世界の教室から 教育先進国・フィンランド 第8回 ハンディクラフト、デザインとICT教育

慶応義塾大学教授 今井むつみ

ハンディクラフトを大切にする文化

フィンランドは言わずと知れたデザイン大国である。フィンランドのデザインは、エレガントというより、「なんとなくほっこりとした暖かさ」があり、フランスやイタリアの洗練されたデザインとは一線を画している。

シンプルで、大胆、とてもモダン。それなのにちょっと田舎を思わせる独特のデザイン。セレブ用の超高級品ではなく、庶民の生活のためのプロダクトが多い。その原点にはハンディクラフト教育がある。

フィンランドの学校を訪問して強く印象に残ったのは、「ハンディクラフト」という科目の存在だ。これまでも述べたように、フィンランドは教科横断でプロジェクト学習を展開するのが通常の形態で、その中心科目として「ハンディクラフト」はある。

日本の「図画工作科」というより、「ものづくり科」と訳した方が近いかもしれない。上手に絵を描いたり美しい造形物をつくったりすることが目的なのではなく、実用的なモノをデザインし、つくることが主眼である。

しかし、同時に、生み出されたプロダクトはデザインとして美しいことをとても重視する。

ハンディクラフトとICT

フィンランドはIT大国でもあり、ICTも積極的に教育に導入している。

フィンランドにはハンディクラフトのミュージアムもある

日本ではICT教育というと、主眼は機器を使うことになりがちで、タブレット端末や電子黒板を導入し、機器の使い方を覚え、機器を使って「学習効率を上げる」ことが高く評価される。

フィンランドではタブレット端末は使って当たり前で、それをICT教育とは呼ばない。タブレット端末やコンピューターの使い方を教えることがICT教育だとは誰も思っていない。ヘルシンキ市の全学校で導入が進められているICT機器は、レーザーカッターと3Dプリンターだった。しかし、導入の主眼は機器の使い方ではない。

ヘルシンキ大学が小学校と連携して進めていたのは、「ハンディクラフト」の授業で、「便利でデザイン性が高い新しい家電をデザインする」プロジェクトである。

子供たちは家庭にある家電製品を検討し、どういう点を改善したらもっと便利ですてきになるかを話し合う。性能やデザインを考えて、まずは紙などでモデルをつくる。

最終的には3Dプリンターで製品の最終モデルをつくる。もちろん、この過程にはサイエンス、テクノロジー、数学、アートといった、あらゆる教科の内容が関係してくる。

だからといって、「ハンディクラフト」の授業が全てテクノロジー一色になってしまうわけではない。フィンランドではもともと手仕事を重んじる文化があり、家屋を自分で建ててしまうという人もかなりいるそうだ。

自分の手で、実用的で美しいものをつくる。

「ハンディクラフト」の授業はその伝統を守るために、フィンランドでとても大切にされているのである。そこにICT教育が、出しゃばることなく、ごく自然に融合しているところにフィンランド教育のすごさがある。

日本のICT教育も単なる機器の使い方練習ではなく、手仕事と伝統の技を大事にしながら、テクノロジーと付き合って創造的に学び、生きていく訓練を子供たちにすることを主眼に置いた教育であってほしい。

うまく使えば「図画工作科」や「技術・家庭科」は、主体的で教科横断の学習の主役になれるポテンシャルを持っている。

(おわり)

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