世界の教室から 北欧の教育最前線(22) 高校中退のセーフティーネット

5月の大型連休明けは、夏休み明けの9月と並んで「学校に行きしぶる」子供が増える時期だ。スウェーデンでも長期欠席や中退については古くから議論があり、現在も引き続き課題となっている。地方自治体には、生徒が20歳になるまでフォローアップし、教育や訓練などの何らかの活動を提供する「活動提供義務(KAA)」が課されている。中退などによって将来の社会的自立が妨げられることがないように、何重にもセーフティーネットが張られているのだ。そのセーフティーネットの一つとして高校中退者を受け入れているウプサラ市の「アンドラ・チャンセン」を訪れ、具体的な教育実践上の工夫を探った。


中退者のための学校

アンドラ・チャンセンは「セカンド・チャンス」という意味だ。その名が示す通り、高校中退者が再度、学校での学習に挑戦する場である。厳密には独立した学校ではなく、ある公立高校の中にある特別なセクションだ。

地図を頼りに訪問すると、川沿いの歴史ある建物にたどり着いた。思ったより大きくて驚いたが、同校が利用するのは1階だけで、2階以上は別の高校の建物だった。

1階には部屋が五つあり、スウェーデン語、英語と数学の教師3人に、校長、心理カウンセラー、職業指導担当と課外活動担当の7人のスタッフで、約40~70人の生徒を受け入れている。

個別学習を行う教室

生徒数の幅が広いのは、年度途中で入学する生徒が多いためだ。新学期から在籍するのは高校入学以前から長期欠席している生徒らであり、毎年約40人弱いる。その後は年間を通して、ウプサラ市内の高校を中退した生徒たちが転入してくる。

転入者はまず学力診断を受け、個別カリキュラムを作成する。授業は週5日、毎日5時間提供されているが、生徒は自分のペースで必要な量の学習を計画する。週2時間授業の生徒も、週15時間授業の生徒もいる。生徒は設定した時間数だけ授業に出席すれば100%の学習をしたとみなされる。学校を長期欠席していた生徒であれば、週2時間授業などからはじめて、次第に時数を増やしていく。多くの生徒は、週4日12時間ほど授業を履修するという。

 個別カリキュラム

授業と言っても、多くの生徒が一斉に同じ内容を教師から教わるのではない。教師は教室にいるが、学習はすべて個別だ。各自で学習を進め、質問があれば教師に聞く。履修できるのはスウェーデン語、英語、数学の3教科。どれも、すべての課題や学習目標があらかじめリストアップされていて、生徒は全体像と自分の進捗(しんちょく)を確認しながら、自分のペースで学習を進めていく。

このように各生徒に無理のない個別カリキュラムを用意しても、完全に出席できる生徒は少ない。一つの授業にいる生徒はたいてい10人以下で、新学期には1人のこともあるという。ほとんどの生徒は学校にネガティブな印象を持っており、カリキュラムや環境が用意されていても毎日通うのは簡単ではないのだ。

そんな生徒たちに対してアンドラ・チャンセンは、学校と家庭との中間的な場所になることを心がけ、各生徒への丁寧なメンターシップによって無理強いせずに学習を支援している。4~5割の生徒は、1年間在籍した後に、一定の成績を得て通常の高校に進学していくという。3年間通った後、就職したり職業訓練や成人教育に移行したりする生徒もいる。

各生徒の状況に応じた柔軟なカリキュラム編成が、生徒の学習を支え、自己肯定感を育み、社会生活につなげる役割を担っていた。

(本所恵=ほんじょ・めぐみ 金沢大学人間社会研究域准教授。専門は教育方法学)

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