全日中のミッション 川越豊彦新会長に聞く

2021年度から全面実施となる新学習指導要領への対応や部活動改革など、中学校の教育現場は多くの課題を抱えている。これらの課題と向き合いながら、未来の中学校教育の針路をどう定めていくのか。全日本中学校長会(全日中)の新会長に就任した東京都荒川区立尾久八幡中学校の川越豊彦校長に抱負を聞いた。


社会の変化に対応したビジョンをつくる
――会長就任に当たっての抱負は。

全日中は各都道府県の中学校長会の連合体だ。全国に約9千人の会員がいて、非常に組織力がある。この組織力を生かして、学校における教育の条件整備の推進に取り組んでいきたい。

全日中は、国に対して中学校現場の状況を伝えていく立場にある。全日中として実施しているさまざまな調査データを基に、エビデンスとなり得る現場の状況を伝えていきたい。

そのためには、9000以上ある学校現場の現状を踏まえ、情報を発信することが求められる。そのためにも、総会や全国大会をはじめ、地区大会などに出掛け、それぞれの地域が抱える課題や教育実践の成果などを学んでいきたい。

全日中の会長に就任した川越豊彦校長

全日中では現在、「全日中教育ビジョン―学校からの教育改革―」の着実な推進と同時に、これからの中学校教育を見据えたビジョンの改定を進めている。2021年度からの新学習指導要領の全面実施に合わせて、20年中には新たなビジョンを打ち出す。

全日中のビジョンは長期的な指針であり、これまでは、3年をめどに改定してきたが、学習指導要領の改訂にあわせて10年をめどに改定することにした。しかし、急速に変化する社会に対応するためには、長期的な指針であるビジョンであっても、当然のことながら検証・見直しが必要だ。新ビジョンでは、改定サイクルの中間点である5年をめどに検証・検討を実施する。

働き方改革はまさにこれから
――中学校の現場が抱えている課題は。

喫緊の課題の一つは学校における働き方改革だろう。行政はさまざまな制度や仕組みを作ることはできるが、そこまでだ。教育活動を通じて、制度や仕組みに魂を入れるのは学校現場だ。その意味で、校長の果たすべき役割は大きい。学校の真価を問われるのは、まさにこれからだ。

新たな施策を現場で進めるには意識改革が必要だが、私の経験から、行政では教員の意識を変えるのはなかなか難しいと思う。それができるのは校長だ。全国約9千人の中学校長が働き方改革の進むべき方向性を教職員と共有し、推進していくことが必要である。

楽しく、分かりやすい授業を子供たちに提供するためには、やはり教師が元気でないと。働き方改革を推進し、現場に余裕を取り戻し、教師が笑顔で生徒たちと向き合ってより良い授業をしてもらうためにも、校長は意識的に、日々の業務で軽減できるものは軽減し、使える資源は使っていくことが求められている。

部活動も同様だ。国のガイドラインに沿って、現場でも改革が進んでいる。学校の設置者によらず、全ての中学校が取り組んでいかなければ、改革は形骸化してしまうだろう。

現場で部活動改革を推進する際のもう一つの課題は、保護者や地域の理解だ。地域によっては、保護者や地域の部活動への期待が大きく、それが学校の評価につながっている側面もある。校長が保護者や地域に部活動改革の意義や役割を説明し、理解を求めることはもちろんだが、教育委員会などが社会全体で部活動のあり方を議論していく必要がある。

学びの質を高める取り組みを
――新学習指導要領への対応は。

新学習指導要領では、子供たちに身に付けさせたい資質・能力を①知識・技能②思考力・判断力・表現力等③学びに向かう力、人間性等――の三つの柱で整理している。教師の視点で見ても、どのような授業をして、生徒にどんな力を身に付けさせればいいのか、身に付けた力をどのように活用させていけばいいのかが分かりやすく整理されている。教師だけでなく、生徒自身や保護者にとっても分かりやすいので、目的を共有し、連携しやすくなるだろう。

新学習指導要領がうたっている「主体的・対話的で深い学び」は、これまでも学校現場で実践されてきた。学びの質を上げていくということだと捉えている。

未来を生きる子供たちにとって、自分で必要なことを学び取り、正解のない課題と向き合いながら解決していくためには、さまざまな人々と協力して課題解決に取り組んでいくことが求められる。中学校では、各教科の学習をはじめ教育活動全体を工夫する中で、生徒たちにそうした経験をさせていかなければならない。

「教師が夢を語ることが大事だ」と話す川越校長

このことを実現するために、教師には、これまでの授業観や経験則の打破が求められている。教師自らが主体的な学習者となって、新しい学びを積極的に吸収し、実践に生かせるような機会を確保していきたい。

そして、質の高い学びを子供たちに提供するために教師自身が取り組んでいく仕組みが「カリキュラム・マネジメント」だ。例えば、1学期に実施された学力調査のデータを夏休みのうちに分析し、課題を抽出して2学期の授業改善につなげたり、年末に生徒による授業評価を行い、その結果を踏まえて3学期の授業をさらに変えていったりするように、PDCAサイクルを確立することで、学びの質を確実に高める取り組みが重視されるようになる。

夢を実現する学校へ
――いじめ問題への取り組みに関しては。

30人や40人の多様な価値観を持つ生徒が集まれば、当然、他者に対して合う・合わない、好き・嫌いという感情は起こり得る。学級運営などで「みんな仲良く」を求めるのは、個人的には大変ハードルが高い目標だと思う。

大切なのは、ぶつかり合いや感情のすれ違いといったさまざまな対立が起きたときに、それを乗り越えたり、解消したりするためのスキルを身に付けさせることではないか。自分と合わない他者に対して、無視したり、誹謗(ひぼう)中傷したりするなど、多様性を否定することではない。対立の望ましい乗り越え方や解消の仕方、他者との関わり合い方は、大人が教えることできる。「いじめはなくならない」と言われるが、大人がタッグを組んで働き掛ければ、教育の力でいじめはなくせるのではないかと考えている。

そして、いじめによって子供が命を絶ってしまうようなことは、絶対にあってはならない。未来ある子供の命を守る責任は、教師をはじめ全ての大人にある。

大人の見えないところで起こるいじめを防ぐには、アンテナを高くして、子供の普段の様子から小さな変化を見逃さないようにするしかない。子供のサインに気付くには、教師にも生徒と向き合う時間的・心理的なゆとりが必要だ。ゆとりがなければ教職員同士のコミュニケーションが減り、情報共有も十分にできない。その意味でも学校の働き方改革を進めなければならない。

校長室には学芸発表会で模型部の生徒と一緒に展示したプラモデルが置かれている

――読者へのメッセージを。

教育は未来に対する営みだ。一人一人の教師が、どのような子供たちを育てたいのか、そのためにどのようなことをしたいのかを語れるようにしたい。その夢を、いわゆるヒト・モノ・カネを使って実現するのが校長の役割だ。学校は、子供も大人も夢を語れる場でありたい。そして、夢を実現するための力を身に付けさせる場でありたいと思う。夢やビジョンを実現していくための学校でなければならない。

全日中会長として、多くの中学校が夢であふれ、夢を実現するための場にするため、力を尽くしたい。

(藤井孝良)


【プロフィール】

川越豊彦(かわごえ・とよひこ) 1959年、秋田県生まれ。中央大卒。85年に東京都の英語の教員として教職生活をスタート。東京都教育庁などを経て2016年から東京都荒川区立尾久八幡中学校校長。信念は「仕事の軸足を子供に置く」。マラソンやツーリング、寺社巡り、料理、模型など、多彩な趣味を持つ。

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