【木村泰子×中邑賢龍】学級に馴染めない子供たちをどう伸ばすか?(上)

「すべての子供の学習権を保障する」という理念の下、「みんながつくる みんなの学校」をつくりあげてきた木村泰子氏(大阪市立大空小学校初代校長)と、ユニークな能力のある子供の可能性を引き出す「異才発掘プロジェクト ROCKET」を率いる中邑賢龍氏(東京大学先端科学技術研究センター教授)の対談が実現。学びや人との関わりに何らかの困難を抱え、学級に馴染(なじ)めない子供たちに、それぞれのアプローチで実践を重ねてきた2人が、これから必要な学びについて語り合った。全3回。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)


「風呂敷のような学校」をつくる

小木曽 木村先生は初代校長を務めた大阪市立大空小学校で不登校ゼロ、障害の有無にかかわらず、すべての子供が同じ教室で学び合い、育ち合う、多様な空気を学校につくり続けてきました。

木村 大空小を退任して4年がたちます。パブリックの学校というのは、それぞれの地域にいるすべての宝である子供が、どれだけ個性が飛び出ていようが、どれだけ違う方向を向いていようが、自分らしく安心して過ごせて、自分の学びを獲得するところでなければいけません。それが当たり前のはずです。

でも、現実にはその「当たり前」を実現するのが難しい。どうしたらそれができるんだろうと、大空小では教職員、保護者、地域の方たちが一緒になって、試行錯誤しながらやってきました。

この日が初対面の2人。アプローチは違えど、考えは同じ

大空小では、障害のある子もない子も同じ教室で学んでいます。インクルーシブ教育の先進校のような言われ方をしますが、私自身はそういう表現には否定的です。

通常学級とか、特別支援学級とか、そういった「くくり」で子供を捉えているから、「大空小は珍しい」などと言われるのです。そもそも、地域のパブリックの学校に「通常」もなければ「特別」もないはずです。

これまでの学校は、スーツケースのような頑丈な箱に子供をどんどん詰め込んでいって「いい学校でしょう?」と言っていた。そんな間違っていた過去に気付き、大空小ではスーツケースを風呂敷に変えました。

風呂敷は、広げて足りなかったら何枚でも足せばいいし、中の子供は飛んでいきたければ飛んでいくし、戻って来たかったら戻って来られる。いつも見えているし、こぼれ落ちれば誰かが拾ってくれる。そんな風呂敷のような学校をつくろうと思ってやってきました。

大空小での9年間は、いつになったら落ち着くんだろう、いつになったら「これでいい」と思えるのだろうという毎日でした。結局、最後までゴールなんてありませんでしたし、「これでいい」と思えた日は1日もありませんでした。それが「みんなの学校」です。

規則があり過ぎる

小木曽 中邑先生は5年前から学校教育に馴染めないユニークな子供たちのために、新しい学びの場として「異才発掘プロジェクト ROCKET」を実施されてきました。

中邑 ユニークさゆえに学校に馴染めない子供たちが、自分らしさを発揮できる場としてROCKETは活動してきました。

今は子供たちが受験勉強から抜け出せない時代だと感じています。5教科の勉強に遅れたら「人生終わり」のように思っている子供がたくさんいる。

特に「読み・書き・計算」に困難のある子供たちは、学習に遅れがちです。パソコンや電卓を使えば解決できるのに、「それはダメ」と認めてもらえない。そうした制約がある中で、置いていかれてしまう子供たちがたくさんいます。

その上、学校や学級のほとんどが「みんな仲良く、元気よく」をスローガンに掲げています。私はそこに違和感を覚えます。明るくできない子供、仲良くできない子供はどうしたらいいのでしょうか。

興味・関心が偏っている子もはじかれています。例えばROCKETには、キノコが大好きで自ら山へ行ってトリュフを採ってくる子がいますが、その子は友達がいないと言います。そういう子が学校にいると浮いてしまうわけです。

現代は「ルール重視」の時代です。じっとしていない子はダメな子とされてしまう。学校には「こうあらねばならない」というルールがあり過ぎると思います。

子供はみんな同じ能力を持っていて、同じように伸びていく――そんな等質性を前提にした教育がなされているのですが、子供にはみんな凸凹があり、スタートラインは違います。加えて、競い合うのは5教科だけじゃない。社会にはいろんなトラックがあるわけで、そこで一人一人の子供たちが存在感を発揮し、認め合っていく場所をつくるべきです。そんな思いで、ROCKETを立ち上げました。

現状の学校が、すべての子供を吸収していくのは、現実的に無理だと思います。インクルーシブ教育が叫ばれ、通常学級の先生がすべての子供を見るように要求されていますが、中にはそれをしんどく感じる子もいるわけです。そういう子供たちが、自ら学べる場所をつくることが必要ではないかと思います。

こうした考えは、決して現状の学校教育システムと矛盾するものではありません。むしろ両輪であるべきだと考えています。

「知識」だけで「知恵」になっていない

小木曽 ROCKETでは具体的に、どのようなプログラムを行っているのですか。

中邑 実施しているのは、主に三つのプログラムです。実はこれらのプログラムは、昔は当たり前のように地域と学校の中で行われていたことです。

「異才発掘プロジェクト ROCKET」の取り組みについて話す中邑氏

例えば、「Submarineプログラム」では、子供たちがとにかく好きなことをやり尽くします。トリュフ好き、カブトムシ好きなど、マニアックな嗜好(しこう)の子供を集めて、それをさらに応援するプログラムです。

「Balloonプログラム」は、子供が知識を統合していくようなプログラムです。今の子供たちはいろんな知識は持っているけれど、それが知恵になっていません。昔はお手伝いをしたり、地域の活動をしたりする中で、学校で学んだ知識が実生活の知恵に自然と統合する機会がありました。しかし、塾ばかり行っている現代の子供たちには、そうした機会がほとんどありません。今はAI時代につぶされる子供をつくる教育に寄ってしまっていると思います。

「ROCKETプログラム」では、子供たちが「飛び出していく力」を身に付けます。子供たちはすぐ「これは何のためになるの?」「何に役立つの?」と聞きます。つまり、今の教育は目的重視になり過ぎている。一方、このプログラムでは、各分野のトップランナーの話を聞かせ、その本気度やすごさを見せつけます。すると子供たちは「すごい大人がいる!」「大人ってかっこいい!」と感じます。取り組みを通じて「君たちの知識は頭の中にあるだけで、たいしたものじゃないぞ」と示す。これが私の考えている「挑発教育」です。

木村 現場の先生たちは、ROCKETの取り組みを聞いてどう感じるでしょうか。

このプログラムの目的は「毎日の授業の中で、教員以外の人間と子供を出会わせる」ことだと私は思います。教員だけでつくっていた画一的な空気を、多様な空気に変えることです。

公立学校の場合、予算が限られていますので、トップランナーにはなかなか来てもらえません。でも、教員以外の大人に授業をしてもらうことはできます。大空小では地域の人や外部の人に「こんなことやりたい」という企画を持ち込んでもらい、45分の講座を開いてもらう「オープン講座」を学期に1回実施しています。

毎回、10以上の講座が開かれ、例えば「地域のおっちゃん」が座布団を指一本で回す方法を教えるとか、消費者金融の会社の方がお金について子供たちに教えたいというのもありました。次から次へと、いろんな方が企画を持ってきてくれます。

どんな講座内容でも、どんな講師でも、大空小は来る者を拒みません。一方で、子供たちに第1希望から第3希望まで行きたい講座を書かせるため、誰も希望者がいなかった講座は開催されません。あくまで、子供に選ぶ権利があるわけです。

こんな取り組みはどの学校でもすぐにできますし、毎学期続けていれば、子供たちは自然と多様な空気を吸うことになります。

教科書なし、時間制限なしの学び

中邑 ROCKETでは、例えば生きたイカをポンと出して「さあ食べなさい」といった活動もやります。「教科書なし」「時間制限なし」というのが、モットーの一つです。そうして制約をなくすと、子供からはいろいろなアイデアが出てきます。昼食も12時に食べなくていいとなれば、子供たちは平気で4~5時間かけて料理を作ります。

他にも、炭焼き窯を再生して炭を作る活動もやっています。子供たちは、炭焼きの達人に教わりながら3年がかりで炭を作っていますが、いまだにできていません。こういういつ終わるか分からない、気の長いプロジェクトをやっています。

根室に行って、漁師さんの昆布漁を手伝いましたが、来る日も来る日も霧が出て、4日のうち1日しか漁に出られませんでした。子供たちは、何もしないでとにかく待つこと、無駄な時間を過ごすことの意味を学びました。

今の学校教育では、100を教えている。「ここまで」を教えている。こんな教育をしていてイノベーションが起きるわけがありません。

その道のプロと関わることで、子供たちは「ここまで」なんて関係なく、もっと上を目指している人間がいることに気付きます。いくらやっても上限がないんだということに、子供たちが気付く。そんな教育が必要ではないかと思うのです。

木村 素晴らしい活動ですよね。中邑先生のやっていることを「うちの学校ではできない」と思ったら、もったいない。実践されているプログラムの素地(そじ)は、パブリックの学校でも実践可能です。特急列車には乗れないけれど、トロッコ列車ぐらいには乗れます。

「地域のパブリックの学校で何ができるかを考えていくべき」と木村氏

トップランナーの講義は、例えばROCKETみたいな外部組織と連携し、つないでもらっても構いません。でもその素地として、地域のパブリックの学校で何ができるかを考えていくべきです。

大空小では「ふれあい科」という独自の教科を作りました。その目的は、人と「出会う」「関わる」「触れ合う」ことです。この教科は、先ほど中邑先生がおっしゃったように、「教科書なし」「時間制限なし」です。先述した「オープン講座」も「ふれあい科」の活動です。

教育課程上は、総合的な学習の時間などを使いました。そうすれば、パブリックの学校でも実施できます。

子供は、教員以外のいろいろな大人と触れ合う分だけ、生き方の選択肢が増えます。この選択肢が増えれば増えるほどいいと考えています。

(企画・構成 松井聡美)


【プロフィール】

木村 泰子(きむら・やすこ) 大きな反響を呼んだドキュメンタリー映画『みんなの学校』で知られる、大阪市立大空小学校の初代校長。同校では「すべての子供の学習権を保障する」という理念の下、教職員や地域の人たちと共に、障害の有無にかかわらず、すべての子供がいつも一緒に学んでいる。退職後は、全国で講演活動などを行う。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」をつくるために』(ともに小学館)など。

中邑 賢龍(なかむら・けんりゅう) 東京大学先端科学技術研究センター教授。日米英の大学で研究を続け、2005年に東京大学先端科学技術研究センター特任教授、08年から教授。専門は人間支援工学。14年から日本財団と共同で、ユニークな能力のある子供たちに学びの場を提供し、イノベーションを起こせる人材を養成する「異才発掘プロジェクト ROCKET」を実施。世界で活躍するトップランナーの講義や、鈍行列車で日本を横断する「最果ての旅」など、独自のプログラムを月1回程度開いている。著書に『タブレットPC・スマホ時代の子どもの教育』(明治図書出版)、『育てにくい子は、挑発して伸ばす』(文藝春秋)など。

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