ルポ・夜間中学 開設までの道のりとこれから(下)

義務教育未修了者や入学希望既卒者に、義務教育を受ける機会を保障する公立夜間中学は全国に33校あり、2017年時点で約1700人が通っている。この4月に開校した埼玉県川口市や千葉県松戸市以外にも、一部の地域で開設に向けた動きがある。夜間中学の設置推進に向けた国の施策を取り上げる。


夜間中学の歴史と現状

そもそもの夜間中学の始まりは、戦後にまでさかのぼる。1947年に教育基本法が制定され、学制改革によって中学校までの9年間が義務教育となった。ところが、戦後の混乱期では、学齢に達していながらも、家庭の経済状況から、中学校に通わずに就労したり家事を手伝ったりする生徒も多くいた。夜間中学は彼らに義務教育を受ける機会を提供することを目的に公立中学校に設置されるようになった。

ところが、夜間中学は1955年の89校をピークに次第に減少し、69年には20校にまで減ってしまった。生徒数も55年の5208人から、68年には416人まで減少。その背景には、就学援助策の充実や高度経済成長を迎えた日本の情勢変化がある。

その後、夜間中学は義務教育を修了しないまま学齢期を経過した人(学齢経過者)や、不登校などの事情で十分な教育を受けられないまま中学校を卒業した人(形式卒業者、入学希望既卒者)に、義務教育の機会を提供する場として全国に30校以上が存続。

夜間中学の学校数と在籍生徒数の推移(全国夜間中学校研究会提供)

現在では、今月に開校した川口市立芝西中学校陽春分校と松戸市立第一中学校みらい分校を含め、全国9都府県27市区に33校あり、2017年時点で1687人が通っている。そのうち、義務教育未修了者は258人(15.3%)、入学希望既卒者は73人(4.3%)。また、60歳以上の生徒は456人(27.0%)だった。外国人の生徒も増加しており、1356人(80.4%)は日本国籍を持っていない。そのため、夜間中学では日本語学習への対応なども行っている。

教育機会確保法を契機に

2016年に議員立法による教育機会確保法が成立したことによって、夜間中学を巡る施策は大きな転機を迎える。翌17年に文科省が策定した「教育の機会確保に関する基本方針」では、各都道府県に少なくとも一つの夜間中学の設置が目標に掲げられた。

それに合わせ、義務教育費国庫負担法を改正し、都道府県が設置する夜間中学の教職員給与を国庫負担の対象とすることや、学校教育法施行規則を改正し、学齢経過者の実情に応じて特別な教育課程を編成できる特例を設けた。また、中学校の新学習指導要領では、総則で学齢経過者の年齢や経験、就労状況などに配慮した指導方法の工夫改善を初めて明記した。

義務教育国庫負担法改正の狙いについて、文科省で夜間中学を所管する初等中等教育局初等中等教育企画課の田中義恭教育制度改革室長は「ニーズが限られる小規模な市町村単独では、夜間中学の開設・運営は難しいことから、都道府県で夜間中学を開設しやすくした。運営面で近隣の市町村と連携していくことも、十分に考えられる」と説明する。

夜間中学に通う生徒の属性(「17年度夜間中学に関する実態調査」を基に作成)

さらに文科省は、17年に各地の夜間中学の設置検討状況や現状の実態把握も実施。夜間中学の新設に向け、検討・準備を進めていると回答したのは6都道府県と74市町村に上ることが明らかとなった。

18年6月に閣議決定された第3期教育基本計画では、教育機会確保法や夜間中学の果たす役割の重要性を踏まえ、夜間中学の全都道府県への設置や教育活動の充実、生徒の受け入れ拡大がうたわれた。さらに、18年末に関係閣僚会議で決定された「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」にも、日本語教育を含む夜間中学の教育活動の充実が盛り込まれた。

夜間中学の充実に向けて

政府は夜間中学に関連して、19年度予算で4578万3千円(前年度比970万6千円増)を確保し、夜間中学の設置促進や教育活動の充実、受け入れ生徒の拡大に取り組む。

設置促進では、教育機会確保法に基づく協議会の設置・活用を促進するため、全国8カ所の都道府県で就学機会の提供に関する役割分担の在り方を検証する。また、夜間中学の新設準備に伴うニーズ把握や設置に向けた準備の在り方について、全国5カ所の都道府県、市町村で検証する。

教育活動の充実では、新規事業として27カ所で、校外活動費や学校で共用する教材費なども対象に、経済的に厳しい生徒の状況を踏まえた調査研究事業を立ち上げた。また、日本語指導を充実するため、夜間中学の教職員向けの研修も実施する。

夜間中学の設置促進に向けた取り組みを説明する田中教育制度改革室長

文科省では現在、「夜間中学設置・充実協議会」を設置し、夜間中学の現状と課題を踏まえ、夜間中学の設置推進や教育環境の整備に向けた検討を進めている。

田中室長は「特に地方では、夜間中学のニーズは分かりにくい。潜在的ニーズを把握するためには、当事者だけでなく、家族や友人、支援団体などにも広げて情報収集していく必要がある。夜間中学に通っている生徒は多様で、日本語指導への対応や養護教諭の配置なども課題だ」と話す。

全国各地で夜間中学の設置に向けた動きがみられるが、全都道府県に少なくとも一つという目標にはほど遠い状況がある。2010年の国勢調査で、小学校に在学したことがない、または小学校を中途退学したとされる「未就学者」は、全国に12万8187人いることが分かっている。

さまざまな事情で義務教育を受けられなかった人は、全国各地にいる。そうした人たちの「学び舎(や)」としての夜間中学の意義は、今も確かに存在している。

(藤井孝良)

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