川崎スクールバス襲撃事件 岐路に立つ学校安全(2)

登下校中の子供の命をどう守るのか――。スクールバスの乗降スペースが狙われるという、安全対策上の盲点を突かれた「川崎スクールバス襲撃事件」を受け、子供の安全をどう確保すればいいのか。「日本こどもの安全教育総合研究所」の宮田美恵子理事長に、学校や行政が取るべき対策を聞いた。


安全対策のステージが上がった
――学校安全の専門家として、「川崎スクールバス襲撃事件」をどう捉えているか。

今回の事件は、2001年に起きた「附属池田小事件」に次ぐ衝撃を受けた。犯罪発生率が低く、世界的にも安全性の高い国とされてきた日本では、これまで、子供たちの登下校中の安全は、警察をはじめ、学校の教師や地域・保護者のボランティアが地域ぐるみで見守ってきた。その見守りは、不審者に声を掛けられ、連れ去られてしまうことを防ぐという点ではある程度機能していたが、今回のようなテロ事件とも呼べるような状況は想定していない。この事件で、通学路の安全対策のステージは上がったと言わざるを得ない。

地域ボランティアの担い手は高齢者などの一般市民だ。今回のような事件が起きれば、危険にさらされる側にもなる。身をていして子供を守ろうとすれば、命を落としかねない。そのような危険の伴う役割を一般市民によるボランティアに頼るわけにはいかない。事件の模倣犯の出現も危惧される現状を踏まえれば、通学路上に早急に警察官や警察OBなどの防犯の専門家を配置すべきだ。

「スクールガード」が配置されている学校では、警察OBがリーダーとして防犯体制を築いているところもある。ところが多くの場合、警察OBも他の地域住民と同じような蛍光色のベストを着用している。これでは、せっかくの警察OBの効果が半減してしまう。

宮田氏は制服を着た警察OBの配備を提言する

そこで、警察官に準じた制服を警察OBに着させることを提案したい。このような「見せる防犯」によって、犯人に犯行を思いとどまらせる抑止効果が期待できる。通学路上で、お互いに目に見える範囲にこうした警察OBを配置することが理想だ。

私立学校では、民間のガードマンを雇い、見守りの教師と一緒に付き添うなどの対策が考えられる。ただ、私立学校などと公立学校で安全対策が分断される状態は果たしていいのかという問題もある。地域には公立学校もあれば私立学校もある。各学校の通学路の安全確保を徹底した上で、地域にいる子供たちを守るもう一つの受け皿を作り、二重三重の防犯対策を機能させなければならない。

幼稚園や放課後子供教室も対策を
――通学路上の安全点検をする上でのポイントは。

被害にあったカリタス小学校では、教師の付き添いも行われ、安全対策としての落ち度は見当たらない。あの状況で何か対応できたかと言えば、付き添っていた教師も子供も極めて難しかっただろう。しかし、そうした不測の事態でも、備えておけば状況によっては助かる可能性があるかもしれない。

以前から私は問題として指摘してきていたが、不審者対策として効果が高いとされてきたスクールバスにおいて、今回は乗降場という「むき出しの部分」が狙われた。スクールバスによる登下校を実施している学校では、バスの乗降はどこで行っているか、学校にバスが着いたとき、校門は閉まった状態かなどは確認すべきだ。

報道によると、カリタス小では、駅からスクールバスの乗降場までは、交通量の多い道路を避けて、線路沿いの裏道を迂回(うかい)させるように指導していたという。このような線路沿いで人通りの少ない道は人目に付きにくく、もしそこで犯行が起こってもすぐに発見・対処できない可能性が高かった。これはあくまでも一例にすぎないが、こうした危険を念頭にスクールバスや通学路の点検をする必要がある。

登下校では、もしものときに逃げ込める場所を通学路とひも付けて点検するのもポイントだ。「子ども110番の家」や通学時間帯に住民に座ってもらう「見守りベンチ」などが通学路上に整備されているか、それが本当に機能しているかは確認しておきたい。

また、24時間営業しているコンビニエンスストアは、子供の心理的に住宅よりも入りやすい。現在も形式的に行われてはいるが、コンビニの多い都市部では、子供が助けを求める場としての機能をより強化すべきだ。国レベルで企業と協力体制を築き、マニュアルを作ったり、店員に訓練したりすることが望まれる。

今回の事件を受けて小学校の安全対策が強化されると、ターゲットが転移し、同様の犯罪がさらに弱い立場にまで及ぶ可能性が懸念される。幼稚園ではスクールバスによる通園が一般的だ。保育園には乳幼児もいる。さらに、放課後子供教室は子供の出入りが激しいため、施錠が徹底されていないところも多い。障害者施設も狙われやすいだろう。こうした施設はスタッフも限られている。今回の事件は小学校の話と思わず、あらゆる機関で安全対策を強化してほしい。

逃げ込む場所を意識させる
――防犯教育上の課題は。

険に遭遇したときの子供の対応(宮田美恵子、2010)「危険人物との遭遇場面における子どもの認知危機と離脱行動に関する研究」『発達心理学研究』第21巻第4号を基に作成)

安全教育は事故防止、防犯、防災の三つの分野に分かれるが、どうしても学校側の関心は防災に傾きがちだ。特に防犯教育では、「人に親切にすることと、犯罪にあわないようにすることをどう教えたらよいか」という声もよく聞く。こうした「防犯モラルジレンマ」を抱える学校では、防犯教育は扱われにくいという課題がある。しかし、警察が学校で「防犯教室」を開いても、警察は教育の専門家ではないため、子供に内容が十分に伝わっていないケースもみられるようだ。やはり、教育の専門家である教師による防犯教育が求められる。

これまでの危険ステージの不審者や、今回の事件のようなステージの上がった危険についても、二つの原則を徹底させてほしい。一つは、危険から速やかに「離れる」こと、もう一つは、大人に「伝える」ことで代わってもらうことだ。身の危険を感じたときに自分が取るべき行動を徹底できるようにシンプルに伝え、「子ども110番の家」やコンビニなど、通学路上で逃げ込める場所を確認しておくことが有効だ。

本研究所が2010年に調査したところ、付きまといや連れ込み、身体接触など、不審者に遭遇した小学生で、実際に「子ども110番の家」に逃げ込んだのは0.9%だったことが分かっている。2018年に同様の調査を行っており、現在分析しているところだが、その傾向は大きくは変わっていない。逃げ込める場所があっても、いざというときに機能しなければ意味がない。教師や保護者は、そうした場所に子供と実際に入ってみたり、確かめさせたりして、子供に意識させる必要があるだろう。

何か社会的な問題が発生したときに「学校」や「教育」というキーワードが出ると、教師が時間や役割に際限なく対応する風潮が日本にはある。しかし、教師はあくまで教育の専門家だ。防犯の専門家とうまく役割分担をして、学校や教師が抱え込みすぎないような体制を築いてほしい。

(藤井孝良)


【プロフィール】

宮田美恵子(みやた・みえこ) 日本こどもの安全教育総合研究所理事長。順天堂大学研究員。児童生徒向けの安全体験学習プログラムの推進や教員向けの安全教育研究、教材開発などに取り組む。著書に「うちの子、安全だいじょうぶ? 新しい防犯教育」(新読書社)、「地域コミュニティと教育~地域づくりと学校づくり~」(放送大学教育振興会、共著)など。

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