ルポ・夜間中学 開設までの道のりとこれから(中)

埼玉県川口市の同市立芝西中学校陽春分校はこの4月、同県内初の夜間中学として開設された。その背景には、長年にわたる市民らの運動があった。第2回では、川口市の事例から、公立夜間中学の開設までの軌跡を追う。


自主夜間中学の今

JR川口駅近くの公民館の一室。毎週火曜日と金曜日の午後6時半~8時半に開かれる「川口自主夜間中学」の授業は、長テーブルを並べて、生徒と教師が一対一で学習を進める。

生徒は中学生くらいの子供から大人まで。外国人も多い。日中辞典を片手に国語の教科書を読み進める生徒もいれば、因数分解に取り組む生徒もいる。

現在、川口自主夜間中学に通っている生徒は約70人で、その7割が外国人だ。しかし、母国で受けた教育や日本での生活状況、日本語の理解度は一人一人異なる。そのため、教委は生徒のレベルやニーズに合わせた学習支援をしている。

「教師による手作りの教材や、生徒が持参したテキストを使い、生徒が学びやすいよう心掛けている。生徒のニーズにもっと応えたいが、スタッフも足りず、教材や辞書の置き場もない。これは、どの自主夜間中学でも抱えている問題ではないか」と、「埼玉に夜間中学を作る会」代表の野川義秋氏は指摘する。

公立夜間中学の開設まで
さまざまな生徒が通う川口自主夜間中学

公立夜間中学がなかった埼玉県では、夜間中学での学習を希望する生徒は、東京の公立夜間中学への遠距離通学を余儀なくされていた。そこで1985年に、市民による「埼玉に夜間中学を作る会」が発足。同年12月に「川口自主夜間中学」が開設された。その後、「埼玉に夜間中学を作る会」が公立夜間中学の開設運動を、「川口自主夜間中学」が自主夜間中学の運営を、それぞれ役割分担をしながら続けてきた。

自主夜間中学の開設当初、生徒は6人で、うち4人が不登校の生徒だった。口コミや報道で不登校の生徒が一時期は最も多かったが、90年代に入ると次第に外国人が増えた。

一方、公立夜間中学の開設運動はなかなか進展を見せなかった。街頭での署名活動や川口市教育委員会、埼玉県教育委員会などへの要望を続けたが、その回答は芳しくなかった。

その状況に変化があったのは、教育機会確保法の成立を目指す、超党派の国会議員連盟が「川口自主夜間中学」を視察に訪れ、県内で夜間中学への関心が高まったことだった。

そして、同法が成立した翌年の2017年3月、奥ノ木信夫川口市長が閉校した市立芝園小学校跡地に夜間中学を開設すると発言。県内初の公立夜間中学開設が決まった。

さらに、開設に向けて17年に川口市など近隣12市で実施されたニーズ調査では、387人が「通いたい」「どちらかといえば通いたい」と前向きな回答をするなど、地域に一定のニーズがあることも分かった。

19年4月に開設された市立芝西中学校陽春分校には、3月時点で川口市内から44人、川口市外から33人の、計77人の入学希望者がいたという。うち外国人は47人を占める。

20年度までは廃校になった川口市立県陽高校の校舎を改修の上で利用し、21年度からは旧芝園小学校に建設する新校舎に移る。

3学級の陽春分校の体制は教員9人に加え、日本語指導のための支援員も配置する。また、高齢者を含め、さまざまな人が通うことから、養護教諭の配置も検討。分校では県費による配置は難しかったため、川口市が近隣市町村と人件費を応分負担し、非常勤の養護教諭を確保することになった。

新しい学校づくりに協力

開設に当たり、川口市は近隣市町村と連絡協議会を設置し、県とも連携しながら公立夜間中学の運営に当たる体制を作った。野川氏らも川口市が設けた民間団体との連絡会の場で、行政と意見交換しながら、新しい学校づくりに協力している。

例えば、入学説明会に参加した人が記入する用紙は当初、住所や氏名、年齢などを記入するようになっていたが、野川氏らは「ひらがなやカタカナの読み書きができない入学希望者がそれを見たら、あきらめて引き返してしまう」と助言。

市は用紙への記入事項を性別や居住する市町村、大まかな年齢などだけに絞り、簡素化した。野川氏は「行政との話し合いの中で、私たちが提案したことを取り入れてくれていると感じる」と話す。

「埼玉に夜間中学を作る会」代表の野川義秋氏

しかし、公立夜間中学の開設が実現したとはいえ、自主夜間中学の役割が終わったわけではないという。実際に、自主夜間中学に通っている生徒の中で、陽春分校に通う意思があったのは10人程度にとどまった。毎日の授業と仕事との両立などで、自主夜間中学で学び続けたいという生徒も存在しており、公立夜間中学が、学びを求める全ての人の受け皿になるわけではない。

野川氏は「自主夜間中学は今後も続けていく。陽春分校とも協力し、補完し合っていく関係を築いていきたい。陽春分校が新たなスタートであることは確かだ。しかし、東京に近い川口市では、秩父市や深谷市などから通うことは難しい。県内2校目、3校目の公立夜間中学の開設を目指して、これからも活動を続けていきたい」と話した。

(藤井孝良)