【上田信行教授】学びをデザインする「教育建築家」の挑戦(中)

1980年代の米国で学習観や教育観の転換を体感し、新しい学びの場づくりにチャレンジし続けてきた同志社女子大学の上田信行教授。来年度から順次、新学習指導要領が施行される中、社会の変化を見据えた学びを構築していくためにはどうすればいいのか。子供たち一人一人を「学びの建築家」にしていくために、教員に必要な心構えを聞いた。


成長的なマインドセット
――2020年度から順次、新学習指導要領が実施されますが、どのような点に注目されていますか。

例えば、小学校では新たにプログラミング教育が必修化されます。そこで大事なのは、子供たちが「プログラミングって面白い」と思えるかどうかです。

「TINKERING」という言葉があります。これは「いじくりまわす」という意味で、とても大事な概念です。プログラミングやレゴもそうですが、手と目と心でいろいろなものをいじくりまわしながら、ああでもない、こうでもないと試しては修正する。

これからの学校教育でも、いじくりまわしながら試行錯誤し、何かものを創出して、思考や概念を発見していくような営みが大切だと思います。

また、新学習指導要領ではこれまで重視されてきた「認知スキル」だけでなく、クリティカルに物事を考えたり、創造的にモノをつくったり、他者と「協同」したりするスキル、自分の学びをコントロールするメタ認知的な能力など、学びに向かう力である「社会情動的スキル(いわゆる非認知スキル)」が重視されています。

「これからの学びには『いじくりまわす』という概念が大事」と語る上田教授

これまでの日本の学校教育での学びは、成績を上げることが重要視されていたため、知識やスキルを垂直方向に積み上げていくようなイメージでした。しかし、今後求められる学びは、自分の興味や情熱に突き動かされて、自らの視野を水平方向に拡張していくようなイメージだと言えるでしょう。

これだけ変化が激しく、先が予測できない時代になったからこそ、こうした学びが日本でも脚光を浴びるようになったのだと思います。世の中には「変化を怖がる人」と「変化を楽しめる人」がいますが、これからの学校は「変化を楽しめる人」をどうやって育てていくかが重要です。成長的なマインドセットを持っていないと、生きづらい時代になってきているのです。

――小さな子供は皆、成長的なマインドセットを持っているように思えます。成長の過程で固定的なマインドセットに切り替わってしまうきっかけがあるのでしょうか。

以前、600人ほどの小・中・高校生を対象に調査をしたのですが、成長的なマインドセットと固定的なマインドセットの分岐点は中学1年生にあることがわかりました。

小学生の間は、勉強をすればするほど、賢くなっていく自分を実感できます。ところが中学生になった途端、成績が良い子と自分を比較してしまうようになる。「あの子には勝てない」「いくら頑張っても○○さんみたいにはなれない」「自分には才能がない」――。こうした感覚が芽生えてくるのです。

小学生のうちは「学ぶことは楽しい」というラーニングゴールを持っていたのに、中学1年生になって受験勉強体制に入ると、「成績を上げる」というパフォーマンスゴールに変わってしまうわけです。

ラーニングゴールの場合、学ぶことそのものがゴールなので、自分が成長していくことに関心が向いています。だから、成績が悪くても「どこが悪かったのだろう」「今度はこうしよう」といった具合に、自身が努力する方へ意識が向いていきます。

自分の能力は「他者込みの能力」
――どうすれば全ての子供が、成長的なマインドセットを持てるのでしょうか。

これまでは、学校の先生から教わったことを、どれくらい覚えているのかが重視されていました。でも、これからは自分たちで、特にチームで他者と協同しながら主体的・対話的に何かをつくっていくことが重視されていきます。何をつくるかについては、具体物だけでなく、表現やアイデアを考えていくことも含まれます。

例えば、カフェをやりたい。でも自分はコーヒーを入れるのは得意だけれど、そろばん勘定は苦手。そんな場合、今までの考え方だと、自分で経営の勉強を一から始めないと……となります。

しかし、これからの時代はビジネスに長(た)けた友達と一緒にやればいいのです。やりたいことがあれば、自分一人でやろうと考えるのではなく、「誰と」やればいいのかを考えるのです。「誰と」というのがとても大事で、これからの時代に必要な力です。

「人の力を借りることはだめなことだ」「自分一人でできなければ」という考えの人が多いのですが、他者と協同することで、より良いものやアイデアが生まれるのです。そうした取り組みによって、「協同的自信(joint confidence)」がついてくるのです。

子供たちが社会に出た後も、この力が必要です。これからの世の中は、自分の能力は「他者込みの能力」だということ。能力は自分の頭の中だけにあるのではなく、状況や関係性の中に埋め込まれている。どんな友達や他者を味方につけて、どんなテクノロジーを活用するか。そうした能力が問われる時代になってきています。

――教員がマインドを変えるためには、どうすればよいのでしょうか。

「私、これ苦手なんです」と、勇気を持って周りの同僚に言ってみることです。自分の弱さをさらけ出すことによって、もっと気楽にできるようになります。「自分一人でやらなければ」と呪縛をかけていたのを、解放していくことが必要です。

例えば、木村泰子さんが初代校長を務めた大阪市立大空小学校は、みんなで助け合っています。周りから見たら大変だと思うような子供がいても、同僚も保護者も地域の方々もいるから大丈夫だと思え、その状況に前向きに挑戦していくことができる。

学校で大変なことがあっても、誰かに相談すればなんとかなると思えるなら、学校に行くのが楽しくなるし、不安になりません。

「学生たちと一緒にいると元気になる」と上田教授

僕もこう見えて、一人だったらネガティブなことを思ったり、言ったりするのですよ。でも、大学に行って学生たちと一緒にいると元気になる。つまり、教員自身が強くなれということではなく、自分が強くなれるコミュニティーをつくろうということが大事なのです。

また、学校以外の人たちと実践的なコミュニティーを作るべきです。自分の専門的な能力を伸ばしていけるよう、いろんな分野の人と出会う場所や機会を持ちましょう。多様な人と出会い、「クラッシュ(clash)」することを通して学んでほしい。

ここで言う「クラッシュ」とは、ぶつかって壊れるという意味ではなく、ハッと驚くような感覚のことです。プレイフル・クラッシュ(playful clash)を多くの先生に起こしてほしいと思います。

僕はこの年齢になってもハングリー精神があります。楽しい、面白いと感じることから創造は始まります。学校の先生方は本当に忙しいし、大変だけれども、多忙さを理由に外に出ないというのは違うと思います。もっといろんなことを知りたいという気持ちを持っていただきたいですね。

学びをサポートする「教育建築家」
――この春、STEAM教育家の中島さち子さんたちと(一社)「follow your MUSE」を立ち上げられました。どのような活動を予定されているのでしょうか。
学習環境デザインの授業では「あんな大学生になりたい」というテーマでムービー作りを行っていた

私たち一人一人は、自分の学びを自分でデザインする「学びの建築家」です。僕自身は、これからもみんなが自分の学びを建築できるようにサポートする「教育建築家」でありたいと思っています。みんなが何かに気付いたり、振り返ったり、自分を発見するための仕掛けをつくっていきたい。

学びは自分がどう生きればいいかということに直結しています。自分で学びをつくっていくということは、自分自身と向き合うことです。だから、自ら学びをデザインできたら、すごく面白いんです。

follow your MUSEは、ワクワクして夢中になれる学び、「プレイフルラーニング(playful learning)」をもっと日本に広げるために立ち上げました。MUSEには、アーティストやテクノロジスト、数学者、クリエイター、幼児教育家など、多様な人々が集まっています。この「教育建築家集団」でOSづくり、つまり教育のビジョンをつくっていきたいと考えています。

(先を生きる取材班)