高校の課題解決、理想の具現化へ 萩原全高長会長に聞く

高大接続や新学習指導要領への対応など、多くの課題に直面する高校現場。これらを一つ一つ解決し、真に意義のある変化をもたらすには何をすべきか。全国高等学校長協会(全高長)の新会長に就任した東京都立西高校の萩原聡校長に、会長就任の抱負や重要課題を聞いた。


現場の声を中央へ
――会長就任に当たっての抱負は。

今年度は、高校教育が大きな変革を迎えるに当たり、綿密に準備を整えるべき重要な年。このタイミングで全高長の新会長に就任したことに、重大な責任を感じる。

時代が大きく変わる中で、高校教育の抜本的な見直しが各方面から進められているが、机上の空論で終わる危険性がある。これを地に足が着いた議論に変え、理想を具現化していくには、現場の声を中央に届けなければならない。

重要なのは、生徒が新しい時代に求められる力を身に付けられる改革にすること。これまで宮本久也前々会長や笹のぶえ前会長が成し遂げてきた職務を着実に引き継ぎ、現場の声を収集・発信する役割を、信念をもって全うしたい。

二つの最重要課題
――高校の現場が抱えている課題は。

枚挙にいとまがないが、日本全体で早急な対応が求められる最重要課題は、二つだと考えている。

一つは高大接続改革。民間の資格検定試験が導入されるなど、大学入試の新制度がスタートしようとしている。しかし、都市と地方の格差など想定されるいくつもの問題について、十分な解決策が見いだせていないというのが現状ではないか。

こうした問題を踏まえ、宮本前々会長や笹前会長が現場の声を訴え続け、文科省や大学入試センターなどと作り上げてきたものを、現会長として形にしていかなければならない。

私は定年退職まで、今年度を含めて3年ある。1年目を準備、2年目を実現、3年目を検証の年と考え、一定のスピード感を持って取り組んでいきたい。

何よりも重要なのは、生徒を迷わせたり、不安にさせたりしないこと。そのためにも、これまでの議論を踏襲しながら、段階を一つ一つ踏んで新制度を整えなければならない。

――もう一つの最重要課題は。

各校における、教育課程の作成だと考えている。

2022年度からの新学習指導要領の実施に向け、21年度に教科書選定作業があることを考えれば、その前年度の20年度には教育課程を作成し終える必要がある。

20年度の秋ごろから各都道府県教委などとのやり取りが始まるから、夏までには形ができていなければならない。そのため、今年度中には各校が必要な情報を十分に収集できていることが必要になる。

今年度の全高長総会に、約2600人と例年以上に多くの先生方が出席したことは、こうした情報収集の必要性を物語っている。Society5.0時代への対応やICT化の一層の推進、STEAM教育の視点に立った新たな学びなど、今の高校は大きな転換の局面を迎えている。

この節目の年に会長になった立場で、全国の先生方に情報を提供することは、重大な責務だと考えている。一方で、各校が地域や生徒の実態に応じて抱える課題についても、情報を集め、文科省や関係機関に発信していきたい。

普通科を巡る議論に具体性を
――普通科教育の今後を巡る議論については。

高校生の約7割が在籍する普通科の改革について議論となっているが、全国普通科高等学校長会の理事長として、国の動向を見つつ、取り組んでいくべき課題だと考える。

「生徒のためにできることを」と語る萩原会長

政府の教育再生実行会議は5月17日、第11次提言で、高大接続改革は大学、大学入試、高校の教育の、三位一体の教育改革で、特に普通科の教育内容が画一的で生徒の意欲が高まる内容ではないとして、生徒の多様な能力や関心に十分に応えられていないと指摘した。

高大接続改革において、大学には、アドミッション・ポリシー(入学者受け入れの方針)、ディプロマ・ポリシー(学位授与の方針)、カリキュラム・ポリシー(教育課程の編成・実施の方針)の一体的な策定を義務付けたが、今回の提言は高校も校長のリーダーシップの下、明確化した教育理念に基づき、生徒受け入れに関する方針、教育課程編成・実施に関する方針、修了認定に関する方針を定めさせていこうというものだ。

普通科の改革として、例えば「普通科の高校を特色ごとに類型化する」と、そのイメージとして▽自らのキャリアをデザインできる力の育成▽国際的に活躍▽科学技術の分野をけん引▽地域課題を解決――といった例示をしたが、各校の方向性となりえるものなのか。

第11次提言を受けての中教審では、委員の一人として、全国の先生方のお力添えを受けながら、具体的な議論を展開していきたい。

生徒が主役になれる学校
――校長として取り組んできたことは。

最初に校長として着任したのは、都内でも山間部に近いところに位置する高校。学習が十分に定着していない生徒が少なくない中で、「一人一人が輝ける学校を作りたい」と強く願った。

着手したことの一つは部活動の充実。ラクロス部を新たに作り、大学生の指導を受けられるようにするなどして、生き生きとした活動の場とすることを目指した。

もう一つは地域のフィールドワーク。学校近辺には、多摩地域で作られた生糸を横浜港へ運ぶ「絹の道」があった。そこを歩く全長約5㌔のコースを設定し、歴史や地域の特色を感じながら、ゴミ拾いなど地域貢献もできる活動を設けた。

どちらも、現在も継続していると聞く。その後、全面改築を迎える学校2校を経たが、大事にしてきたのは、生徒を主体にした学校経営。生徒の授業評価アンケートなど、生徒から発せられたデータを基にしながら教員に助言したり、生徒が自ら考えるような指導をするよう発信したりしてきた。

現任の西高校は都内でも有数の進学校だが、「国際社会で活躍できる大きな器の人間の育成」を教育理念に、「授業で勝負」を合言葉に日々の教育活動を実践し、卒業時には、将来につながる進路実現を図ってほしいと考えている。大学を入り口にしてさらに伸びる生徒を育てていきたい。自分が何に強い興味・関心を持ち、どんな人生を送りたいのか。それを見付けられる学校であり続けられるよう、努めていく。

――読者へのメッセージを。

全国の校長先生方と情報交換しながら、高校現場の声を届けたい。全国の校長先生方にお力添えをいただきたい。

また、教員自身の「ライフ・ワーク・バランス」を大切にしながら、目の前にいる生徒のために何ができるかを真摯(しんし)に考え、「チーム学校」として取り組んでほしい。

(小松亜由子)


【プロフィール】

萩原聡(はぎわら・さとし) 1961年生まれ。電気通信大学修士課程修了。87年に数学科教員として東京都立高校に着任。東京都教育庁や荒川区教委などを経て2018年度から東京都立西高校校長。18~19年度日本数学教育学会副会長。好きな言葉は「十人十色」、趣味は家族旅行。