プロデューサー教師のトライ(下)先生が元気な学校をつくる

大手広告代理店の敏腕プロデューサーから高校教師に転職し、ラグビー部をわずか3年で全国大会(花園)に導いた星野明宏氏。今年4月からは校長として、学校組織のマネジメントの先頭に立ち、その手腕を発揮している。そんな星野校長に子供や学校をプロデュースする極意を聞いた。最終回では教員の能力や個性を引き出し、組織の活性化を図る星野流のマネジメント戦略に迫る。


行事は3年で見直す
――教員に対するマネジメント手法を教えてください。

ここ1年半ほどは、本校の教員をマネジメントすることに力を注いでいます。

学校でも働き方改革が叫ばれていますが、なぜ残業が多くなるかといえば、仕事量の多さはもちろん、スケジュール管理が十分にできていないことも大きな要素だと思います。

サラリーマン時代から、私は一日の仕事を午前9時から午後3時の間で終わらせるように計画を立てています。そうして捻出した残りの2時間を自分がやりたい仕事に充てるのです。

ラグビー部は毎週火、木、土曜日が練習でしたが、他の月、水、金曜日が暇というわけではありません。指導用の映像を編集したり、授業準備をしたりしなければならないからです。

その時間を「毎朝2時間早く学校に来る」のではなく、メリハリをつけて生み出すようにしました。生徒がいるときは基本的に生徒と接するようにして、雑務はなるべくやらないようにもしていました。生徒と接する時間がなくなると、本来予防できた事故やトラブルが防げず、対応に追われてしまうからです。

そして、マネジメント側が最もやってはいけないのは、そうやって工夫して人が作った時間を取り上げてしまうことです。

また、サラリーマン時代も今も、いつも飲み会は1次会で帰っています。アルコールが入っていなくても熱い話はできるので、むしろ日常業務の中でそういう場をつくるようにしています。

「伝統的な学校行事もゼロから見直すべき」と話す星野校長

――とはいえ、なかなか減らせないのが教員の業務だと思います。

何年も続いている学校行事でも、担当している教員が窮屈そうだったら、廃止していいと私は思います。

電通でプロデューサーをしていたときも、イベントは3年で見直すようにしていました。1年目は初めてだから熱意がある。2年目、3年目は1年目の反省を踏まえて改善し、クオリティーが高くなる。でも、4年目になると熱意もなくなるし、人に引き継いだとしても、その人がコピーアンドペーストして少し付け足す程度になる。そうなったら、もうやめた方がいい。

だから、本校でも昨年、伝統行事であったキャンプやスキー研修をやめて、学年会でゼロから企画させることにしました。一度ゼロにして「やっぱりスキーをやった方がいい」となれば、やればいいんです。そうすれば、何となく継続している行事ではなく、明確な目的を持ったスキー研修に生まれ変わるはずです。

カリキュラムも同じで、組み上がったパズルを崩すのはしんどいけれど「もし今から理想の学校をつくれるとしたらどうするか」という、ゼロベースの議論をやってもいいと思います。そうすることで、私たちが大切にしてきたものが何かが、今一度見えてくるように思うのです。

図書館を理科の教員がプロデュース
――星野先生が今、一番挑戦したいことは何ですか。

校長として、本校を「先生が元気な学校」にすることです。働き方改革をチャンスと捉えて、教員が余裕を持って、元気で主体的に仕事をできるようにしたい。

教員の企画による魅力的な展示が目を引く同校の図書館

今の教員は時間に追われていて、生徒が相談に来ても20分も待たせて5分しか話を聞けないような状況がある。それでは相談なんて無理です。校長としてうまくマネジメントして、生徒と向き合う時間、教育と向き合う時間をつくってあげたい。

なおかつ、休みの日には趣味と実益を兼ねて活動する、そんな生き方ができるようにしてあげたいと思います。

例えば、一般的に図書館主任は司書か国語科教員がします。本校では、ちょっと発想を変えて、理科教員を据えて、プロデュースさせました。図書館の価値は、必ずしも蔵書が多いことではありません。その理科教員を「店長」にして、5教科の教員でチームをつくり、展示スペースの企画などを任せたのです。

すると「店長」が、土日に自主的に東京の本屋巡りをするようになりました。本人にとっては、仕事という感覚はなく、もともと本屋巡りが好きで、その一環と捉えているようです。つまり、趣味の成果を学校にも還元してくれているわけで、自分が好きなことは苦もなくとことんできるという好例だと思います。

星野校長の著書「元電通マンの教師が教える 凡人でもエリートに勝てる人生の戦い方。」(すばる舎)

――教員の中には、自分自身の長所が分からずに悩んでいる人も多いと感じます。アドバイスはありますか。

若い教員の多くは、授業力を上げなければと考えています。でも、「授業力」というと曖昧なイメージになってしまうので、細分化していく必要があると思います。教科に関する専門的な知識が足りない人は、やはり勉強しなければいけないし、子供に伝えるのが苦手な人は、伝えるためのスキルを身に付けなければいけない。最も良くないのは、それを一緒くたにして議論してしまうことです。

自分がどんな先生になりたいか、そのために何が足りないかを分析していくと、鍛えるポイントが見えてきます。いわゆるセルフコーチングです。自分のコーチングをしっかり自分に施していくことが大切です。

よく教師は社会人スキルがないと言われますが、サラリーマンだって入社後の研修でそれらを仕込まれていくのです。私は昨年、教師にマナー研修を取り入れることにしました。名刺交換や電話の受け答えを教えたのです。習えば教師だって問題なくできるようになります。

教師は「世間知らず」「非常識」などとも言われます。しかし、多種多様な業種に就いている保護者と接する教師という職業は、いろいろな業界を知り、つながることができます。社会との接点も多く、これは他の職種にはない強みです。足りないものは勉強して補えばいいのです。

ビジネスマンには芸術的な発想が求められますが、そうした能力を持っていても、ビジネスマナーを身に付けなければ通用しない社会です。教師だってそれは同じです。社会常識があってマナーが身に付いている教師なら、誰も文句を言わないと思うので、何事にも逃げずに向き合っていけばよいと思います。

(藤井孝良)

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