新制服の教育目的は達成されたのか? 銀座・泰明小学校の和田利次校長に聞く

6月9日土曜日、東京・銀座の中心街に位置する小学校のグラウンドに、児童らの楽しげな声が響きわたっていた。その姿を追う教員や保護者、地域の人々のまなざしはとても穏やかだ。この日は銀座の企業や商店街、住民、保護者らを招き、この小学校の開校140周年を記念して記念イベントが開かれていた。

同校はほんの数カ月前まで、「アルマーニの制服の学校」としてマスコミに取りざたされていた、中央区立泰明小学校。世間を騒がせた報道の中には、和田利次校長の方針を批判的に取り上げるものも少なくなかった。

しかし目の前に広がるのは、あの騒動の影響をみじんも感じさせない、平和であたたかい理想的な教育現場。2種類の標準服を着た児童たちが何のためらいもなく、声を掛け合っている。各方面から想像以上のバッシングを浴びつつも「アルマーニの制服」の導入に踏み切った和田校長。あの決断を下し3カ月がたった今、児童の反応はどうなのか、新制服にした教育目的は達せられたのかを聞いた。

■児童の評判はよい
――新しい標準服を導入して3カ月がたちました。当初は「アルマーニの制服の学校」と注目を浴び、いわば騒動になりましたが、もう落ち着きましたか。

報道が過熱していた時期はいたずら電話がかかってきたり、登校中の児童がすれ違いざまに制服をつかまれる事案があったりと被害がありました。今はやっと落ち着いてきましたが、まだ電話をとるときは緊張感がありますね。

――新しい標準服を導入した校内の様子はいかがですか。

まったく違和感はありません。新しい標準服を着た1年生と現行の服を着た上級生が、ぴったりと寄り添って校門をくぐってくる姿を、保護者も地域の方々も、もちろんわれわれ教員も自然に受け入れています。

標準服に関しては、色合いがきれいだとか、丈夫だという意見が寄せられています。1年生だけでなく、上級生の間でも評判がよいと思いますよ。

多数の保護者や地域住民が参加した開校140年記念イベント
――保護者からの意見は。

デザインも質も、おおむね好評です。一部のメディアから「高価すぎるのでは」と危惧されましたが、既存のものと比べて若干値上がりするくらいで、価格に関しても特に異論は耳に入ってきていません。

入学辞退者が出たという報道もありましたが、転勤や私立校入学のためであって、今回の標準服に反対して辞退した方は一人もおりません。新しいデザインの導入に当たり、保護者向けの説明会も行い、私の思いや狙いなどをお話して、みなさんから賛同していただけたと思っています。

■目的は「服育」
――どのようなお話をされたのでしょう。

大きく2点です。まず、この標準服を泰明小の新たなシンボルにしたいということ。というのもわが校は、2009年から特認校制度をとっていて、それまで以上に広いエリアから児童が集まるようになりました。そこで、校長として「児童や保護者はわが校に何を期待して通うのか」を、今一度考えてみる機会が増えたんです。

保護者にヒアリングしてみて、「泰明小としてのシンボリティックなものがほしい」というニーズもくみ取れた。そこで学習内容ももちろんですが、児童や保護者の期待に応えられるビジュアル的なアイデンティティーを示す必要があると決意しました。

――2点目はなんでしょう。

新しい標準服で、「服育」をするということです。実はそれまで、上着を脱ぐと朝礼台や遊具などに引っ掛けて放置したり、落とし物で預かっても持ち主がとりに来なかったりするケースが目立っていました。私も教員も常々、どうすればもっと大切に扱えるようになるのかと考えあぐねていました。

「自分の身にまとうものなのだから、きちんと管理する」「汚れたら手入れする」「暑かったら脱ぐ」「しまうときはきちんと畳む」。まずはそんな簡単なマナーを、新しい標準服を着て培ってもらいたい。意識を変えるきっかけにしてもらいたい。

新たな標準服は若干とはいえ、これまでよりも高価なもの。そういったものを身につけ、自身で管理することは、子供にとっても大切な教育となるはずです。

実際に、上着を脱いだら裏地を表にするだとか、マナーを率先してできる新入生が目立ちます。

まだまだこれから取り組んでいかなければならないことはたくさんありますが、着実に取り組んで参ります。

新標準服の意図を語る和田利次校長
■「後悔していないし、間違っていない」
――なぜアルマーニを選んだのですか。

標準服の刷新は「服育」や「泰明小のシンボル」という思いありきで始まりました。しかしブランドの知名度の高さが先行してしまい、私としても残念です。

泰明小があるのは銀座。古くからの伝統を守りつつも、新しい文化を次々取り入れているまれな街です。そして児童は地域の方々にかわいがってもらい、学習させてもらっている。「こんなすばらしい街に育ててもらっている泰明小の子供が着る標準服とは」と考えたときに、地域に店舗を構えるブランドさんの力を借りるのもひとつだなと思いました。

そこでいろいろな店に相談してみましたが、なかなか難しかったです。「無謀だったのかな…」と諦めようとしたときに、思いに共感して実現しようと言ってくださったのがアルマーニさんでした。

――世間からは大きなバッシングを受けました。

「校長が独断で決めた」「根回ししていない」などと、マスコミやネットでたたかれました。実際、学校に関わるもっと広い範囲の方々に、もっと丁寧に報告をし、しかるべき手順を踏むべきだったと思います。その部分は大いに反省していますし、今後に生かしていきます。

ただこの標準服導入に踏み切った決断は、後悔していませんし、間違っていないと自信をもって言いきれます。

校長とは校務をつかさどる役目です。わが校はこういう考えでやっていくという強い意志で決断せねばならない局面はありますし、統率力も必要です。

――この騒動で、校長職の大変さを痛感した教員もいると思います。今回の件を踏まえて、管理職を目指す教員へのアドバイスはありますか。

校長は決して楽な職ではありません。校長室でふんぞり返って新聞を読んでいる、などということはありませんからね。

学校のかじ取りをするわけですから、責任も重くなります。学校で起こること全ての責任が自分にあるといっても過言ではありません。

ですが、あえてそれに挑戦する勇気のある人を私は応援したい。何もせず日々やり過ごすのが一番楽でしょうし、安泰かもしれません。しかし、せっかく学校という組織で働くことを選んだのですから、自分の学校をもっとよくしたい、児童にもっとよい学習環境を与えたい、そういうことを校長の立場になって考えてみたいと思いませんか?その心意気をいつまでも持ってほしいです。

(クローズアップ取材班)