3人のグローバル・ティーチャーが語り合う(中)

教育界のノーベル賞といわれる「グローバル・ティーチャー賞」のファイナリストとなった髙橋一也氏(工学院大学附属中学校・高等学校 中学校教頭)、堀尾美央氏(滋賀県立米原高等学校教諭)、正頭英和氏(立命館小学校教諭)による鼎談の第2回。前例主義に陥りやすい教育現場の中で、3人が乗り越えてきた壁とは。そして、周りを「巻き込む力」を、どのように身に付けたのか――などをテーマに語り合った。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)


自分のやりたいことを戦略的に考えていく

小木曽 実践を思いついても、実際に具現化していく上では、さまざまな壁があったのでは。

堀尾 公立校では、まずネット環境や設備面での壁があります。パソコンの数も圧倒的に足りません。

正頭 日本でWi-Fiが飛んでいない公共施設は、もはや公立学校だけじゃないでしょうか。私が通勤で使っている阪急電車でさえ、無料でWi-Fiが使えます。

幸い、私学は環境的に恵まれているので、私自身はその点で苦労したことがありません。逆に言えば、何でもできる環境にあるので、より教師のクリエーティビティーが求められます。

私自身が苦労したのも、どちらかといえばアイデアを生み出すという点です。アイデアは「何かしなくては」と思っている間は何も生まれないもので、「自分も楽しもう」と思った時から、自然と生み出せるようになってきました。

髙橋 米国で研究活動に従事し、日本に帰って来て私学の英語教諭として勤務することになった時点で、やりたいことはたくさんありました。しかし、自分がやりたいことをやるためには、まず自分の実力を証明し、周りから認めてもらわなければいけません。

第一に、私学では大学進学実績を出さないと誰も認めてくれません。ですから米国から帰国後の3年間は、とにかく進学実績を出すことに専念しました。

生徒にも「この先生の授業はすごく変わっているけど、必ず結果も出る」と言われることを目指し、誰が見ても明らかな進学実績を出せるように努力しました。そうして結果が出ると、何をやっても文句を言わなくなりました。

レゴブロックを使った実践については、コスト面での壁がありました。レゴを買いそろえる予算がなかったので、中1から高3までの全保護者宛てに「ご自宅でいらなくなったレゴをください」と手紙を書いて、レゴをかき集めました。

「これからの教員は、企画力やビジネスプランを考える能力が必要」と髙橋教頭

そうしてある程度レゴが集まった段階で、それを使った授業で実績を作り、さまざまな研究助成金に応募しました。そうして200~300万円ほど研究助成金が集まったら、レゴを買い足してさらに実績を重ねる。その後、さらに新たな研究助成金を得て、レゴを買う――といった形で、サイクルが回るようになってきたんです。

自分がやりたいことをするには、まず自分の実力を周りに認めてもらう必要があります。そのためには人の倍以上、勉強しなければいけません。また、「こんな授業がやりたい!」だけではなく、自分のやりたいことをどう発信し、どうすれば仲間を増やせるかという視点も重要です。そうして外部の人も巻き込みながらスケールアップしていく。これからの教員は、ただ教えるだけではなく、自分で企画書を書いたり、ビジネスプランを立てたりする力も必要だと思います。

従来型授業では英語が話せるようにならない

堀尾 私も髙橋先生と同じで、最初は「結果を出す」ことにこだわりました。ただ、私の場合は、進学実績や定期テストの点数ではなく、「生徒がついてきてくれるか否か」という視点で捉えていました。

スカイプを取り入れた活動を最初に行った学年は、高校3年生でした。全生徒が受験モードの中、「こんなことをしている場合じゃない」という空気はありましたが、実際にやってみると、全員が顔を上げて目を輝かせている。そんな生徒たちの表情を見て、私は間違っていないと思えました。

この活動を行ったことで、大学に受からなかったとか、テストの点数が下がったとかいったことがあれば、恐らく批判にさらされていたと思います。でも、そうはなりませんでした。

「生徒の表情が輝いていたからこそ、実践を続けてこられた」と堀尾教諭

それまでの授業でディベートやディスカッションをたくさんやってきて、生徒たちの多くは「自分たちは英語ができる」と思っていました。でも、実際にSkypeを使って海外の生徒と対話したことで、「いざ外国の子たちと英語で話すとなると固まってしまい、自分たちが思っているほどは英語ができない」ことがわかったと言います。

生徒たちは自分の英語力の現実を突きつけられましたし、私自身もこれまで何を教えてきたんだろうと考えさせられました。「これまで通りの授業では、英語でコミュニケーションを取ることができない」という事実に、生徒も教師も気付かされたわけです。

また、地方の公立高校は、保守的な教員も少なくありません。何か変わったことをしていると目立ちます。

ですから、こっそり夜にパソコン室に忍び込んで、電気も暗くしてパソコンだけつけて、それこそパーカーをかぶって光が漏れないようにし、インターネット、スカイプがつながるかの確認を一人で実験していました。

周りから「あいつ、また夜遅くまで何か怪しいことやってる」との声も聞こえてきましたが、耳にふたをして「気にするな、私!」と言い聞かせながら準備をしていました。

企業側のメリットも考える

小木曽 お三方に共通するのは、児童生徒や同僚教員、外部企業など、周りを「巻き込む力」を持っていることだと思います。皆さんと同じような実践を他の教員がする時、こうした力が鍵になってくると思うのですが、その力はどのように身に付けられたのでしょうか。

正頭 同僚に関して言えば、普段どれだけ「くだらない話」ができているかだと思います。今の学校で、私はかなり若手ということもあり、何か相談すると「また何かやろうとしてんのか。手伝ったるわ」と言ってもらえるような関係性があります。同僚にはとても恵まれていて、感謝しています。

正頭教諭は「企業を巻き込むためには、企業側のメリットを理解することが必要」と語る

企業の方を巻き込むには、「企業側のメリット」をきちんと考えることが大切だと思います。企業と連携する際、学校は自分たちの要望しか言わないことが多いのですが、企業といえどもボランティア精神だけで協力してもらえるとは限りません。

大切なのは、企業側のメリットを考え、企業側の要望もきちんと聞くことです。その上で、学校の要望を企業に伝える。その両者の折り合いをつける作業は、徹底してやりました。

大事なのは、学校のわがままだけではやらないということ。最終的に、企業側がメリットを享受できるところまで落とし込むことが重要です。

SNSで発信し、仲間を増やす

髙橋 学校で何かやりたいと思ったら、まずその学校の「財務省」が誰なのかを特定しなくてはいけません。とはいえ、実際に財務省を探し当ててみたら、実はお金がなかったなんてケースも少なくありません。そうした場合は、どうやって資金を集めるかがポイントとなってきます。

私の場合は、外部の研究助成金リストを作って、片っ端から応募していきました。そうやって自分で資金を調達すれば、誰も文句を言えないですからね。

正頭先生もおっしゃったように、企業と連携する場合、「無料でやってください」と学校が無謀な要求をするケースは珍しくありません。それでは、たとえスタートできたとしても、長続きしない。きちんと研究助成金を得て実績を残し、ある程度の形を整えてから企業に話を持っていけば、スムーズにつながると思います。

自分のプロジェクトにどのくらいの予算が必要なのかを正確に洗い出し、自分の持っているアセットも考えながらビジネスプランを立案し、周りも巻き込んでいくことが大切だと思います。

堀尾 私は公立校なので、お二人とは少し状況が違うのですが、地方の公立校はとにかくお金がありません。だから、誰でも、どこでもできる実践であることが必要となります。「そんな簡単なことでできるんだ」というアイデア、それが周りを巻き込む鍵の一つになると思います。

もう一つの鍵がSNSです。学校教育において、SNSは悪と捉えられがちです。確かにいじめなどにつながるケースがあるのも事実ですが、使い方によっては素晴らしいツールになります。

例えば、自分のやりたいことを発信するためのツールになります。発信を続けることで、そこから知り得なかった仲間が増えていくこともあります。

私はツイッターをやっていて、生徒も私のアカウントを知っています。ただ、生徒からメッセージを送られてきても、基本的に返信はしません。卒業したら返信すると伝えています。

でも、生徒たちは私のツイッターを見ることで、「こんな使い方をしているんだ」とか、「先生が言ったことがたくさん拡散されている」「先生が言ったことにすごい人が返信している」というように、SNSの良い面に気付きます。SNSの活用については、今後も大いなる可能性を感じています。


次回、鼎談の最終回では、「グローバル・ティーチャー賞」への参加を通じて世界の教育者から得たヒントと実践、おのおのが思い描く教育の未来などに迫る。