ペアレンツ・リレーションのダイバーシティとは(下)

若手教員は「子供に集中すべし」
――ペアレンツ・リレーションにおいて、若手教員が注力すべきポイントは何ですか。

ペアレンツ・リレーションの屋台骨は「対話」です。対話の質を上げるコツは、「いろんな視点で考えること・想像すること」に尽きます。

「この人はどのような意図でそう言っているのだろうか」「この人が抱えている問題はどんなものだろうか」といった形で、さまざまな視点から考察する必要があります。ただし、多様な視点を持つには経験則も重要です。

そもそも、大学を卒業したばかりで社会人経験も子育て経験もない新任教員に、「子育てしながら働くお母さんの苦労を理解しなさい」というのは、ひど過ぎると思います。

保護者の声に耳を傾けることは重要ですが、若手教員には、「迷った時はその場で即答せず、いったん持ち帰って先輩教員や管理職に相談してください」とお願いしています。

小学校のホームページには、佐藤校長のミニコラムも

一方で、保護者の不安や悩みへの対応は、スピーディーさが重要です。何日も寝かせてしまうと、不信感を募らせてしまうこともあります。そのため、「保護者の皆さんから相談があった際には、いち早くエスカレーション(上司に報告・相談)してください。エスカレーションすべきかどうか、悩む必要はゼロです」と伝えています。

若手教員にはとにかく目の前の子供たちに集中してもらいたい。より高度な経験則が必要なペアレンツ・リレーションについては、先輩や上司に任せ、子供たちの学びや成長、抱えている問題に集中してもらった方が良いと思っています。

「1対1」から「N対N」に進化
――その先輩や上司は、どう対応するのでしょう。

不安を訴えてきた保護者の方に、落ち着かせようと思って「そんなに心配しなくて大丈夫ですよ」とお伝えして、「不安だから言っているのに、取り合ってもらえなかった」と不信感を与えてしまうことがあります。

悪気のない一言が保護者の気持ちを害してしまうことは珍しくありません。経験豊富な教員でも、1人の視点と想像力には限界があり、絶対に相手の気分を害さない返答方法なんて存在しません。

「円滑なペアレンツリレーションの仕組みを考えるのは管理職の役目」と語る佐藤校長

だからこそ、保護者との対話は1対1ではなく、必ず複数人で行うようにしています。校長である私自身も視点に偏りはあるでしょうし、想像しきれないこともあります。そのため、他の教職員に「こう思うんだけど、どうかな?」と相談するようにしています。

見えていないことを想像するのは、1人の人間でやるより複数の人間でやった方が絶対にいい。いろんな人の知恵を寄せ集めた方が、良い解が導かれやすいと思います。そうした考えに基づき、PTAなどの学校全体に関わることについては、N対N(多人数対多人数)で対話しています。

強制しないPTA
――PTAを廃止したと聞きました。

廃止したわけではなく、強制参加制度をなくしました。共働き世帯にとって、平日の日中に呼び出されるPTA活動への負荷は計り知れません。半ば強制的に参加していただくのは、多忙な保護者の方々に申し訳ないと思いました。

本校は2019年4月に開校したばかりですが、私自身は1年前から設立準備組織にいました。そこで新しい学校のPTAをどうすればよいか、保護者の方々と対話を行い、いくつかの気付きを得ました。

一つ目は、保護者の皆さんがPTA活動に参加するモチベーションは、「学校での子供の姿を垣間見られる」点が大きいということ。もう一つは、PTA活動のルーツに、できる人ができる範囲で参加するボランティアの精神があったということです。

それならば、PTA活動は子供に関わるものに絞り、やりたい人やできる人が任意で参加する活動にできないかと考えました。現在はほぼ100%、皆さんのボランティア精神とご厚意で運営していただいています。

各活動はチームに分かれて担当していただき、進め方は完全に各チームにお任せしています。すると、ITに強い父親が「ITを活用した効率的なやりとり」を導入してくださるなど、時間がない中でご自身の強みを生かしながら、見事なコラボレーションが生まれています。やらされ感がないからこそ、こういったチームワークが生まれるのかもしれません。

保護者の皆さまと「負荷が高いと感じている活動」についても、対話をしました。その結果、いくつかの活動は廃止しました。

校長室の応接テーブルに飾られた折り紙の花飾りは、保護者から頂いたものだという

例えば、PTA会報の発行をやめました。会報を通じて発信していた情報の一部は、学校が発信した方が効率的だと判断し、学校のホームページに掲載しています。

ペアレンツ・リレーションは、「学校」vs「保護者」という2項対立構造ではなく、教職員同士の対話、学校と保護者との対話、保護者同士の対話など、さまざまな「N対N」の関係性の中で、「一緒に考えていきましょう」という風土づくりが一番大切です。

そのためにも、人と人との間に必ず存在する「溝」を知り、自分に見えていない部分を想像する力を高めていかねばなりません。

私自身も含め、学校全体でそうした力を高めていきたいと思っています。

(先を生きる取材班)