規格外教師が実践する(中) 部活動と授業の再構築

フォニックスを取り入れた英語指導で成果を上げる一方、プライベートでは時短術によって仕事の効率性を高めて、家族と向き合う時間を確保する。そんな働き方を実践する福井県坂井市立春江東小学校の江澤隆輔教諭はかつて、「BDK」(部活動大好き教師)だったという。江澤教諭自身が教師としてのどのように成長していったのか、そのプロセスに焦点を当てる。


「BDK」からの卒業
――中学校の教員が避けて通れない部活動指導について、どのような改革をしたのですか。

実は、英語の授業で英作文やフォニックスに力を入れるようになったのは、2校目の赴任校の後半4年間くらいです。それまでは部活動指導に明け暮れる日々を送っていました。

私自身、学生時代はソフトテニスをしていたのですが、初任校ではバレーボール部の顧問をすることになりました。未経験の競技で勝手が分からない中、自身も勉強しながら生徒に教えていたのですが、心のどこかにもやもやしたものがありました。

2校目では希望がかなってソフトテニス部の顧問になれました。やはりうれしくて、指導にも力が入りました。時間を掛ければ掛けるほど、生徒は強くなっていきますから、私自身もどんどん指導にはまって「BDK」になっていきました。

――最も多いときでどれくらいの活動をしていたのですか。

平日の練習は放課後の2時間に加えて、外部の団体や、自分で団体を作って市営の体育館を借りて、午後9時くらいまでやっていました。普通の学校ではボールは300球くらいしかないので、自費で1000球くらい購入していました。

以前はソフトテニス部の指導にのめり込んでいたという江澤教諭

土日は県外の学校と練習試合ばかり。午前3時に出発して、新潟県まで遠征したこともあります。高速道路のインター近くで生徒と待ち合わせをして、そこまでは保護者が送ってくるのですが、今振り返ると、どうかしています。

しかし当時は、保護者も「どんどんやってください」という感じで、顧問になって1年半ほどした頃には、県大会で上位に入るようになりました。

――その間にライフステージの変化もあったそうですが、そうした指導は続けることができたのでしょうか。

難しかったですね。ちょうどそのころに結婚し、子供が生まれました。30代に入って、校務分掌も主要なものを複数任されるようになり、英語科ではリーダーとして学校全体の英語力を底上げしていく役割を担うなど、とにかく時間がありませんでした。

校務分掌をこなしながら、学校全体の英語の授業を俯瞰(ふかん)し、学級経営も適切に行っていく。その一方で、子育てもやりたい。これらを同時にこなしながら、部活動の熱血指導を続けるのはとても大変で、「このままでは体を壊してしまう」と思いました。

もう一つ気になっていたのは、指導していた部員たちが、高校進学後にテニスを続けていないことでした。県大会で上位に入賞していたような生徒が、高校に入学してあっさりと別の部活動に入部する。本来、スポーツは生涯を通じて楽しむものなのに、すぐに辞めてしまう卒業生たちを目の当たりにして、考えが変わりました。

「ゆとり部活」に転換後、江澤教諭は教材開発に注力している

そこで、練習時間を思い切って見直し、生徒も教師もゆとりが持てるようにしました。

現在、スポーツ庁や文化庁から部活動に関するガイドラインが出されています。平日1日と土日のどちらか1日を休養日とし、平日の練習は2時間、休日は3時間までとしています。でも、当時はそんなものがなかったので、反対される覚悟はありました。しかし、私の異動後も、ソフトテニス部では国のガイドラインを順守しながら活動していると聞いています。

1.1の授業を継続する
――「教師の本業は授業である」との考えに立ち返り、英作文やフォニックスの教材開発に力を入れるようになったのですね。

そうした認識の下、中学校3年間を通してどんな力をどこまで伸ばすか、どうマネジメントしていくかを考え始めたのです。するとがぜん、楽しくなってきました。

研究授業などがそうですが、1時間単位で見れば素晴らしい授業はたくさんあります。しかし、授業を受けている生徒にとっては、年間140時間に及ぶ英語の授業の1コマにすぎません。普段の授業で1の力が付くとして、その素晴らしい授業で2の力が付くとしても、年間を通して見れば大きな意味はありません。

それならば、1.1でもいいから、ちょっとでも良い授業を140回続けた方が、はるかに力が付きます。この考え方は、働き方改革にもつながっていくと思います。

1年を通して良い授業をするのであれば、1コマしか使えないような教材を作っても意味がありません。1発の打ち上げ花火で終わってしまうのではなく、年間140時間、さらには3年間、ずっと使い続けられる教材や授業法を生み出すことが大切なのです。

江澤教諭が作成したフォニックスの教材(江澤教諭提供)

英作文やフォニックス以外にやってきたこととしては、英単語の教え方があります。これも以前は、個々の英語教員が別々に教材を作ったり、教え方を工夫したりしていました。そうしたやり方を改め、共通の単語帳を作り、4月の最初の授業で生徒に渡すようにしたのです。「英語の授業は、授業の最初にこの冊子を使って生徒同士で問題を出し合うから必ず持ってくるように」と説明しておけば、教師は楽になるし、生徒たちもやることが決まっているので安心します。また、子供たちが英単語の問題を出し合っている間に、教師は進度の確認や板書などもできるようになります。

個々の教師による個人商店ではなく、英語科という会社でもって活動する。単語帳づくりをはじめとする仕事は、そんなイメージで行っています。そうした仕事術でもって生徒の力が付いてくるのを目の当たりにすれば、他の教師もついてきてくれて、どんどんやりやすくなります。

ただ、一つだけ注意しなければならないのは、教師の裁量を奪わないことです。最初の10分だけは共通化を図ったとしても、残りの40分は担当教師の裁量に任せるようにします。特にベテランの教師はこれまで蓄積してきたノウハウがあるので、全てをルール化してしまうと反発を招くことがあります。

私自身もその点を意識し、個々の教師の独自性を生かしつつ、協力すべき点ではしっかり協働して、「株式会社・英語科」を作り上げました。

(藤井孝良)


【プロフィール】

江澤隆輔(えざわ・りゅうすけ) 福井県坂井市立春江東小学校教諭。英語教員として福井市立灯明寺中学校、あわら市立金津中学校の勤務を経て現職。フォニックスを取り入れた英語指導を実践し、高い成果を上げる一方で、部活動の指導を見直し、仕事の効率化にも意識的に取り組む。著書に『苦手な生徒もすらすら書ける!テーマ別英作文ドリル&ワーク』(明治図書出版)、『教師の働き方を変える時短 5つの原則+40のアイディア』(東洋館出版社)など。

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