるが、学習指導要領全体を読むと「個性の伸長・開花」「個人の尊重」「差別・格差の是正」「多様性の重視」「心の豊かさ」「持続可能な教育開発ESD」などについて触れることはごく少ない。これらが重視されていないのは、残念である。

本体で重視されているのは、「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという理念を学校と社会が共有し、(中略)必要な学習内容をどのように学び、どのような資質・能力を身につけられるようにするのか」を明確にし、「社会との連携および協働により」その実現を図る「社会に開かれた教育課程」の具体化の方である。これは、特に産業界が、グローバル化の中で企業内教育をする余裕がないため、従来以上に直接に、学校教育に「変化の激しい社会の求める資質・能力をもった人材(財)」育成を要請したものといえる。

また前文最後の段落で、幼児期からの生涯にわたる児童(生徒)の学習の在り方を展望していくために、この学習指導要領を広く活用してほしいとして、その子供の一生にわたり、全ての大人がこの方向で協力すべきだとの意思を示しているが、これは、この方向では問題である。「未来の主権者」としての「自立した主体=人格」の完成という個人的観点から、社会への向き合い方や吟味を示す部分はわずかで、社会の側の観点からの要請ばかりが目立つからである。

以上をまとめれば、「資質」の方の議論を深めないまま、「能力」、特に2030年頃の社会を念頭に問題発見・問題解決能力を付けておきたいという面に注力したため、その「能力」を使う主体の側の「資質」面で重要な「自立性」の確立や「多様な見方・考え方」の尊重といった「人格」的な部分への配慮が足りない。これではいくら能力があっても、人間としての社会的信用は得られない。

産業界の日産自動車社長ゴーン氏の子育てが「自立」であったことを知ると(日経今年1月29日朝刊)、今の日本人の「教育」観がすっかりゆがんでいるように感じる。

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