ペアレンツ・リレーションのダイバーシティとは(上)

国籍や家族構成などのハード属性だけでなく、個人の価値観や常識などのソフト属性の多様化も進む現代。「ペアレンツ・リレーション」(保護者との関係構築)にも、進化が求められている。川崎市立小杉小学校の佐藤公孝校長は、長年携わってきた国際理解教育で得た知見を学校全体のペアレンツ・リレーションに生かし、学校と保護者が協力する学校運営を実現している。その手腕は「保護者の心を一瞬でつかむ先生」として、保護者の間で評判だ。第1回は、佐藤校長が国際理解教育から得た「人間関係のセオリー」について聞いた(全3回)。


「人間関係のセオリー」

――川崎市の佐藤先生の学校がある地域は、外国にルーツを持つ家庭が多いと聞きます。異なる価値観を持つ人間同士が関係性を構築する上で大切なことは、何でしょうか。

外国にルーツを持つ家庭との対話から、さまざまな学びを得たと語る佐藤校長

川崎市総合教育センターの指導主事時代、教育相談をした外国人家庭の数は約600世帯に上ります。さまざまな国の方と対話する中で気付いたのは、「人と人との間には、必ず溝が存在する」ということです。これは、国際理解教育の基本中の基本で、どんなに対話を繰り返しても、相手の全てを知ることはできません。

逆説的に聞こえるかもしれませんが、「相手の全てを理解することは不可能」という前提に立つことで、「自分が知っているつもり」や「理解しているつもり」のことから、「見えていないこと」や「理解できていないこと」を想像できるようになります。「想像しなければいけない」「想像しよう」というモチベーションが生まれるからだと思います。「自分に見えているのは相手のほんの一部だけ」と思っておくことが、他者との関係構築において、とても重要だと感じます。

自分が持つ「無意識の偏見」を意識する

もう一つ重要なのは、「自分の経験値や価値観では計り知れないことが多い」という認識を持つことです。教師に限らず、同じ業界で長く働いていると、「自分の経験・知識が絶対的に正しい」と無意識に思ってしまいがちです。しかし私は、国際理解教育に携わっているとき、自分の価値観や常識が全く通用しない場面に何度も遭遇しました。

職員室の入り口に設置された校長先生へのレターボックス

例えば、外国人家庭との教育相談の際、何気ない会話の中で、「最初に覚えた日本語は何ですか?」と聞くことがありました。私自身はおそらく「こんにちは」「ありがとう」などだろうと無意識のうちに考えていましたが、あるペルー人の方は「愛してる」と答えたんです。全く想像していなかった回答に、思わず笑ってしまいましたが、一方では自分の中にある「無意識の偏見」に気付き、ハッとさせられました。

「無意識の偏見」は、相手の見えていない部分を想像する際の足かせになりますし、価値観の押し付けにもつながります。自分が発した悪気ない一言で、相手を傷つけてしまうリスクも高まるでしょう。「無意識の偏見」を意識するのは非常に難しいことですが、異なるバックグラウンドを持つ人間同士の対話において、重要なポイントだと感じます。

このセオリーは、国籍や文化が異なる人同士の対話だけでなく、日本人同士の対話においても当てはまることです。自分自身の経験・価値観・気持ちを、当たり前のこととして相手に押し付けてしまうと、コミュニケーションの質は一気に下がります。無意識であっても、価値観の押し付けは対立に発展しやすい側面があるのです。異なる価値観を持つ相手を理解するためにも、自分自身の中にある「無意識の偏見」を常に意識した方がよいと思っています。

人に「ラベル」をつけない方が良い

――「モンスターペアレンツ」や「シングルマザー」などの言葉も、それ自体「無意識の偏見」に基づく言葉ですね。

その通りです。私は、人に「ラベル」をつけるのは、とても危険だと考えています。特定の事象や現象をネーミングし、マーケティング的な観点で語る際には役立つのかもしれませんが、人と人との現実の対話において「ラベル」を用いることは悪影響を与えます。

例えば、先輩の教員が若手教員に「モンスターペアレンツが文句を言ってきた」などと言ってしまうと、若手教員は身構えてナーバスになってしまいます。

「相手の見えない部分を想像することが大切」と語る佐藤校長

「モンスターペアレンツ」と心の中で呼んでいると、相手の正当な言動までをも「不当な主張だ」と捉えてしまうリスクもあります。「○○さんがご相談にいらした」という言い方と比べてみると分かりやすいですよね。保護者からの相談や要望を、「文句」「苦情」と安易に言わないことも大切かもしれません。

若手教員が、保護者の方から少し感情的な相談を受けた際に、恐怖を感じることもあるでしょう。私はそんな時、「大丈夫、大丈夫。不安や不愉快さを感じたら、強めの物言いになるのは当然のこと。どんな人でもそうなる。身構えずに、まずは話を聞いてみよう」と伝えています。

どんな相談であっても、「文句」「苦情」という言葉で安易に仕分けをせず、相手が「不安」や「不愉快さ」を感じた理由をあれこれと想像しながら、偏見を持たずに対話を重ねることで、相手を少しずつ理解できるようになります。そうして理解が深まれば、保護者の不安も徐々に解消され、最終的には信頼が得られるのです。

どう対応してよいか分からず、不安がっていた若手教員が、保護者の方と打ち解けていく様子を見るのが、私は好きです。人と人との間の溝が少しずつ埋まり、信頼関係が構築されていくのは、とても素晴らしいことだと思います。

次回は、ペアレンツ・リレーションにおける、佐藤校長の学校経営の手法に迫る。

(先を生きる取材班)


【プロフィール】

佐藤公孝(さとう・きみたか) 川崎市立養護学校、小学校教諭、川崎市総合教育センターカリキュラムセンター指導主事、担当課長、室長、学校教育部担当部長などを経て、2019年4月より川崎市立小杉小学校校長。長年、国際理解教育に携わり、外国にルーツのある家庭と行った教育相談の数は約600世帯にも上る。

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