【木村泰子×中邑賢龍】学級に馴染めない子供たちをどう伸ばすか?(下)

学びや人との関わりに何らかの困難を抱え、学級に馴染(なじ)めない子供たちに対するアプローチや、子供が自分らしく輝ける環境づくりについて語ってきた木村泰子氏(大阪市立大空小学校初代校長)と中邑賢龍氏(東京大学先端科学技術研究センター教授)。対談の最終回では、学校の画一的な学び自体を問い直し、学校に多様な空気をつくっていく上で何が必要なのかを、実践や経験を通して語り合った。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)


子供が「多様な空気」を吸える教室を作る

小木曽 インターネットなどの普及により、これまでとは違ったタイプの不登校も出てきているのでしょうか。

中邑 今の子供たちは、大人が理解できていない領域へと先に進んでいる部分があります。例えば、ゲームの「マインクラフト」やYouTube、プログラミングの世界などに、はまり込んでいる子がいます。

それらをずっとやり続けて学校へ行かない子供がいます。「やめなさい」と注意しても暴れるばかりで、親も学校も介入が難しい。

唯一の有効な手段は、例えばマインクラフトにはまり込んでいる子供に、「専門の技術者を紹介する」と伝えることです。そうすれば、「話してみたい」「会えるのなら会いにいきたい」となります。

こうした状況を考えても、これからはサイバーティーチャーのような、オンライン上の先生を用意していかなければいけない時代に来ているのではないかと思います。

学校に多様な空気をつくるためにどうすべきかを語り合った

そのくらい、今の子供たちの世界観は、リアルとオンラインの世界の両方に広がっています。そこに教員や大人がついていけていないのです。SNSの闇の部分が問題視されていますが、その実態をリアルに把握できている大人がどれほどいるでしょうか。

また、教員にも子供と同じような状況が広がっているように思います。大きな声で子供を引っ張っていける先生は良い先生と言われ、コミュニケーションが苦手な先生はダメな先生と言われる。

たとえ対面でうまくしゃべれなくても、心を打つ文章を書ける人たちがいることも忘れてはいけません。教員の中にも多様性をつくっていかないと、子供の多様性も生まれないのではないかと感じています。

木村 教員も、得意なことを得意な人がやれば、それがすべて子供の学びに還元されます。そういう目的の下、大空小では学級担任制を断捨離しました。個々の教員ができることを存分にやって、できないことや苦手なことは人の力を活用するようにしたのです。

1時間目から5時間目まで、一人の大人にずっと授業される。そうした学びはとても画一的で、一人の先生の価値観しか得られません。そうやって育った子供が社会で通用するでしょうか。

子供が多様な空気を吸うために、1日5時間のうち、少なくとも2~3時間は違う先生が授業するというシステムを学校の中に作る。そんなことは、すぐにできます。

新学習指導要領では、これまで以上に多様性が求められています。そんな中、文科省でも小学校高学年での教科担任制導入を推進していますが、これが目的になっては子供の学びは手段になってしまいます。教科担任制はあくまで手段であり、目的は子供が多様な空気を吸える教室を作ることです。

教科担任制が目的になってしまったら、子供の吸う空気は変わらないと思います。

リアルな体験を通じて得た自信が必要

小木曽 今の教育が画一的であるということに関連して、読者から「小学3年生の娘が学校の勉強がつまらないと言っている。一方的に聞くだけで面白くないし、つらいと言うので、授業参観に行ってみたらその通りだった。どうにかできないのだろうか」との質問が寄せられています。

中邑 実際に見ていないので何とも言えないのですが、知識だけ教えられているということなのでしょう。

以前、東京大学の教養学部で「君たちに知恵はあるか?」という授業をやりました。出した課題は「2時間で山手線の29駅のホームを長い順から短い順に並べよ」です。「今日は1日準備してOK。実際の測定作業は明日の午前9時から11時までの2時間でするように」と説明すると、学生はA・B・Cの三つのチームに分かれました。

Aチームはネットで調べるチーム。きっとすぐ分かるし、ダメならJRに電話して教えてもらおう、最終的には国立図書館などで調べればわかるはずだと考えていました。BチームはGPSで測位して距離を測るので、その計算式を作るチーム。Cチームはメジャーで実際に測るチームです。

どのチームが勝ったと思いますか?

まずAチームは敗退。なぜかというと、ネット上にデータがないし、JRも教えてくれません。彼らは、ネットにはない情報があること、自分で作らなくてはいけないデータがあることを学びました。

Bチームも敗退。GPSではビルの谷間部分が測位できない上に、駅のホームは弧を描いているから2点測定しても測れないからです。

敗退した2チームには、どちらもリアリティーがありません。準備の日に調べたり、下見をしたりすれば分かることなのに、その場だけで簡単にできると思ったわけです。

勝ったのはCチームです。このチームは前日に下見に行き、駅のホームは人が多くて巻き尺が使えないことが分かったので、両足を50センチのひもで結んで歩いて測ることにしました。一番面倒な方法ですが、リアリティーがあります。

中邑氏は「学校で教えられた知識がリアルな経験に結び付いているか」と問いかけた

余談ですが、後に私たちはデータを独自に入手して正解を示したのですが、実測したCチームが「田端駅のデータが違う。もっと長いはずで、僕たちの方が正しい」と自信満々に言いました。こうしてリアルな体験を通じて得た自信が、人生には必要です。

世の中はこれからどんどん変化していきます。もっと便利になって、もっと情報が入るようになっていく。だからこそ、私たちはリアリティーの大切さを教えていかなければいけない。これからどんな技術が出てきて、どんな環境になっていったとしても、最後には自分の目で確かめることが重要だということを教えなければいけないと思います。

学校で教えられた知識がリアルな経験に結び付いているか。それをしっかりと確認していくべきだと思います。

「教える」ことをやめる

木村 中邑先生のような授業を学校の先生がしていたら、「授業が面白くない」なんて誰も言わないでしょう。子供たちは教科書通り、正解ばかり、動けず、話せずの連続に、嫌気が差しているのだと思います。

学びに大切なのは、中邑先生が実践されている「挑発教育」のように、一人一人にどんな負荷を与えられるかです。10人いたら10通りの負荷を与えられる授業。これができないなら、「教える」ことをやめたらいいんです。45分の授業の中で、先生がしゃべる時間を5分にすればいい。そうしたら、子供たちは勝手に行動するようになります。

昔、私も大空小でトライしてみました。若い先生たちがストップウオッチを持って測りに来たのですが、「校長先生、25分もしゃべっていました」――。教えるという習慣が染み付いてしまうと難しいんです。

皆さんもとにかく「5分しかしゃべらない」授業を一度やってみてください。受け身だった子供の姿が必ず変わります。

「教えることをやめたら、受け身だった子供の姿が必ず変わる」と木村氏

もしテストの点数、つまり「見える学力」が気になるならば、教員が5分しかしゃべらないでテストした結果と、45分しゃべり続けてテストした結果を比較してみてください。「点数は全く変わらなかった」という研究結果がすでに出ています。

では、「見えない学力」はどうでしょうか。45分授業のうち40分教員がしゃべっていたら、子供が行動できるのは5分で、40分は聞くだけです。そんな授業で、子供が主体的に学ぶことなんてできるでしょうか。

子供が自分で考えて、行動して、失敗して、やり直して、友達といろんなことを学び合って、初めて「見えない学力」がつくのではないでしょうか。そういう簡単なことからチャレンジしたら、学びは大きく変わり、気づいたら学校の空気が変わっています。

(企画・構成 松井聡美)

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