3人のグローバル・ティーチャーが語り合う(下)

教育界のノーベル賞といわれる「グローバル・ティーチャー賞」でファイナリストとなった髙橋一也氏(工学院大学附属中学校・高等学校 中学校教頭)、堀尾美央氏(滋賀県立米原高等学校教諭)、正頭英和氏(立命館小学校教諭)の3人。各国の受賞者たちが一堂に会する祭典「Global Education & Skills Forum」への参加を通じ、何を感じたか——。鼎談の最終回では、3人が世界の教育者から得たヒントや実践、各々が思い描く教育の未来などを語ってもらった。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)


世界の教育実践者は社会貢献を考えている

小木曽 「グローバル・ティーチャー賞」にノミネートされている教育者は、実践の内容はもちろん、問題意識や考え方も素晴らしい方々ばかりです。ドバイのフォーラムに参加してみて、皆さんが「素晴らしい」「面白い」と感じた教育実践があれば教えてください。

髙橋 私が印象的だったのは、とあるニューヨークの先生です。食育で学校を変えようとされていました。ニューヨークの子供たち、特に貧困層の子供たちは、コーラとポテト漬けになっているような状況なのですが、その学校では食べ物を校内で栽培する活動を通じ、子供たちが自分で育てたものを食べるようになりました。その結果、栄養状態も良くなり、勉強にも集中できるようになったそうです。

「グローバル・ティーチャー賞」の実践ではありませんが、ベネズエラには公的融資で子供たちに音楽教育プログラムを提供する「エル・システマ」という組織があります。ベネズエラは貧困層の割合が非常に高く、子供たちを取り巻く環境も劣悪です。そうした状況下でどうすれば良い教育ができるのか。考えた末、子供たちをオーケストラに入れ、無料で借りてきた楽器で音楽をやらせてみようとなったのです。

「エル・システマ」によってベネズエラの教育は少しずつ改善され、子供たちの非行も減っていきました。「エル・システマ」で育った子供たちからは、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者など、世界的に素晴らしい音楽家も生まれています。

このように、世界にはコミュニティーを巻き込む圧倒的な力を持った、スケールの大きい先生が数多くいます。何より、社会貢献を考えている実践者が多いですね。

教員にしか解決できないミッション

堀尾 私が感銘を受けたのは、オーストラリアのユーチューバー先生です。昨年の「グローバル・ティーチャー賞」でトップ10に選ばれたシドニーの公立高校の数学教員で、自分の全授業をYouTube上で公開しています。

公開しようと思ったきっかけは、何年か前に教えていた1人の生徒だったそうです。末期がんになり、余命いくばくもない状況で、勉強がとても好きでしたが、病院にいるためできません。この生徒にどうにかして授業を受けさせる方法はないかと考え、YouTube上に自分の授業を公開したのです。

授業内容が素晴らしかったこともあって動画はどんどん広まり、現在はYouTubeチャンネルの登録者数が30万人以上になっています。

でも、彼は本当にごく普通の先生でした。「こんなことになるとは思っていなかった」「本当にただ1人の生徒を助けたいと思っただけなんだ」と語っていました。

彼の実践は、これからの授業について考えるきっかけにもなりました。もう学校の授業を受けなくても、YouTubeなどで事足りるんじゃないか。彼と出会って以降、これからの学校の授業はどうあるべきなのかを問い続けながら、授業をしています。

正頭 私は今年のドバイのフォーラムで、優勝したケニアの数学・物理学教師ピーター・タビチ氏と意気投合しました。同い年ということもあり、期間中に多くのことを語り合いました。

彼は、給料の8割を自分の学校に寄付し、サイエンスクラブで生徒たちの才能を育てることに注力しました。特に女子生徒の活躍が目覚ましく、彼のサイエンス教育を受けた女子生徒がケニアの大きな科学賞で優勝するなど、結果を出している点も評価されていました。

もう一つ印象的だったのは、ブラジル・サンパウロの先生の実践です。サンパウロにはストリートチルドレンがたくさんいて、街にはごみがたくさん散らかっています。その先生は、ストリートチルドレンを集めてごみを拾い、それでロボットを作るプロジェクトを行っていました。この活動によって他の人たちもごみを集めるようになり、街が美しくなったそうです。

「その地域の問題は、その地域の先生しか解決できない」と正頭教諭

どちらの実践も素晴らしいと思いました。ただ、これら二つの実践は、日本でやろうと思ってもできません。ピーターの実践も貧しい国だからこそ求められ、できた実践であり、世界のどこでも誰でもできる実践ではないと思うんです。

ポイントになるのは、実践がどれだけ地域に根ざしているかどうか。私の実践も京都だからできた実践です。その地域で、その先生にしか解決できないミッションが、必ずあります。私は世界中に先生という存在がいるのには、そうした意味があると思っています。

堀尾先生もおっしゃっていたように、共通の知識・技能を教えるだけだったら、今やYouTubeで十分です。でも、その地域の問題は、その地域の先生にしか解決できません。そういった部分にフォーカスできる人が、これからの時代に求められるグローバル・ティーチャーなのだと思います。

「Think Globally, Act Locally」という言葉があります。世界各国の先生の実践から、「世界規模で考えて、地域でできることをやる」ことが重要だと教えてもらいました。

日本版「グローバル・ティーチャー賞」

小木曽 今後、取り組んでいきたいことを教えてください。

堀尾 教室でのスマートフォン活用です。特に公立校はなかなかICT環境が整わないので、スマホが活用できれば大きく変わるのではないかと考えています。

スマホを活用した授業を展開していきたいと語る堀尾教諭

ちなみに、本校でインターネットにつながっているパソコンは42~43台です。それを720人の生徒が、交代で使っているような状況があります。その上、インターネットの速度も遅い。そんな環境だからこそ、保護者の協力も得ながら、ほとんどの生徒が持っているスマホを活用できないかと思っています。

滋賀県米原市には英語のネーティブの方が、あまりいません。一方で、滋賀県内にはブラジル系移民の方が非常に多い。そうした家庭の子供たちの中には、学校の授業についていけず、疎外感を抱いている子も少なくありません。その子たちと多文化共生的に関わり、学校で安心して勉強できる環境を作る活動をしたいと考えています。

髙橋 私は今、管理職なので、ほとんど授業を持っていません。管理職の立場として特に力を入れて取り組んでいるのは、子供たちと教員たちの学習環境を整えることです。どうすれば子供や教員がもっと勉強・活動をしやすくなるかを常に考えています。

例えば、本校の中学校の廊下にはレゴや椅子があり、教室以外でも座って勉強できる環境が用意されています。また、廊下を全てホワイトボードにして、授業が終わった後に生徒が廊下で勉強したり、共同作業をしたりすることもできます。授業中のグループワークも、教室だけでなく、廊下でもできます。

管理職として学習環境デザインを整えているという髙橋教頭

このように、多くのお金をかけなくとも、ちょっとしたアイデアで学習環境を整えることは可能です。

また、いろんな先生をつなげること、企業などの外部とつなげることが私の役割です。今後はもっと学校と外部の壁をなくし、いろんな人が学校教育に関わってもらえるようにしたいですね。

先生たちの目をどんどん外に向かせて、どんどん共同作業をさせる。そうした活動がやりやすい環境をつくるのも、管理職としての役割だと思っています。

正頭 「日本の教育はこのままでは崩壊する」「世界と比較して日本の教育は劣っている」といったことが、随分前から言われています。確かにICTに関しては後れをとっていますが、それを除けば日本の教育は世界と比較しても優れていると私は実感しています。

今後のミッションの一つは、「グローバル・ティーチャー賞」の認知度を高めていくことです。また、私たち3人が中心となり、「日本版グローバル・ティーチャー賞」も設立します。教育者の価値を高める賞を日本でも作り、日本の先生方が世界に出ていく機会や、世界と比較する機会を持ってもらいたいと思っています。