【木村泰子×中邑賢龍】学級に馴染めない子供たちをどう伸ばすか?(中)

学びや人との関わりに何らかの困難を抱え、学級に馴染(なじ)めない子供たちに、それぞれのアプローチで実践を重ねてきた木村泰子氏(大阪市立大空小学校初代校長)と中邑賢龍氏(東京大学先端科学技術研究センター教授)。子供たちをどのようにサポートし、自分らしさを発揮できる環境をつくっていくかについて語ってもらった。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)


テクノロジーで解決できるものは解決

小木曽 字が書けないなどの障害がある子供たちに対して、最近はテクノロジーを活用するケースも出てきています。

中邑 専門的な立場からお話しすると、字を書けない障害がある場合、書く練習をしても書けるようになることはほとんどありません。だから、書く練習をするより、ワープロを使った方がいい。テクノロジーなどを活用して解決できるものは解決して、物事の本質に向かうべきです。

電卓やタブレットは、今は安く手に入ります。それなのに入り口のところで足踏みばかりさせている。そういう教育はもうやめましょう。

皆さんは家族の携帯番号を覚えていますか。おそらく、ほとんど覚えていないと思います。つまり、私たちの脳は、記憶を外在化しているのです。日々の仕事にしても、スマホやタブレット、パソコンで調べられることを前提に進めています。それだけ知識は増えていて、昔みたいに覚えて済む時代ではないのです。

そんな時代に、昔の能力観・学力観をものさしにするのは無理があります。私は大学入試もスマホの持ち込みを可にしていいと思っています。子供たちがスマホなどのツールを使いこなしながら学んでいく体制を早急につくるべきです。

2人の熱のこもった話に参加者は耳を傾けた

こうした考え方が一番進んでいるのは、眼科です。眼科でいう「視力」とは矯正視力であって、裸眼視力は問題にしていません。一方、教育機関で扱うIQは裸のIQです。人間の能力は生まれたときは同じで、努力によって差異が出るものと思われていますが、こと認知能力に関しては生まれたときから凸凹なのです。

「聞く」「話す」という言語能力は生得的で、例えばフランスに生まれたら、仏語を話せるようになります。一方で、「読み・書き・計算」の能力は生得的ではなく、後天的に獲得していきます。

そのため、認知能力の一部が劣っていると、読み・書き・計算の能力には遅れが生じます。だから認知能力は凸凹だという前提条件を認め、テクノロジーでフラットにしながら学んでいく必要があると思うのです。

通信制導入の前にすべきこと

小木曽 ここ最近、不登校対策などとして義務教育に遠隔教育を取り入れてもいいのではないかと言われています。教育新聞電子版で6月6日から実施した「Edubate」の読者投票では、「あなたは、小中学校への通信制導入に賛成ですか? 反対ですか?」の問いに賛成が64%、反対が36%という結果でした。こうした動向についてどう思われますか?

木村 パブリックの学校は税金で賄われている、地域全ての人たちの学校です。そのため、本来であればどんな個性の子供でも、その子がその子らしく、やりたいことを学べる場所でなければいけません。

学校に行くのがつらくて苦しい子供に、無理をしてでも「学校に行け」とは思いません。学校に行けない自分は何も悪くない。悪いのは学校の空気です。

私は、本来のあるべきパブリックの学校をつくろうともしないで、通信制を導入するのは間違っていると思います。

現在のように「パブリックの学校に居場所がないから、通信制を選ぶ」というような状態ではいけない。パブリックの学校は、いわば土俵です。「パブリックの学校にも行ける」ことが前提にあった上で、「僕はROCKETに行きたい」「私は通信制で学びたい」ということでなければいけないと思います。

「子供が知識をリアルなものにするためのフィールドが必要」と中邑氏

中邑 木村先生のおっしゃる通りだと思います。いろんな子供に対応する教育が求められていますが、究極のユニバーサルデザインは多様性です。いろんなチョイスがあるべきですが、今はそれがなさすぎます。

また、これからのAI時代に、「教える」ということにどんな意味があるのかも考えるべきです。

例えば、今の子供たちはICTを活用して学んだ方が、知識の習得に関しては早いでしょう。だけど、そこで得た知識をリアルなものにするためには、実生活と結び付けていくプロセスが必要です。そのためには、どこかにフィールドがないと難しい。その意味で「リアルな学校」はどこかに必要だろうと思います。

通信制の導入より、子供が知識をリアルなものにしたり、仲間と集えたりするような場所を整備していく方が先決だと思います。

大人が対応してしまっている

小木曽 子供が自分らしさを発揮できる環境は、どのようにつくっていけばいいのでしょうか。

中邑 例えば、地域おこしと一緒に進めるなど、各自治体に特色のあるプログラムを作っていく。それと同時に、地域の大人というリソースがたくさんあるので、そうした人たちとつながっていくことが一つのやり方だと思います。

これからのAI時代、ロボット時代に必要な要素として、私は二つのDと二つのRを挙げています。

Dの一つ目は「Diversity(多様性)」です。今の学校は「いろんな人を理解しよう」と言うのに、多様性を認める空気感が全くない。なぜかといえば、そこから外れた人を排除する仕組みになっているからです。特別支援教育にせよ、不登校にせよ、一定の基準から外れると追い出してしまう。まさに「Diversity」を失ってしまっている状態です。

Rの一つ目は「Reality」です。今どきの子供たちは家で手伝いをしていません。私はよくROCKETに参加している子供たちに、「自分でパンツを洗っているか?」と聞きます。大概は「お母さんが洗っている」と答えます。例えば政治家になりたいならば、洗剤の値段がいくらか知っていないといけません。洗剤の値段が2割上がることを「自分とは無関係」と思うようでは、有権者に支持されません。パンツを毎日洗って、洗剤を自分で買いに行っていないと分からないことがある。それがRealityです。

Dの二つ目は「Development」、深掘りです。一つのことを突き詰める。これを許容することが、もっと必要です。

最後にRの二つ目、一番欠けているのが「Resilience」、環境が変化したときに対応する能力です。ユニバーサルデザインやバリアフリーなどが進み、今の世の中は何も変化が起きないようになっています。困ることがあっても、困る前に大人が対応する社会になってしまっているのです。

例えば特別支援学校の校舎は、子供が困らないように造られています。廊下も広く造られているから、車いすの子供がぼーっと運転してもぶつかりません。子供が来たら、先生はすぐに道を空けます。それを「配慮だ」と言いますが、違うと思います。配慮しちゃいけないんです。「すみません、道を空けてください」と子供が一言発する機会さえ、奪われてしまっているんです。

私たちはこうした現状を理解し、問い直していくべきではないでしょうか。

今のままでは学校に多様性が生まれない

木村 例えば、「私は椅子に座れるのに、この子は床に座らないと話が聞けないんだな」とか、「この子は急に暴れて机を倒すな。もしかしたらこれが嫌なのかな」とか、小学校1年生からそういう友達が自分のそばにいつも一緒にいることが当たり前で、子供たちが育つ環境ができたらいいと思いませんか。

給食の牛乳瓶を言われた通りに入れられるとか、廊下の右側を歩くとか、それを守ったからといって、その子たちは10年後の多様な社会で自分らしく生きていけるのでしょうか。

椅子に座っていられない子に「なんで座っていられないの!」、暴れている子に「みんなに迷惑でしょ!」と声を掛ける。そんな先生の声掛けで、周りの子供たちが多様性を獲得するチャンスを逃しています。

「障害があるから向こうの部屋で勉強している」という状況に、違和感を抱かない子供を育ててはいけないのではないでしょうか。

木村氏は「普通というくくり、これこそがこれまでの学校教育のあしき文化」と語る

今、学校現場には医学モデルばかりが入ってきています。でも、本当に必要なのは社会モデルです。この子にとって、それが未来に必要なことなのかどうかを基準に考える。今困るからではなく、未来に必要かどうかです。

現状に困っているのは誰なのでしょうか。実は、授業が進まないから、先生が困っているだけなのではないでしょうか。その部分をごまかして「この子のため」と言い、障害があることを理由に子供同士の関係性を分断している。そんな現実がある限り、学校に多様性の空気は生まれないと思います。

「変わっている」と見られるのは、「普通」というものがあるからです。「普通」というくくり、これこそがこれまでの学校教育のあしき文化です。

それをみんなで変えていきましょう。どこにも正解はないのですから、常に問い直し続けなくてはいけません。1人でできないなら、少しずつみんなで話し合って仲間を増やしていけばいいんです。そうしていけば、その学校で安心できる子供が増えていきます。まずはそのベースをつくることだと思います。

(企画・構成 松井聡美)

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