全連小が描く小学校教育の改革と実践 喜名会長に聞く

新学習指導要領の全面実施を目前に控え、変革期を迎える小学校教育。新たに全国連合小学校長会(全連小)の会長に就任した、江東区立明治小学校の喜名朝博(きな・ともひろ)校長は「校長の役割を今一度考えるべきだ」と話す。働き方改革や教員採用試験の低倍率化など課題が山積するなか、全連小が描く小学校教育の未来について聞いた。


教育改革が加速する節目の時期
――会長就任に当たっての抱負を。

新学習指導要領の移行期間の最終年度であるとともに、4月に示された中教審の諮問「新しい時代の初等中等教育の在り方について」の内容を読み解くと、教育改革がますます加速する節目の時期だ。

そのような転換期に校長職を務めることの意義と重大さを、今一度認識しなければならないと感じると同時に、全連小の会長としての責任は大きいと痛感している。

およそ2万人の全国小学校長の意見を吸い上げ、現場の声を文科省に届けていきたい。もちろん全連小としても有益な情報を発信していく。

――小学校の現場が抱える課題は。

大きく分けて三つある。

まず一つ目は「新学習指導要領への対応」。今回の改訂は、学校教育自体の理念の改訂だ。「カリキュラムマネジメント」や「主体的・対話的で深い学び」など、新しい言葉だけが先行している印象を受けるが、教員一人一人が中身をしっかり理解して、どのように授業を変えていくかといったところまで落とし込まなければならない。

そのためにはまず管理職である校長がしっかり理解して、自校の教員に伝える必要がある。

本校の場合は毎朝、教員に配布している「校長室便り」の中で新学習指導要領の考え方に触れたり、昨今話題になっている教科担任制について解説したりして、情報共有している。

さらに校内研究においても私自らがファシリテーターを務め、新学習指導要領のポイントや、これからの教育の在り方について情報を織り交ぜながら、教員一人一人が自身で主体的に考えられるように工夫している。

働き方改革の格差を埋める
――課題の二つ目は。

「学校における働き方改革」だ。1月に文科省から具体的な内容が示された。

「教育改革が加速する」と強調する喜名校長

一番大切なのは、われわれ校長の発想を変えることだ。伝統や歴史ありきではなく、どの場面でも「本当に必要なものは何か」と問い直す必要がある。

また、働き方改革の取り組みにおいて、自治体間格差が顕著なことは喫緊の課題だと感じる。この格差はゆくゆく、児童たちの教育の格差につながるだろう。それはあってはならないことだ。

全連小ではこの格差について昨年、一昨年と調査を実施したり、情報交換の場を設けたりした。その結果、同じ都道府県内でも市区町村が違うだけで大きな差があるケースが多くあった。財政格差の問題だけでなく、各首長の考え方の違いもあるのだろう。

全連小としてももちろん声を上げるが、各自治体の校長会をはじめとした現場が声を届ける必要がある。われわれ現場が横のつながりでしっかりと情報交換をし、参考にできる取り組みを集め、各市区町村教委に提案するくらいの心意気を示したい。

さらに留意したいのが、働き方改革の本来の目的を忘れないこと。社会全体でも働き方改革がうたわれているが、単なる効率化や時間短縮にだけ目が行っているように感じる。学校における働き方改革の本来の目的は、児童と向き合う時間や教材研究の時間を確保し、教育の質を高めることだ。これを常に忘れてはいけない。

教員のステータスを上げる
――三つ目の課題は。

「教員採用試験の低倍率化」だ。山積する課題のなかでも最も深刻だと感じている。

児童の話になると思わず笑みがこぼれる

東京都の2018年の倍率は1.8倍だった。人手不足は業界問わず、社会全体を見渡しても大きな問題だ。さらに若者の職の選び方や働き方も変化しており、現在は「福利厚生で職業を選択する時代」と言えるだろう。民間企業でも福利厚生が充実しているところが増えている。

教育に対して志が高い若者が、教員の待遇や労働環境に悪いイメージを持ち、民間企業などに流出しているとすれば、とても残念だ。

これを解決するために、教員の社会的ステータスを上げることが急務だ。教員は本来専門性の高い職業だが、さらにここにきて英語やプログラミング、ICT、AI活用など、より高度な資質・能力を求められている。

しかし現在では「ブラック」なイメージが定着しつつあり、本来の教員職の魅力が伝わっていない。職業としてのレベルの高さや魅力を、教育現場内外に関わらず多くの人々と共有するべきだ。

もちろん働き方改革や免許更新制の在り方の見直しなど、山積する問題一つ一つに対して推進していくことも忘れてはならない。

全連小としても教員という職の魅力を発信していきたい。

校長はゴールではない
――改めて、いまの時代に求められる校長の役割とは。

学び続け、その学びを現場の教員に伝えることだろう。

校長室には訪れた教員用のカフェメニューがあり、教員が気軽に訪れられる

校長は決してゴールではなく、スタートだ。教員は学び続けなければいけないとよく言われるが、まず率先して取り組むべきなのが校長だろう。それが真の意味での、校長のリーダーシップだ。

「学び続ける」ことは学校だけでは完結せず、社会の中で発展していくものだ。そのため校長は学校を飛び出し、地域や社会、世界に目を向け、情報をキャッチしなければならない。それを自校に持ち帰り、教員に分かりやすく伝えることが本来の校長の姿だろう。

これだけ社会が動き、教育が変わろうとしているのにも関わらず、これまでと同じことを繰り返していては取り残されてしまう。私自身も奥田碩氏の 「変わらないことが最も悪い」をモットーに、新しい情報にアンテナを張り巡らせ自問自答する日々だ。

全連小としても有益な情報を得られるツールとして活用してもらえるよう、発信を続けたい。

――読者にメッセージを。

私は教員の仕事が大好きで、心から楽しいと感じる。特に授業は教員の工夫次第でいくらでも、児童の「楽しく学ぶ」を実現できる。そんな授業のなかで児童から「分かった」という言葉と笑顔に触れられるのが何よりも喜びだ。

いま現場で働く教員の皆さんは、後輩の教員や、教員を目指す若者に仕事の魅力を伝え、発信してほしい。

日本の未来は目の前にいる子供たちに託されていて、彼らの教育に責任を持つのが私たちの仕事だ。つまり日本の未来を創っているという心意気を、常に持ち続けてほしいと感じる。

(板井海奈)


【プロフィール】

喜名朝博(きな・ともひろ) 1961年、東京都生まれ。東京学芸大学卒。83年に東京都千代田区立永田町小学校で教職生活をスタート。東京学芸大学教育学部附属大泉小学校や中野区教委指導室長などを経て、17年から江東区立明治小学校校長。校長室を開放し、児童と触れ合うことが毎日の楽しみ。趣味は読書。今読んでいる本は「学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する」。

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