公立校と私学 職場としての違いは(下) 教員や関係者の声

教員が働きやすいのはどちらか――。公立学校と私立学校の違いを、さまざまな側面から考察。両方を経験した教員の声から、それぞれが抱える雇用面や労働面の課題を浮き彫りにする。


公立から私立へ――保護者への悩み

「私立へ移ろうと決めたのは、公立で体を壊したから。精神的にも追い込まれていた」――。そう語るのは、関東の町立小学校に約10年間勤務した後、フレネ教育をベースとする私立小学校に転職したA教諭(女性)だ。

A教諭が精神的に追い込まれた要因は、大きく二つある。一つは保護者対応。「虐待されているのでは」と思われる子供や貧困家庭の子供、外国にルーツを持つ子供、発達障害が考えられるのにネグレクト状態にある子供など、一つの学級にさまざまな課題を抱えた児童がいて、その保護者への対応に日々苦しんでいたと当時を振り返る。

「虐待が疑われた子供の体には、大人の手で強くつかまれた跡や、蹴られたような跡があった。下校するときにはなかった跡が、翌朝の登校時についていたので、保護者に問いただすと『学校のせいだ。教師にやられた』とまくしたてられた。子供は親をかばおうとして、『転んだ』『ボールが当たった』と言いつくろった」と当時の状況を説明する。

さらに追及すると、保護者は校長や町教委に苦情を入れ、A教諭に対しても目の前で壁をたたいたり、肩をつかんだりして威かく行為をしてきたという。

児童相談所にも相談したが、多忙を理由になかなか応じてもらえず、ようやく対応してくれたのは経験も知識もない若い職員で、「どうしたらいいですかね」と何度も尋ねられた。

「保護者からの苦情のせいで校長からは煙たがられ、若手ばかりの職員室では他に頼れる教員もなかった。もう限界だと感じた」とA教諭は力なく語る。

その他にも、必要な学用品があっても「家が貧乏だから」と持って来られない家庭への連絡、小さなすり傷でも「いじめか体罰か」と連日電話してくる保護者への対応などで、A教諭は日々疲弊していったと振り返る。

「地域との連携」への疑問

A教諭が公立小学校を辞めたもう一つの理由は、地域との連携が伝統的に当然とされている学校で、休日がつぶされたことだ。

校区のある地域には、地域ふれあい音楽祭や親子体験教室、子育てセミナー、草取りなどの定例行事のほか、こいのぼり祭やサマーキャンプなどの季節行事もあった。育児や介護を抱えた教員がいる中、「私のように独身で親も元気な教員が、そうした行事への参加を押し付けられた」と悔しさをにじませる。

「教員に負担を強いてまで地域連携をするべきなのか。地域が主体なら許されるようなミスや不手際も、学校が主体だと厳しく責め立てられる。それなのに手当も付かず、代休も取れず、完全なボランティア。一方で育児を理由に参加しない女性教員は、子供を親に預けて夫婦で旅行へ行き、それを自慢げに話していた」と、当時の理不尽な状況を語る。

その後、A教諭は公立を辞めると決心し、私立小学校の求人を見つけて応募。現在の勤務校に採用された。それ以降は順調で「現在の勤務校は教育方針に特色があり、保護者もその点を理解した上で入学させる。そのため、最初からある程度の信頼関係がある。子供の自発性や個人差を尊重しているところも、自分に合っている」と話す。

A教諭が公立を辞めると自身の母親に打ち明けたとき「せっかく安定した公務員で、退職金や年金に恵まれているのに」「次に勤務する学校が良い学校とは限らない」と止められ、不安もあったという。幸い現在の勤務校は保護者に関わる悩みが少なく、地域貢献に振り回されないため、自主研修する時間にも恵まれているという。

「何よりも、目の前の子供に対して精いっぱいのことができるようになったのがうれしい」と笑顔で語った。

私立から公立へ――募集対策の負担

「在籍中は『口を開けて待っていても生徒が入ってくる公立とは違う』と言われ続けた」――そう語るのは、4年間勤めた関東の私立高校を辞め、公立高校に転職したB教諭(男性)だ。

授業態度が悪い生徒に悩まされ、部活動でも多忙な毎日が続く中、何かにつけて「募集対策だ」と言われ、学校説明会や塾への営業活動に駆り出された。「『公立と差をつける』という理由で、土曜日の午前にも授業があり、休日は日曜日だけ。なのに、それが生徒募集のためにつぶされた。平日は授業が詰まっていて、代休など取れなかった」と当時を振り返る。

当時の勤務校は、慢性的に人手不足だったという。その理由についてB教諭は「保護者は高い授業料や施設使用料、寄付金を払っているから、それに見合った成果を期待している。学校はそれに応えようと、多様な部活動やきめ細やかな学習指導を提供しており、そのしわ寄せが教員に来ていた」と話す。

募集対策の中心になっていた教諭が30連勤し、学校で倒れるという事態も発生した。教職員の組合はあったが、実質的な活動はさせてもらえず、パワハラやマタハラなども少なからずあった。しかし、訴え出る窓口がなく、多くの教員が泣き寝入りしていたという。

学校行事や部活動では生徒の生命に関わる事故も起きていたが、公立と違って教委による監督や指導がないため、その学校は「やりたい放題だった」と憤る。

同族経営で「将来性がない」

その私立高校はいわゆる「同族経営」で、理事長や校長、事務室長などほとんどの要職がその一族で占められていた。そのため、いくら頑張っても出世には限界があった。そんな現実が3年目くらいから精神的負担になったとB教諭は振り返る。

一方、公立学校教員には管理職への昇任だけでなく、教委の指導主事や教育長、文科省の教科調査官など、さまざまな道が開かれている。そうした事実を知ったことも、私立から公立へと転身した理由の一つだという。

現状については「年休や代休も取れるし、産休や育休、病休に入る教員がいても、代替教員が入るのでさほど影響はない。教委が主催する研修や他校の教員との勉強会に参加することも奨励されており、毎日が充実している。私立で抱えていたストレスはなくなった」と話す。

先述したA教諭の話を踏まえ、「何かしらの理由をつけて、仕事をサボろうとする教員がいるのでは」と水を向けると、B教諭は次のように語った。

「確かに、身分が保障されていることを盾に、業務を平気で他の教員に押し付けてくる人がいるのには驚いた。でも、そういう教員は他の教員だけでなく生徒からも信頼されていない。『楽そうでうらやましい』とは思うが、そうなりたくはない」

私立での「雇い止め」

B教諭が指摘するように、公立学校教員の身分は保障されている。一方で、私立学校教員は雇い止めなどの問題に苦しむケースがある。

私立学校による雇い止めの撤回を求めて訴訟を起こした2人

今年5月、私立高校で有期の専任教諭として勤務していた2人の男性が、学校側に不当な雇い止めをされたとして、撤回を求めて訴訟を起こした。

訴状によると、募集要項には「3年間は1年ごとの有期専任契約とするが、2年目に専任採用の判断をし、4年目からは専任教諭として採用される道が開かれている」との記載があり、2人は正規雇用されると期待して働いていた。しかし、1人は3年目、1人は2年目を終えた今年3月末に、一方的に雇い止めをされた。

2人は雇い止めの理由を何度も学校側に求めたが、校長は「総合的に判断した結果」と言うだけで、具体的な説明はなかったという。2人の雇い止めを受け、在校生の9割が撤回を求めて署名し同校に提出したが、学校側は応じなかった。

在籍3年で雇い止めをされた男性は「18年9月、突然校長室に呼ばれ、雇い止めを一方的に告げられた。理由を尋ねても校長は『総合的に判断した結果だから』と、何も具体的な説明をしなかった」と話す。常務からは「まだ若いんだから、すぐ次は見つかる」と冷たくあしらわれ、理事長に至っては団体交渉の場に一度も現れなかったという。

「3年間、がむしゃらに学校のため、生徒のために奔走した。雇い止め通告の1週間前には挙式しており、学校はそのことを知りながら、一方的に雇い止めをした。同じような処遇をされた教員には、理不尽さを正す意思を持ってほしい」と男性は訴える。

2人を支援する私学教員ユニオンの佐藤学さんは「少子化で定員割れを起こす学校が珍しくない昨今、私立の中には期限付きで教員を雇用する学校が増えている。しかし、教員が短期で入れ替われば、教育活動が安定せず、保護者との信頼関係も築けない。また、雇用の不安定さからダブルワークやトリプルワークをする教員も増え、教育に専念できないなどの弊害がある」と指摘する。

残業代の扱いは

私立学校の雇用問題について佐藤さんは「一般的な労働者と同様に労働基準法が適用されるため、学校の就業規則で『公立校に準ずる』などと書き、残業や深夜労働、休日労働などをしても残業代を支払わないところもあるが、これは同法37条違反になる」と問題点を指摘する。

私立校の場合、残業代の代わりに定額の「教職員調整手当」や「教員特別手当」などしか支払われない場合も多い。しかし、それら手当に相当する「固定残業時間」があるはずで、それを超えた分の残業代は、追加で払わなければならないと佐藤さんは強調する。

「そもそも固定残業代が何時間分の残業に当たるのかを明らかにしていない場合は、その規定自体が無効であり、残業代が一切払われていない扱いになる。三六協定のない残業も違法だ」と、それら就業規則の法的な問題を指摘する。

こうした状況もあり、最近は組合を結成して学校側と交渉する教員が増えてきている。とはいえ、立場的な弱さなどもあり「違法だと知りつつ行動を起こしていないケースの方が多いのではないか」と実情を分析する。

公立の給特法を巡る問題

一方の公立学校教員は、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)」で基本給の4%にあたる「教職調整額」が支給される代わりに、時間外手当や休日手当は支払われない。法律上、時間外労働とみなされるのは▽生徒の実習関連業務▽学校行事関連業務▽職員会議▽災害時の緊急措置――の「超勤4項目」のみで、部活動指導を含むその他の業務は全て「教員の自発的行為」とされている。

残業代の支払いを求めて提訴した公立学校の教諭

2018年9月、公立小学校に勤務するC教諭(男性)がこの状況に異を唱え、未払い賃金約242万円の支払いを求めて県に提訴した。現役教員としては異例の裁判だが、C教諭は「全国の先生が無賃労働を強いられている。次の世代に引き継いではいけない」と話し、教員の働き方改革の在り方を真正面から問う構えだ。

C教諭の代理人を務める若生直樹弁護士は「正規の勤務時間では終わらない業務が課されているにもかかわらず、残業代が出ないのは大きな問題」と指摘。C教諭の勤務校では若手教員が早朝出勤して校舎の掃除をする決まりがあるなど、不可解な伝統で教員が負担を強いられている状況を問題視している。

若生弁護士は裁判について「和解が目的ではない」とした上で、「全国の教員に波及し得る問題で、この裁判だけでは終わらない。一審判決まで少なくとも1~2年。高裁、最高裁まで続けば、長期にわたる裁判になる」と今後の見通しを語る。

公立か私立か

このように、公立と私立のどちらが良いとは一概に言うことができない。

長年にわたり教育行政学や私学の歴史を研究してきた国立教育政策研究所の市川昭午名誉所員は、今後教育の自由化路線の中で、「既存の公・私立学校から転換させた、新たなタイプの学校の設置が一層進む」と推測する。

今後は「公立か私立か」の枠組みを超え、「真に必要なのは、どのような学校か」を巡る議論が中心になる可能性もある。

(小松亜由子)