公立校と私学 職場としての違いは(上)待遇・環境の比較

「公立と私立、教員が働きやすいのはどっち?」――。弊紙電子版の読者投票(Edubate)で6月17日からこう問い掛けたところ、1万2000人を超える読者の閲覧があった(7月12日午後7時現在)。

6~7月といえば、教員志望者が各自治体の採用試験に向けて、追い込みをかける時期。また、新年度に入って3カ月近くがたち、職場環境の見定めが進む時期でもある。そんな時期だけに、「公立と私立、どちらが恵まれているのだろう……」などと、自問する人もいたかもしれない。

読者投票の結果を見ると、「私立」と回答した人が40%、「公立」と回答した人が30%、「どちらも働きにくい」が24%、「どちらも働きやすい」が6%となっており、さまざまな見解があることが分かった。

この結果を受け、主に教員志望者や若手教員に向け、職場として見た公立学校と私立学校の違いについて、データやさまざまな証言から2回に分けて考察したい。


公立・私立それぞれの特色は

複数の私立中学・高校の立て直しに成功し、「学校再建・飛躍のプロ」と言われる東京都市大学付属中学校・高等学校の長野雅弘校長は、公立学校の教員を経て私立学校の校長に就任した経歴を持つ。公立と私立の違いを最も強く感じるのは「校長として教育方針を強く打ち出せるかどうかを考えたときだ」と語る。公立では教育方針を明確に打ち出すことが難しいという。

公立学校の教員の場合、勤務校の「教育方針」や「校訓」を聞かれても、すぐに答えられないケースは珍しくない。高校の教員の中には、就職試験などの面接を控えた生徒から「通っている高校の特徴を聞かれたら、何と答えればいいですか?」と尋ねられ、答えに窮した経験のある人もいるのではないだろうか。

公立の場合、「育成を目指す児童・生徒像」が設置者である教委によって定められている。そのため、教育方針や校訓が学校ごとに大きく異なることはほとんどない。多少の違いはあったとしても、教員の多くは5~6年で異動するため、学校の教育目標などを私立の教員ほど強く意識することはない。

一方の私立は、公立とは異なり、独自の教育方針を強く打ち出している。そのため、志望者は学校の特色に自身の教育観が合っているかどうかを事前に見極めておくことが重要になる。教育ジャーナリストの佐藤明彦氏もまた、専任教諭として私立を志願するときの留意点に「教育方針・校風などを踏まえ、慎重に選ぶこと」を挙げ、「私立学校には『堅実』『活発』『厳格』『リベラル』などさまざまなカラーがあり、水が合わなければ長く勤めることはできない」と指摘する。

公立学校教員の職業的特性

公立学校の教員は地方公務員だ。身分的に安定しており、福利厚生面でも産休・育休や病休、看護・介護休暇の取得などが基本的に保障されている。景気や経営状態によるリストラの心配がなく、よほどのことがなければ定年まで働き続けることができる。

一方で地方公務員である以上、「全体の奉仕者」としてさまざまな義務や責務も負う。例えば、自然災害が起きた際などには行政職員としての役割を果たすことになる。実際に2011年3月の東日本大震災では、発生直後から被災地の学校が避難所となり、市職員が日替わりでしか訪問できない中、公立学校の教職員が避難所運営の主体となったケースもあった。

沖縄県の離島にある、全校児童・生徒が10人ほどの小中一貫校

津波による被害が大きかった地域の一つ、宮城県石巻市にある市立石巻中学校を例に挙げると、同校の教員が自身の家族が被災しているにもかかわらず、発生直後から生徒全員の安否確認に奔走した。1200人以上の住民が学校に身を寄せる中、校長は「教員という立場を超え、求められていることをやり遂げるのが公務員としての使命だ」と教員に通達した。

避難所では教員が手分けをして、▽避難者の名簿作成▽支援物資の受取・管理▽校舎の掃除・消毒・修繕、排泄物(はいせつぶつ)の処理▽救護所との連絡や急病人対応▽不審者対応や夜間警備▽安否確認電話への対応――など、膨大な業務を担った。中には不衛生なトイレの掃除で感染性腸炎を発病したり、夜間警備による疲労の蓄積で体調を崩したりする教員もいた。避難者の苦情に悩まされたり、酒に酔った避難者にからまれたりするなど過酷な日々が続き、本来の学校業務に専念できるようになったのは5月に入ってからだったという。

また、公立学校の教員は、公務員であるがゆえ、服務違反の面では世間から厳しい目にさらされている。無断欠勤や公金横領が許されないのは言うまでもないが、処分事例の中には「年次有給休暇(年休)を取得し、ランチでワインを飲んでいたら一般市民から問い合わせがあり、年休中の飲酒が処分対象になった」「部活動で生徒が使うスポーツ用品を発注した。たまたま自前のホイッスルが破損しているのを見た納入業者が、『型落ち品だから』と一つ置いていったことを指摘された」など、ベテランでも判断に迷うようなものもある。

私立学校教員の職業的特性

私立学校の教員の場合、学校によっては保護者からお中元やお歳暮を受け取れたり、大学や予備校、修学旅行の代理店などからサービスを受けられたりするケースもある。敷地内では原則禁止とされている喫煙が、喫煙所の設置で許されている場合もある。

また、公立では定期的に行われる異動が基本的にないため、自らの経験を生かした授業を継続でき、一つの研究実践にも長期にわたって取り組むことができる。公立の教員のように勤務地が大きく変わり、千人規模の学校から離島の小規模校に移るなどして、学び直しを余儀なくされることもない。

ただし、私立であっても同じ学校法人の他校や、まれなケースでは系列大学の個別相談担当へ異動することがある。それでも公立と比べれば異動の可能性はずっと低い。一方で異動がないことから、人間関係の構築に気を配らなければならない側面もある。先輩・同僚教員、管理職との関係に悩み、退職を余儀なくされる可能性もないわけではない。

公立と私立、給与の差は?
公立学校・私立学校の学校種別教員給与(2016年度学校教員統計調査より作成)

データを見ると、公立と私立の教員間の年収に大きな差はない。高校を例にとると、2016年度学校教員統計調査では公立学校教員の平均月給が36万3500円、私立学校教員が36万1400円と、ほとんど差はなかった。

高校教員全体の年収は、17年度厚労省調査によれば、20~60歳代の全年代平均で約660万円。全ての職業の平均年収が約440万円と言われる中、平均的な社会人より高給と言える。

高校教員の初任給が大卒平均額とほとんど変わらないため、学生からは「給与が低い職業」との印象を持たれがちだが、30代になれば平均を上回るようになる。30代の大卒平均年収が約400万円とされる中、30代前半の高校教員は約500万円で、30代後半ごろからは600万円台に到達する人が多い。教頭や副校長、校長になれば年収は1000万円に達する。

定年まで勤め上げた場合の退職金も、公立・私立間の大きな差はなく、平均約2200万円で、大卒平均額約1900万円を300万円ほど上回っている。

基本給では公立・私立の教員間に大きな差はないが、支給される手当については私立の方が公立よりも優遇されているケースもある。

その代表が超過勤務手当だ。公立では、週休日に部活動指導を半日やっても、支給される特殊勤務手当は3~4000円程度にすぎない。そもそも、残業手当は存在せず、文科省が新たに示した「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」においても、この問題は先送りされた。

それに対し、勤務先の学校と直接の雇用関係にある私立の教員は、法令順守の側面から残業手当や休日出勤手当が支給されるケースも少なくない。その他、独自に「進学指導手当」「募集対策手当」などを設けて教員の意欲を高めるようとしている学校もある。

もちろん、私立の場合は入学者数の減少などで経営状況が悪化すれば、賞与が大幅にカットされるケースもあり、一概にどちらが恵まれているとは言えない。

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(下)では、公立学校と私立学校の両方を経験した教員や、教員の労働環境に詳しい有識者へのインタビューを基に、両者の違いを考察する。

(小松亜由子)