川崎スクールバス襲撃事件 岐路に立つ学校安全(3)

子供の命を守るため、大人は何ができるのか――。スクールバスを待つ小学生らが犠牲となった「川崎スクールバス襲撃事件」によって、学校や地域では防犯対策の抜本的な見直しに迫られている。第3回では、防犯教育に力を入れる千葉市立小中台南小学校の実践から、学校ができる現実的な対応策を考える。千葉市教育委員会の安全指導主任で、防犯教育の指導的立場にもある同校の月野木諭(つきのき・さとし)教諭に聞いた。


リアルな不審者からの避難訓練
――小中台南小学校では、どのような防犯教育に取り組んでいるのか。

まず、地元の警察と協力して「学校に不審者が侵入した」という想定で、リアルな避難訓練を毎年実施している。児童には「3年生のどこかの教室に入るから」程度しか事前情報を与えず、不審者に扮(ふん)した警察官が校内の教室に突然現れる。それに対し、児童がパニックにならずに適切に逃げられるか、教師が不審者から児童を守り、行動を封じられるかが試される。

実際の訓練では、犯人を取り押さえようとする教師が、何度も「刺される」ことになる。不審者役の警察官も教師も本気で訓練に取り組み、いざというときに適切に判断し、行動できるようにするための経験を積んでいる。

小中台南小学校では、警察と協力してリアルな不審者対策の訓練に取り組んでいる(同校提供)

児童には、不審者が現れたら「とにかく1秒でも時間をかせぐこと。ただし、決して戦おうとしないこと」と指導している。教師のとっさの指示を受けてすぐに行動し、周囲の机や椅子などを集めて自分の身を守れるようにしたり、投げられる物を手に取って一瞬でも犯人をひるませたりできるかどうかで、助かる可能性は高まる。

こうした本格的な訓練をする際には、児童の発達段階に配慮する必要がある。特に低学年の児童は大人の怖さを理解しておらず、不審者に応戦しようとしてしまいがちだ。また、訓練がリアルすぎてトラウマ(心的外傷)になってしまう危険性もある。

本校ではこうした訓練を毎年継続的に実施しており、学年が上がるにつれて、不審者から適切に逃げられる力が身に付いている。

「一人区間」の危険を実際に確認
――登下校中の防犯対策では、どのような取り組みをしているか。

昨年、警察庁が策定した「登下校防犯プラン」を踏まえ、「一人で帰らないこと」を徹底している。その上で、どうしても児童が単独で帰らざるを得ない通学路上の「一人区間」を洗い出し、本校の教師が実際に目で見て、人目に付かない場所や暗い場所など、危険と思われるポイントを把握するようにしている。

児童には「総合的な学習の時間」を利用して、登下校中に身の危険を感じたときに、どこに逃げればよいかを実際に確認させる活動も行っている。

定期的に防犯教育を積み重ねることの重要性を強調する月野木教諭

こうして把握した通学路上の危険な場所は、警察とも情報を共有し、重点的にパトロールしてもらうよう要請している。また、登下校中の見回りとして、地域のボランティアによる「セーフティーウォッチャー」やPTAによる見守りも行っている。

ただ、警察のパトロールにも限界があり、地域やPTAの見守りは交通安全が主な目的であることから、不審者にまでは目が届きにくい。教師が見回りをするとなれば勤務時間外になることが多く、現実的ではない。

「子ども110番の家」もあるが、実際に緊急時に子供を守ってくれるようになっているか。「川崎スクールバス襲撃事件」のような事件があっても、ひとごとのような感覚だと、いざというときに機能しない可能性もある。地域に対してもっと意識改革を働き掛けていく必要性を感じている。

また、防犯のボランティアについては、学校としてもこれ以上の仕事を頼みにくいのが実情だ。登下校中の安全をしっかりと確保するためにも、可能な限り時間単位の報酬を出して人材を雇った方がよいと思う。

「川崎スクールバス襲撃事件」では、児童が集団でいる状況でも、襲われる危険があることが示された。本校でも時期によって集団登下校を行っているが、その安全確保をどう図っていくかについては、まだ答えが見つかっていないのが現状だ。

年1回でも継続して防犯教育を
――学校における防犯教育を実施する上で、課題は何か。

防犯教育への取り組み方は、学校によってさまざまだ。本校のようにリアルな訓練をして児童生徒に対応法を教えているところもあれば、警察や警備会社に実質的に丸投げしているところも見受けられる。

また、学校の業務において、学校安全は優先順位の上位になりにくいために、管理職しか意識していない学校も珍しくない。防災訓練や防犯対策を担当する安全主任には、採用されたばかりの若手教員が割り当てられるケースも多い。若手教員は経験が浅く、地域の状況もよく分からないケースが多い。できれば、安全主任はベテランが担当し、後任を育てるつもりで若手と一緒に取り組んでいくのが理想的だ。

防犯教育は授業の構想に時間がかかるため、教師の負担感からも敬遠されがちだ。また、時間数の限られた特別活動を防犯教育に費やすくらいならば、クラスの話し合い活動に充てたいというのが、教師の本音ではないだろうか。

また、学校安全の研究指定校では、数時間にわたる充実した指導計画を組んでいる場合もあるが、同じことを他の学校がやるのは無理だ。

むしろ、1年に1時間だけでもいいので、市販の教材を活用して防犯教育の授業をしてほしい。防犯教育の教材は、デジタル教材なども含めてさまざまなものがあり、これらを活用すれば十分な効果が得られる。学校で共通の教材を使用するようにすれば、教師の指導力の差も生まれにくくなる。

危険が迫っていることを見極め、とっさに逃げられる子供をどう育てるか。防犯教育は成果が見えにくいが、やらなければ危険を回避する力は子供に身に付かない。児童も教師も訓練を通じて経験を積み重ね、意識を高めていくことが大切だ。学校で防犯教育を継続して取り組んでいくことが、今後ますます重要になっていくだろう。

(藤井孝良)