3人のグローバル・ティーチャーが語り合う(上)

教育界のノーベル賞といわれる「グローバル・ティーチャー賞」。2016年に日本人として初めて「グローバル・ティーチャー賞」トップ10に入った髙橋一也氏(工学院大学附属中学校・高等学校 中学校教頭)、2018年に同トップ50に入った堀尾美央氏(滋賀県立米原高等学校教諭)、2019年に同トップ10に入った正頭英和氏(立命館小学校教諭)の3人に、「未来を生きる子供の力」を育む実践について語ってもらった。第1回は、3人が実践する「国境を超えた学び」の実践内容と発想法に迫る。全3回。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)


何かをつくってシェアする

小木曽 教育界のノーベル賞といわれる「グローバル・ティーチャー賞」のトップ10、トップ50に入ったお三方ですが、まずはそれぞれの実践内容を簡単に教えてください。

髙橋 2016年の「グローバル・ティーチャー賞」では、レゴブロックを用いたアクティブ・ラーニングの授業などを評価していただきました。

よく「なぜ、レゴを使って授業をするのですか」と聞かれるのですが、逆に私は「なぜ、レゴを授業に使わないのですか」と思っています。

「何かをつくってそれを共有することで学びは深まる」と髙橋教頭

子供たちが「知識」を獲得するためには、自分で考えて学び、何かをつくって、なおかつそれを友達とシェアすることが必要だということが分かっています。

「言葉」も「レゴ」も、そのための道具の一つです。私の実践は、「言葉」を「レゴ」に置き換えただけにすぎません。授業の狙いは「知識」や「思考」を具体化して、それをみんなで共有し、学びの共同体をつくることです。

私は何かを「つくって学ぶ」ことを重要視しています。教師がただ黒板に書いて子供に教えるだけではなく、子供自身が主体的に何かをつくってみんなで共有する。そうした活動によって、初めて「学び」は深まると考えています。

堀尾 私は公立高校で、英語を教えています。2018年の「グローバル・ティーチャー賞」の実践では、勤務校と海外のさまざまな国の学校をSkypeでつなぎ、遠隔授業を実施しました。授業を通じ、生徒たちに英語を学ぶ意義やコミュニケーションの楽しさを伝えられている点を評価していただきました。

現在勤務している学校は、滋賀県内では中堅の進学校にあたります。普通科が5クラスと理数科が1クラス、1学年240人ほどの生徒が在籍しています。

地方の田舎にある高校ということもあって、生徒たちの英語を学ぶことに対するモチベーションはなかなか高まりません。「なんで英語を勉強するん?」「英語なんて話す機会も無いし、必要性ないやん!」と生徒は言います。確かにその通りだとも思いますし、結局「受験に必要だから」と答えざるを得ない自分が、とても嫌でした。

Skypeを使った活動で英語を学ぶ意義を生徒に伝えた堀尾教諭

私自身は英語でコミュニケーションを取るのが好きなので、どうにかして生徒たちにそうした機会を与えられないかと悩みました。そうして始めたのが、インターネットを介して諸外国の生徒と交流する活動です。これまでパキスタンやレバノン、ナイジェリアなど、30カ国あまりの学校と、授業や部活動を通じて交流してきました。

「英語が好きだったのに、高校に入って嫌いになった」「受験のための英語に疲れてきた」――。そう言っていた生徒たちが、この活動を取り入れてから、顔つきが変わったように思います。いつも英語の追試を受けていた生徒が、本当に楽しそうに英語を話している。全生徒が前を向き、ニコニコしながら参加している。生徒たちのそういう表情があったからこそ、継続してこられた活動です。

この活動の一番いいところは、本物に触れられることだと思います。インターネットで検索すると何でも出てくる時代ですが、この活動では生徒が「本当なのかな?」と思っていることを自分自身で確かめ、感じることができます。

世界的に見れば、英語を母国語としている国の割合はそれほど高くありません。そうした中、英語圏ではない国も含めた多様な英語に触れ、「自分たちの英語」を認識できるというのも、この活動の意義だと思っています。

子供たちの学びにはリアルな経験も必要

正頭 私の実践は、英語の授業にゲームの「マインクラフト」を取り入れたPBL(Problem Based Learning)です。「マインクラフト」とは、全てが立方体のブロックでできているネット上の世界に、森や湖などの自然、城などの建造物を作り上げていくゲームです。

児童たちが取り組んだのは「『マインクラフト』で京都の街を世界に紹介しよう」というプロジェクトで、社会や図工、プログラミング、英語など教科横断型の学習です。

京都には全部で17の世界遺産関連文化財があります。立命館小学校は京都のほぼ真ん中にあるため、それら全ての世界遺産に30分以内で行けます。本プロジェクトは、こうした地域性を生かした活動でもあります。

教科横断型の学びが評価された正頭教諭

「マインクラフト」でただ建物をつくっただけでは、海外の人は何のことだか分かりません。そうした中、児童たちは「マインクラフトで作り出した京都の街を案内する観光ガイドが必要だ」ということに気付きました。「24時間態勢で誰かが待機できるか」という問いから「ロボットを置く」という結論に達し、児童が自ら動きやセリフをプログラムしたロボットに対応させることにしました。

プログラミングする前の段階で、児童たちは実際に現地へ赴き、海外の方を英語でガイドしました。海外の人はどんなところに注目して、どんな疑問を持って、どんな質問をするのかを実際に体験したのです。こうしたリアルな体験がないと、観光ガイドは偽物になってしまいます。

私は英語教師なので、子供たちに英語をマスターさせることを第一の目標としています。でも、英語を学ぶだけなら、YouTubeを見たり海外に行ったりした方が早い時代です。1クラス30~40人の児童生徒を相手に一人の教師が教えるなんてやり方は、非効率的です。これからは、ただ英語を教えるだけでなく、プラスαで何かを教えることが必要だと思っています。

「楽しさ」をどう「学び」につなげていくか

小木曽 皆さん、そうした実践をどのように発想されたのでしょうか。

堀尾 私の発想の原点は、地方と都市部の格差にあります。地方の公立校では、文科省からの指定事業でもないと、海外研修などのグローバルな経験はほぼできません。地方の公立高校生は一生そうした機会に恵まれない可能性も高く、不平等だと感じていました。

そんな時、たまたま生物の先生がネット回線で北海道の旭山動物園とつなぎ、飼育員の方の話を聞く授業をされていました。「これを英語科でも応用すれば、うちの学校でもグローバルな取り組みができるのでは?」と思ったのが、全ての始まりでした。

髙橋 私は2004年から米国の大学に留学し、最も効果的な教育を設計・開発するための方法論「インストラクショナル・デザイン」を研究してきました。レゴを使った活動も含め、現在はその理論をベースにした実践を具現化しています。

また、米国で研究を続ける中で、教育にICTが入ってくる様子を目の当たりにしました。そうした変化の中で、学習方法や思考法はこれからどのように変わるのだろうと考えていました。

しかし、2008年に日本に帰って来ると、米国と日本の教育があまりにも違いすぎてがくぜんとしました。日本のICT環境はかなり遅れていて、ICTを活用した学びを実践できなかったのです。

そうした状況の中で、中学生でも主体的に学びに参加できるような方法はないかと考えていたところ、レゴブロックを使った実践に行き着きました。

正頭 私の発想の原点は「ワクワク」です。先生がワクワクしないと、子供もワクワクしません。とにかく面白い授業をしたい。そう考えていた時に偶然出会ったのが、「マインクラフト」でした。

子供に「『マインクラフト』って知ってる?」と聞いたところ、ものすごく話が盛り上がり、大きな可能性を感じました。こんなに好きなんだったら、これを授業に取り入れたら子供たちはきっと目をキラキラさせるだろうなと。

ただ、最初は楽しいだけで終わってしまいました。大切なのは、この「楽しさ」をどう「学び」につなげていくかです。入り口は「好き!楽しい!」でいいけれど、それを学びにつなげていくように授業をデザインしていくのが私たち教師の役割です。


次回は先進的な取り組みを実践する上で、3人の教諭が乗り越えてきた壁や、周りを「巻き込む力」に迫る。

【プロフィール】
髙橋 一也(たかはし・かずや)

工学院大学附属中学校・高等学校 中学校教頭。慶應義塾大学・同大学院で学んだ後に渡米。米・ジョージア大では「PBL(Project Based Learning)」やアクティブ・ラーニングなど、効果的な教育方法を設計・開発するための研究に従事し、全米優等生協会に選出される。帰国後の2008年4月から英語教諭として教壇に立ち、2015年からは工学院大学附属中学校・高等学校に勤務。2016年、レゴを活用した学習活動が生徒の創造性と主体性を引き出す活動として、日本人として初めて「グローバル・ティーチャー賞」Finalist 10に入賞。現在、1年の研究休暇でオランダ・ユトレヒト大学にて発達認知心理学の研究に従事。

堀尾 美央(ほりお・みお)

滋賀県立米原高等学校教諭。2018年の「グローバル・ティーチャー賞」Finalist 50 に入賞。ICTを活用して、地方の公立校でもできる世界との交流の在り方を考え、Skypeなどを活用して生徒へ英語によるコミュニケーションの機会を継続的に提供。同賞入賞時点で25の国々とコミュニケーションを実施し、国を当てるゲームや複雑な議論など幅広い活動を行っている。活動の中ではコミュニケーションする国の課題をお互いに挙げ、それを解決する製品開発のアイデアについてプレゼンテーションし合うような継続的な活動も行っている。

正頭 英和(しょうとう・ひでかず)

立命館小学校教諭、ICT 教育部長。2019年の「グローバル・ティーチャー賞」Finalist 10に入賞。Minecraft: Education Editionを通してプログラミング的思考を養うとともに、教科をまたいで総合的な人間力を高める授業が評価された。Minecraftで京都の街並みを作り上げることで、児童の創造性を高め、児童同士のチームワークや論理的思考を構築し、さらにSkypeを活用して海外学生に制作物を発表することで、「使える英語力」と幅広いコミュニケーション能力を養っている。