教員が考える働き方改革(上) 現場のことは現場で

中教審が答申「学校の働き方改革に関する総合的方策」を提出し、文科省が「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を示して約半年。各学校では勤務時間削減に向けた取り組みが進められているはずだが、弊紙電子版で6月24日から実施している読者投票(Edubate)では、「あなたは今年度に入り、教員の長時間勤務が改善している実感はありますか?」の問いに、ほぼ9割が「いいえ」と回答する(26日午後7時現在)など、「働き方改革は進んでいない」という声は多い。

学校の働き方改革を促進させる突破口はどこにあるのか。専門家や現場教員らの意見を聞いた。


答申「総合的方策」への批判

今年1月末まで中教審副会長を務め、「学校における働き方改革特別部会」の部会長でもあった放送大学の小川正人教授は「答申やガイドラインに対しては、教育関係者やマスコミなどからさまざまな批判がある」と明かす。

主な批判は「教員の大幅増員をなぜもっと強く押し出さないのか」「『ただ働き』を放置してきた給特法の抜本的見直しに踏み込んでいない」「ガイドラインに罰則付きの法的拘束力を持たせないと実効性がないのに、なぜそれをしないのか」――などだという。

こうした批判について小川教授は、「全て受け止めている」としながらも、「政治や財政上でのさまざまな強い制約があった。文科省の権限でできる方策は、全て盛り込まれていると言ってよい」と語る。

批判に応じられない背景

まず、「教員の大幅増員や定数の大幅改善」については、「国や地方自治体の財政が厳しく、少子化が進む中、政治と財務省は教員数を削減する方向でかじを切っている」と説明。「消費税増税分は幼児教育と高等教育の無償化に充てられる。これ以上を教育に割くことに強い抵抗を示しており、今後も大幅増員は見通せないだろう」と話す。

また、給特法の見直しについては、「私見を言えば、給特法を廃止すべきだと考えるが、部会長が持論を押しつけるわけにはいかない」とした上で、「超勤4項目以外に超勤命令ができる業務を増やし、教職調整額を増額するという案があったが、約1兆円の追加財源が必要だと分かり、断念した」と語る。

加えて、ガイドラインに罰則規定を設けることについては、「公務員には自然災害時の対応など、勤務時間の上限規定を超えて取り組まなければならない業務がある。教員の場合はさらに、子供の危機への対応などがあり、特例的扱いが認められている」とした上で、「上限時間の違反に罰則を科すことは、公務員を所管する総務省の権限になる。現時点では難しいだろう」と述べる。

ガイドラインの意義は

それでは、今回の答申やガイドラインは教員にとってどのような意義を持つのか。

小川教授は「まず、戦後の中教審答申の中で初めて、教員の長時間勤務を中心に働き方を真正面に据えて審議したことは、画期的だったと言える」と述べる。

その上で、ガイドラインの意義を「超勤4項目以外での時間外勤務を、『在校等時間』として時間管理の対象にした。これまで『教員の自発的行為』として隠されてきたものが明らかにされるようになった。現状は変わらないが、公的データとして残し、軽減に活用される」と強調。

「勤務時間の削減が進まない場合には、原因を明らかにし、改善方策を考えることを、自治体や教委、校長の行政上の責務とした。時間外勤務をただ働きとして放置させない制度だ」と述べ、「学校ごとの実態や条件に応じ、各学校で目標やスケジュール、段取りを検討し、それに沿って計画や取り組みを進めていくことが重要だ」と語った。

学校ならではの特徴も

安倍内閣産業競争力会議民間議員や文科省中教審委員を歴任し、多くの企業や学校の働き方改革に指導・助言してきた「ワーク・ライフバランス」の小室淑恵代表取締役は「教員に対し、コンサルタントや研究者らが業務改善について発案したり指示したりしても、ほとんど効果が上がらなかった」と話す。

「これまで成果を出したのはいずれも、教員が自発的に出した改善案だった」と述べ、加えて「ワークショップ形式を取り、若手が意見を出しても、ベテラン教員の鶴の一声で却下されることがある。まず付せんに書かせ、簡単に取り下げられないようにする工夫が必要だと感じた」と、学校ならではの難しさを語る。

推進のポイントは「思い込みをはずすことと、外部のサポーターに伴走してもらうこと」だと言う。

「『長年続いてきたことだから、やめられるわけがない』という声が多く、他の学校や自治体が進めている事例を示して、さまざまな可能性があることを理解してもらう必要がある」と語り、「日々、業務に追われて忙しいせいか、誰かが定期的にチェックしていないと取り組みをやめてしまう。助成金を研究者やコンサルタントに支払うなどして、伴走してもらう仕組みが必要だ」と指摘する。

経験を基に「取り組みは8カ月続ければ効果が出る」と話し、「一般に『ワークライフバランス』と言うが、本当は『ワークライフシナジー』。業務負担の軽減で生活が改善されれば仕事や研修に対する意欲が増すなど、仕事と生活は有機的につながっている。業務改善が子供に還元されることを実感できれば、働き方改革が進む」と語った。

現状はどうか

では、現場ではどのような動きが起きているのか。

「働き方改革」をテーマに意見を交わす教員

昨年度末、都内で開催された「エッセンシャル思考で見直す学校の働き方改革」と題する教員の会合で、進行役が「年間のどの時期が忙しいのか」と参加者に水を向けると、一人が「成績処理や部活動の大会の時期はものすごく忙しい。普段も忙しい。日々自転車操業で、予期せぬアクシデントが多発するなど休める時がない」と口を開いた。

「一人で抱える仕事が本当に多い」と続けると、全員が大きくうなずいた。有効な打開策を問われて「教員の増員」と即答したのは、多くの教員の声を代弁していると言えるだろう。

また、別の一人が「教員の働き方改革が叫ばれるようになって、早く帰る人は増えたが、仕事ができる人や断れない人の業務が増えるようになった」と発言すると、やはり全員が強く同意した。各学校がこのような状況があるならば、仕事にきちんと向き合う人を追い詰める、本末転倒の流れになってしまっていると言えよう。

進行役からは、「国や教委が主導する働き方改革は、現場の様子と乖離(かいり)している。それぞれが考え方を根本から変え、勤務校の課題を洗い出すほかない」という呼び掛けがあった。


教員の勤務状況は、どうしたら改善されるのか――。今回紹介した意見ではいずれも、「現場に求められる改革のことが分かるのは、現場の教員だ」という点で共通していた。(下)では、現場のアイデアによる改善が功を奏した各地の学校での事例を伝える。

(小松亜由子)

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