「午前5時間制」 導入17年目の東京都目黒区の実践


新学習指導要領への移行で授業数の確保が喫緊の課題に挙げられるなか、打開策のひとつとして注目されているのが「午前5時間制」。いち早く2002年から導入した東京都目黒区は、今年17年目を迎える。昨年度からは文科省から調査研究委託を受けており、現在区内の小学校7校で実施している。

「午前5時間制」は「カリキュラム・マネジメントの一環として非常に有益」だと語る区教委の尾﨑富雄教育長。9月には区立中目黒小学校での研究発表会も控える。尾崎教育長と田中浩教育指導課長に、制度の本質と効果を聞いた。


――02年から「午前5時間制」を導入した。区としての狙いは。

尾﨑 1単位時間を40分間とし、集中力の高い午前中に5単位時間の学習を行い、「学力の定着・向上」や「午後の時間にゆとりを生み出し、各学校の実態に合わせた活用」を図ることが目的。

新学習指導要領の施行で、授業コマ数の確保が全国の学校で急務となっている。その解決策としても有力視されており、区にとってもカリキュラム・マネジメントとして非常に有益だと感じる。

――実際に従来の形態と、どのように違うのか。

尾﨑 午前に5コマ分の授業を終える。給食や昼休みを終え、午後は10~20分間ほどの「短時間学習」の時間を確保。国語や算数の授業で活用し、基礎基本の定着を図る。

またこの短期学習のコマとその後の6校時をつなげると、60分ほどの「長時間学習」の時間がとれる。実験や調べ学習に充てられる。

学校や学級に応じて弾力的に、カリキュラム・マネジメントできるのが魅力だ。

午前5時間制の成果について話す尾﨑富雄教育長
――コマ数確保という点では、どのような効果があるのか。

田中 午前4時間制(各45分間)が週当たりのコマ数28のところ、午前5時間制は31まで確保できる。年間時間に換算すると、8.3~15時間ほど多くなる。

というのも、家庭訪問や面談で、午後授業がカットされる日が年間15日くらいある。午前4時間制の場合は5、6時間目の2コマが対象だが、午前5時間制は6時間目の1コマだけのカットで済む。

■教員の授業力向上にも期待
――とはいえ現場の教員は45分授業に慣れている。どう対応しているか。

田中 1授業あたり5分短くなることで、教員の授業力の向上にもつながっている。いかに授業の無駄を省くか、どの学習をどのコマでするのが効果的か、メリハリを意識できるようになる。

短くなった5分は、国語や算数のような習熟が必要な科目は短期学習の時間に当て込み、日々反復し基礎学力の定着を図る。理科や社会は、どの部分を取り出すかが課題。ICTを取り入れて説明時間を短縮するなど、検討していく必要がある。

――目黒区では授業方法を具体的にどのように変えたのか。

田中 例えば英語。目黒区は文科省から教育課程特例校の指定を受け、今年度から区立小学校全校で授業を実施している。

これまで以上に細かい部分に触れたカリキュラムを作成し、それを基に指導している。1コマずつ授業内容を細かく示すのはもちろん、各コマの担任とALTの役割分担まで網羅。英語版をALTにも渡し、周知の徹底も図る。具体的な見本があると、効率的に授業をこなせると評判だ。

――児童にはどのような変化が見られたか。

田中 まず朝の登校が10~15分早くなり、早起きをして、しっかり朝ごはんをとる正しい生活スタイルが身についている。保護者の協力があってこそで、大変ありがたいこと。

一方、帰宅時間は30分ほど早まる。友達と遊ぶ時間が取れたり、習い事前に少し余裕ができたり、児童にとって息抜きの時間になっている。

調査でも、とある学校で「授業のはじめに遅れないように気をつけている」と答えた児童が93%に上り、時間のメリハリがついている姿が見て取れる。

9月開催の研究発表会への期待を語る田中浩教育指導課長
■「40分で児童に伝えきる」強い意志を
――導入するために肝心なことは。

尾﨑 教員一人一人が強い思い、目的を持ってやらなくては意味がない。1コマあたりたった5分の違いなので、なあなあになってしまう懸念もある。教員が「40分で児童に伝えきる」という強い意志を持たなければならない。

放課時間が早まるので、授業研究に当てられる時間も多くなるはず。有意義に使ってほしい。

――9月27日に中目黒小で開催される研究授業については。

尾﨑 「午前5時間制」の導入に踏み切っていない学校からは、40分で「主体的・対話的で深い学び」ができるのかという懸念の声も聞こえる。ぜひ児童たちの姿を見てほしい。授業と休み時間のメリハリをしっかり持って挑み、集中力や切り替える能力も身についている。それを実際に感じ、先生方には自校でもできると自信を持ってもらいたい。

校長先生をはじめ、現場に近い教務主任や同じ目黒区内の教員にもぜひ体感してほしい。

――これまで長期的に「午前5時間制」に取り組んできた手応えを。

尾﨑 もともとは学力向上を狙いとしてやってきた。17年の歴史があり、目黒区ならではの取り組みだ。初めて導入した中目黒小では、当時の校長の「学力を向上させる」という強い思いを教員一人一人が受け継ぎ、途切れることがなかった。そのかいあって、区の学力調査では学年を追うごとに達成度が上がっていき、学校での学習が学力向上に結びついていることが分かった。

制度を入れるだけでなく、導入して「どんな学校にしたいのか」、その精神を引き継いでいくことが不可欠だと改めて感じる。(板井海奈)