教員が考える働き方改革(下) 成果を上げた先進事例

解消が急務とされながらも、「進んでいる」という実感が持てない教員の長時間労働――。学校の働き方改革は、現場教員が見いだした案でこそ効果が上がるという声も多い。現場のアイデアによる改善が功を奏した事例を伝える。


ジタハラまん延の危機

副校長や教頭、教委の上司らによる「早く帰って」という呼び掛けや、「午後7時までに全員退勤」などの取り決めが、教職員にプレッシャーやストレスを与えるケースがある。

業務量の削減や役割分担の見直しがなされておらず、すべき作業が山積している中で、気持ちよく帰宅することなど不可能な状況だからだ。結局、自宅に持ち帰ったり、翌日の早朝から出勤したりせざるを得なくなる。

弊紙特任解説委員の妹尾昌俊氏はこうした上司らの声掛けを「時短ハラスメント(ジタハラ)だ」と指摘し、「ジタハラのまん延は、いわゆる『働き方改革』と呼ばれるものが先行している企業や役所などで起きており、こうした失敗や反省が多く報告されている。学校は大丈夫だろうか」と警鐘を鳴らす。

学校の働き方改革にいち早く取り組んだ自治体では、どのような成果や課題が生じたか。ここでは2県1政令市を取り上げて見ていく。

残業削減の難しさ

横浜市は教員の長時間労働を解消すべく、2017年夏から本格的に取り組んできた自治体だ。人口約370万人と政令市の中で最も大きく、市立学校だけでも500校を超える同市では、各学校が足並みをそろえるのが難しいという課題がある。

市教委が進めてきた働き方改革の特徴は、「トップダウン」「ボトムアップ」という二つの視点から進めていること。改革の基本的な方向性はトップが示しながら、具体的な手段や方法はそれぞれの学校が適したやり方を考えるよう推奨。「働き方改革通信」を発行して教職員の意識啓発に努めてきた。「市立学校教職員の働き方改革プラン」で示した18年度の目標は、「月80時間超の時間外勤務」の教職員をゼロにすることだった。

しかし市教委の調査によれば、18年4月から19年3月までの平均値で、中学校で32.8%、小学校で8.1%の教職員が、月80時間を超える残業をしていた。もっとも少なかった特別支援学校でも1.2%だった。

さらに市教委定例会では、「仕事を持ち帰る教員も多いと聞く。実際の時間外勤務はもっと多いのでは」という指摘が教育委員から上がるなど、目標達成まではほど遠い状況が明らかとなった。

6月に開催された新任校長研修でも、参加した校長らが業務改善を巡る意見交換で「教員同士、仲が良いと思っていたが、意外と職場で助け合う様子が見られない」「休日出勤日数が多い教員と少ない教員で二極化するなど、仕事をする教員に負担が集中している」などと語り合った。

予算を投じ、あらゆる策を講じてもイメージしたようには進まない。こうした事例は全国で見られるのではないか。

現場の発案からスタート

一方、静岡県教委が16年度から進めてきた「未来の学校『夢』プロジェクト」では、「教職員全体で長時間勤務を削減することに成功した」と教員が成果報告。静岡大学教職大学院の武井敦史教授も、同プロジェクトの取り組みを「効果が高い」と語る。

とはいえ同県教委の担当者は当初難航したと言い、「学校関係者の自助努力を求めるにとどまり、抜本的な改善策につながっていなかった」と振り返る。「全校を対象としていた従来の手法を改めた」として、「モデル校4校を選定し、重点的に人的資源を投下して調査研究した上で、全校に反映させることにした」と語る。

勤務状況の改善に向け自由にアイデアを出し合う教員

特徴的なのは、モデル校同士の情報交換会を定期的に開催したこと。互いに効果的な取り組みを教え合ったり、「これは変えられない」という思い込みをなくしたりして、改革を進めた。多忙さなどで取り組みが停滞しないよう、「伴走役」として大学教員や企業コンサルタントらが進捗(しんちょく)状況をチェックしたという。

モデル校では、教員が自ら出したアイデアを基に、▽退勤時刻を決め、「カエルミュージック」を放送▽午後6時以降は留守番電話を設定し、残業している教員は業務に集中▽日曜日の部活動は禁止――などを徹底。

留守番電話については、保護者から「教員が楽をするためではないか」との声が上がったが、校長が説明会で「子供と向き合う時間と質を確保するための取り組みだ」と訴え、協力を要請。導入後の保護者の満足度は100%に上り、「親として、先生の勤務時間を意識しながら、決められた時間内に連絡をしようという気持ちが持てるようになった」などの感想が寄せられたという。

さらに県教委は、「先生たちが今、SOS!」と題した動画を企業と協賛して作成。映画館などで放映することで、保護者や地域に学校の働き方改革への理解を促した。

吉田町立住吉小学校の担当教員は「校務整理や人員配置をしても、教員の意識が変わらないと効果は発揮できない」と語る。同校で月の平均残業時間が1人当たり18.5時間減ったことなど、モデル校の取り組みに一定の効果が見られたことから、武井教授は研究成果を県内全ての小・中学校に広めていきたいとしている。

地域を現場に引き込む

岡山県もモデル校を選定している点で静岡県と同様だが、働き方改革のために各校で開いている「カエル会議」に地域住民を参加させることで、地域や保護者と現場が一体となって教員の勤務実態改善に努めたという特色がある。

県教育庁モデル校の一つである浅口市立鴨方東小学校では、「親子体験教室」「サマーキャンプ」「地区懇談会」「草取り集会」といった学校行事を削減。主体を学校外に移行させるなどした。

加えて、校内のワックス掛けや休み時間のパトロールも地域などに委ねたことで、17年6月には1人当たり159分だった1日の残業時間が、翌年の同月には113分にまで減った。

こうした取り組みは県内外から高く評価され、同校は教職員組織の部で17年度文科大臣優秀教職員表彰を受けた。地域との連携により教員に精神的余裕が生まれたことなどから、落ち着いた学習環境の確保と学力向上に一体となって取り組み、学習指導において特に顕著な成果を上げたとたたえられた。

同県のモデル校では他にも、▽職員室を「仕事」「休憩」「相談」の3ゾーンに区分▽生徒の委員会を統廃合▽成績処理の時間を勤務時間内に確保――などして、それぞれ成果を上げている。

(小松亜由子)