規格外教師が実践する(上) 働き方改革を見直す時短術

全国学力・学習状況調査でトップクラスの成績を誇る福井県で、働き方改革と学力向上の両方を実現している若手教師がいる。坂井市立春江東小学校の江澤隆輔教諭は、前任の中学校で英語学習法「フォニックス」を取り入れた英語指導法を確立。さらに毎日午後6時前には退勤するなど、家庭と仕事を両立させ、最近は書籍の執筆にも精力的に取り組んでいる。そんな江澤教諭に仕事の進め方を聞いた(全3回)。第1回では江澤教諭が実践している時短術と、フォニックスによる授業改善に通底する「効率性」に焦点を当てる。


常に効率化を考える
――著書には、毎日午後6時に退勤していると書いてあり、驚きました。

2年前に小学校に異動してからは、もっと早く帰っています。今は午後5時半に退勤するのが普通で、むしろ6時だと遅いくらいです。

本で紹介した時短術の多くは、前任の中学校でやってきたことです。仕事にかける時間を短くし、家族との時間を増やしたり子供と関わったり趣味を充実させたりする時間を増やそうというのが主なコンセプトです。

時短術のアイデアをまとめた著書を出版した江澤教諭

福井の教員文化は良い意味でも悪い意味でも真面目。教材研究やプリント作りにはとても熱心ですが、その反面、自らの超過勤務がどのくらいに及んでいるのか、自覚のない教員も多い。国の改革方針は、残念ながら福井の学校現場には全く届いていません。

――著書で紹介している時短術の中でも、特に「テストの採点は正解には〇を付けず、誤りだけに×を付ける」や「年度初めに1年分のプリントやテストを印刷しておく」というアイデアは「目からうろこ」でした。しかし、同僚と違うやり方をするのには勇気がいるのではないでしょうか。

小学校は学級担任なので、そういう面はあまり気にしなくても大丈夫なのですが、教科担任制の中学校では、同僚に理解してもらって、足並みをそろえる必要があります。

前任の中学校には、英語科の教員が5人いたのですが、偶然、現状に問題を感じ、どんどん変えていこうと考えている人ばかりが集まっていました。そのため、彼らととことん話し合って、いろいろなことを変えていきました。1年分のプリントを前もって印刷するというのも、その過程で編み出された時短術です。

テストの採点については、常に誤りにだけ×を付ければいいわけではありません。目的に応じて使い分ける必要があります。子供はどうしても、テストの点数にばかり目が行きがちです。大切なのは、どこをどう間違ったのかをしっかり意識させることで、このプロセスがないと学力は伸びません。

――時短術のアイデアはどのようにして思いつくのですか。

仕事を振られたとき、それをただ漫然とやるのではなく、「どうすれば早く終わるか」を考えるようにしています。テスト勉強で、全範囲を覚えようとするのではなく、効率良く点数が取れるように全体像を捉えながら戦略を練っていくのと同じですね。

江澤教諭が著書で紹介している時短術の一部

指導要録の作成も、Excelでマクロを組んである程度の自動化を図り、それを学年でシェアする。そうすれば自分だけでなく、周囲の教員や次にその仕事をする人も早く帰れるようになる。そうやって効率化につながるように意識しています。

思考停止のまま漫然と仕事をこなしてしまうのが一番の問題だと思うので、常に考えて仕事をするようにしています。2014年から書籍の執筆を中心とする情報発信を始めましたが、その過程で意識的に何かをやってみたり、何が問題なのかを頭の片隅に置いて取り組んだりするようになりました。こうした習慣がアイデアの源となっています。

フォニックスで学習効率を高める
――中学校から小学校へ異動して感じている指導の難しさはありますか。

小学校は本当に難しいです。中学校の経験がほとんど生きない。異動1年目はもう一度、初任者から始めるような感覚でした。仕事内容が中学校と全然違います。

中学校は教科指導がメインなので、教師にとっては授業をどのようにするか、子供の学力をどう伸ばしていくかが大きなウエートを占めています。一方で小学校は生活指導がメインです。授業も大事ですが、それ以前に、授業を受けるための姿勢を整えたり生活上のルールを守らせたりすることを重視しなければいけません。

――小学校の外国語活動ではどのような授業をされているのですか。

まず、小学校の英語は中学校の前倒しではありません。考え方が全く違います。何より、小学校では英語嫌いにさせないことが大事で、4技能の中では、「話す」「聞く」活動が中心となります。加えて3、4年生はアルファベットを書かないので、音だけで指導しなければいけない。5、6年生で文字の指導が始まるまでは、2年間かけてゆっくりと基礎を身に付けていく感じです。4技能で見ると「話す」「聞く」に偏り、バランス的にはよくありません。

一方で中学校から見ると、小学校卒業までに「話す」「聞く」はある程度やってきていることになります。そして、入学後は「読む」「書く」を重点的に伸ばし、4技能をバランスよく育成していくことになります。こうした変化を認識している中学校教員は、そう多くないと思います。福井県は小学校英語の教科化を先行実施しているのですが、その移行期間中ということもあり、学年によって小学校で受けてきた英語の授業時間が異なります。必然的に、中学校では年度ごとに課題設定や指導法も変えていかなければいけません。その意味でも、もっと小中が連携していく必要があります。

――英語の指導で、フォニックスに着目したきっかけは何ですか。

まず、以前から英語の作文指導の在り方に疑問を感じていました。当時、英作文はテスト前に少しやる程度で、中学3年でも、全く書けない生徒がたくさんいました。そこで、英語教員で話し合って、学習段階に応じてテーマ設定した英作文の問題集を作りました。

江澤教諭の著書。執筆活動にも精力的に取り組んでいる

フォニックスを導入したのもちょうど同じ時期です。生徒が英語でつまずくのは、突き詰めて考えると文字と音の要素がつながっていないからです。「speak」という単語を例に挙げると、つまずきやすい生徒は、単に「スピーク」と読むのだと認識している。でも、フォニックスを知っていると、「s」「p」「ea」「k」の四つの音が足されて「スピーク」と発音するのだと認識します。この二重母音の「ea」の発音を知っていれば、初見の「sea」も「シー」と読むのだと自然に分かります。

フォニックスを身に付けると、英単語のスペルと発音を覚える量が格段に少なくなり、文字と音がリンクしていない生徒も減らせるはずです。

前任校で、私は中学1年生の最初の2カ月間、フォニックスを徹底的に指導しました。授業で扱う五つのフォニックスを知っておけば、中学校で習う単語の6割、1200単語くらいは初見で読めるはずです。後は単語の意味を覚えればいいだけなので、とても効率的です。

そのような形で、前任校では生徒の英語力を伸ばしていくシステムを構築しました。このシステムで3年間鍛えられた生徒は、英語の作文能力やスピーキングの能力が飛び抜けて高いという結果が、ベネッセコーポレーションのGTECの結果でも示されました。


【プロフィール】

江澤隆輔(えざわ・りゅうすけ) 福井県坂井市立春江東小学校教諭。英語教員として福井市立灯明寺中学校、あわら市立金津中学校の勤務を経て現職。フォニックスを取り入れた英語指導を実践し、高い成果を上げる一方で、部活動の指導を見直し、仕事の効率化にも意識的に取り組む。著書に『苦手な生徒もすらすら書ける!テーマ別英作文ドリル&ワーク』(明治図書出版)、『教師の働き方を変える時短 5つの原則+40のアイディア』(東洋館出版社)など。