規格外教師が実践する(下) これからのスタンダード

授業改善と働き方改革の両方で成果を上げている福井県坂井市立春江東小学校の江澤隆輔教諭は、公立学校の教員である傍ら、社会福祉法人理事、保育園父母の会副会長、教育書籍の執筆者など、あまたの顔を併せ持つ。そんな「規格外」な教師である江澤教諭に、教師の働き方や、既存の学校システムの変革について聞いた。


四足のわらじで見えてきたもの
――教員、家庭、著書の執筆以外にもやられていることがあるそうですが、その「四足目のわらじ」とはどのようなものでしょうか。

大学4年生のころから、近くの保育園の社会福祉法人理事をしています。理事の仕事として、運動会や卒園式に出席してお手伝いをしたり、園児の活動を見守ったりしています。この保育園は、私の父が亡くなる前に立ち上げたもので、現在は母が園長をしています。そういう経緯もあり、個人的にも思い入れのある大切な場所です。

公立学校の教師でありながら社会福祉法人の理事も務める江澤教諭

保育士のプロフェッショナルとしての意識は相当なものです。例えば、保育士の人たちの勉強意欲はとても高い。子供たちの発達段階に応じてどういった活動をすべきなのか、毎日の子供の様子はどうか、それに対して保護者はどう考えているのか、日々研修を重ねています。さらに、笑顔を絶やさずに保護者の相談に乗ったり、子供たちを受け入れたりしている姿勢は、同じ子供に毎日関わる者として見習うべきです。

実は、その保育園に私の子供もお世話になっていて、今年度は「父母の会」の副会長もやることになりました。保育園に関わる機会が増え、とてもうれしいです。保育の現場からみる「教育」について、もっと理解を深めたいと思っています。

――教師としての仕事以外にもさまざまな活動をしているのですね。教師が学校の仕事以外の活動をすることについて、どう思いますか。

教師がさまざまな活動を外で行うことは、私は「あり」だと思います。例えば、私のようなボランティア活動などであれば、通常業務にも影響はないはずです。

「教師としての仕事と切り離した上で」という前提条件は付きますが、教師が趣味に関するブログを書いたり、自作の動画をYouTubeにアップしたりすることは問題ないはずです。むしろどんどんやった方が、教師としても視野が広がるかもしれません。

これからは世の中が多様性を重視するようになります。学校の教師が同じような人たちで構成された画一的な集団だったら、子供だって伸びないでしょう。いろんな教師がいて、いろんなことをやっていくことが、教科指導にも生きると思います。

私の場合、生活に関するお金の流れや収入に応じた税金の仕組みについて生徒に話すことがあります。そんな話ができる教師というだけでちょっと珍しい。教師が、自身の挑戦していること、関心のあることを語るだけでも、生徒にとって大きな刺激になります。

規格外教師が挑む在野からの改革
――これからの教師の働き方は、どのように変わっていくと思いますか。

社会が激しく変化する中で、学校全体も変わらなければいけないし、教師一人一人が変わらなければいけないと思います。学校の制度もそうですし、授業の在り方も変わっていかなければならない。

「学校や教師には多様性が必要だ」と語る江澤教諭

中学校について言えば、思い切って午後は全て選択授業にしてしまうくらいの改革が必要だと思います。学年に関係なく縦割りでクラスを編制し、生徒の興味関心によって、プログラミングをやったり英会話をしたり、近くの山へ自然を観察しに出掛けたりする。そうしなければ、多様性は生まれないと思います。

教師も変わっていかなければなりません。特に20代、30代の若手は、私にとってのフォニックスや英作文のように、若いうちにコアとなる部分を確立させて、それを強みとして伸ばしていきながら、さまざまなことに挑戦してほしいと思います。

しかし、そのためには時間が必要です。教員の数を増やすか、仕事を合理化して時短を図るか。いずれにせよ、部活動は学校から切り離し、別のプラットホームで展開していくことが必須でしょう。

――今後の自身のチャレンジについて教えてください。

まず、本を書いて教育界を少しでも変えていきたい。これまで3冊の本を出版し、現在も執筆を進めているものがあります。とりあえず10冊を目標にして、日本の公教育に一石を投じたいと考えています。

4冊目となる新刊のタイトルは『学校の時間帯効果を見直す!―エビデンスで効果が上がる16の教育事例―』(学事出版)で、6月末に発売されます。

4冊目の著書ではエビデンスに基づく学校の働き方改革を提案

ここ10年ほど、教師の抱える仕事は増え続けており、それは文科省が大規模に行った教員勤務実態調査からも明らかです。仕事が増えるが、教師の数は増えない。そうなると、業務の精選・見直しが学校の喫緊の課題になります。いわば、「学校のスマート化」がこれから起こっていくのです。

そこで、スマート化の基準の一つとして「エビデンス(科学的根拠)」を使うことを考えています。英米の信頼できる機関が実施した大規模な調査・研究からエビデンスを抽出して、それを基に学校現場を見直すための提案をしています。

この「教育エビデンス×学校現場」という考え方は、日本で初めてです。現場の教員や大学の研究者からの反応が今から楽しみです。

ここ3年ほど、書籍の執筆などを通じて意識的かつ積極的に情報発信をしてきました。継続してコツコツと取り組んできたことで、全国のさまざまな先生方と知り合いになれたし、何より多様な意見に触れる機会を得ました。

つまり、より多くの情報を発信すれば良質な情報を得られるということを、身をもって体験できたのです。今後もそうした活動を継続しつつ、新しい発信の仕方も模索していきたいです。

授業面では、中学校へのスムーズな接続を小学校における課題と捉えています。何より英語を嫌いにさせず、丁寧に指導していく必要があります。

中学校では、できるだけ画一的な一斉授業を減らしたい。英語4技能のうち「話す」と「書く」については、スモールステップで力を伸ばすシステムが確立できたと思うので、「聞く」と「読む」についても、同じようにスモールステップで一人一人に適した学習が提供できるシステムを作りたいと思います。

英語は「一度つまずくと終わり」と思われている部分もありますが、決してそうではありません。子供が、分からなくなったところに立ち返って学び直せるようなシステムを確立させたいと考えています。

(藤井孝良)