【木村草太氏×妹尾昌俊氏】学校の当たり前を法から見直す(中)

教員の業務削減と同時に、「学校の常識」を見直す動きが広がっている。校則に従うべき根拠はあるのか。なぜ皆、校則に従うのか。子供の人権など法律の観点から学校問題を捉え直してきた憲法学者の木村草太氏と、学校業務改善アドバイザーや中教審「学校における働き方改革特別部会」委員を務める妹尾昌俊氏(教育新聞特任解説委員)が、「校則には従わなければいけない」という「誤解」について考える。


学校の「お勧めファッション」

妹尾 前回、木村先生より「校則というのは本来、学校の教育指導権および施設管理権の行使のための基準を自ら決めたもの」であり、また「法的な強制力はない」というお話がありました。

ただ法的に拘束力がないとはいっても、実質的に強制力があるようにみんなが信じてしまっているところがありますね。離脱すると先生からいろいろ言われるので、事実上強制されるということが起きてしまう。でもそれは校則が問題なのではなく、校則に基づいた指導が行き過ぎているかどうか、つまりその指導権限上、適切な範囲内に収まっているかどうかを考える必要がある、ということでしょうか。

木村 そうですね。例えば昔「長髪裁判」というものがありました。男子生徒は全員丸刈りという校則がある学校で、丸刈りにしなかった生徒が訴えた。裁判所の認定では、この生徒は「3年間長髪で過ごした」とあり、また「長髪だからといっていじめるな、ということを学校が指導している」といったことも書いてある。裁判所から見ると、何のために訴えたのかよくわからなかったのでしょう。

対談する木村氏(左)と妹尾氏

妹尾 そうですね、生徒は不利益を被っていない。

木村 丸刈りにしなかったからといって、無理やり髪をそるとか、罰金を取るということは起きていない。そこで裁判所は「まあ、いいんじゃない」ということを判決で言っている。丸刈りはあくまで学校の「お勧めファッション」であって、違反者が出ても制裁は課していないということでした。

ただし、制裁を課した場合に適法だとも言っていないので、もし髪を伸ばした、あるいは染めたという程度のことで停学や退学処分が行われたら、裁判所はかなり厳しい判断をするだろうと予想できます。

妹尾 なるほど、校則の規定は「お勧めファッション」にすぎない、という考え方はすごくいいです。強制ではなく「推奨しているだけ」ということですね。そもそもそんな校則が要るのか、ということも考えないといけませんが。

木村 以前、大阪の市営地下鉄の運転手が、規則でひげをそるよう強制された件について訴訟がありましたね。判決は、規則自体は適法だけれど、そることを強制したり、そらなかったことを理由に解雇したりしたら違法だと言っているんですが、これと同じ発想です。

こういった規則は、われわれのイメージほど強い拘束力があるわけではないんです。校則は、実は「みんなの誤解に基づいて動いているシステム」なんです。「違反するとひどい目に遭う」とか「法的に守らなければいけないものだ」というイメージがあるから成り立っている。

もちろん校則には、前回話した「施設管理権と教育指導権の行使のための基準」となるような、法的拘束力をもつ部分もありますが、全部がそうではない。そういったことを、みんなあまり意識していないですよね。

「絶対」と「任意」

妹尾 施設管理権と教育指導権の観点で見ていくと、今の校則が本当に必要なものなのか、あるいはここまで厳しく指導する必要があるのかと、考えさせられますね。

木村草太氏

木村 校則の話に限りませんが、学校では、法的な強制力がないのに強制力があると思わせる、あるいは学校内ですごく嫌な不利益を受けるかもしれないと思わせることによって人を動かす、ということがずっと行われていて、そのために本来すべき投資がされていないケースがたくさんあります。(次回にお話しする)掃除についてもそうだし、PTAがやっているいろんな業務についてもそうです。

学校は「絶対にやらなくてはいけないこと」と「任意で好きにできること」があるというのを、ちゃんと伝える必要があります。それが今は、ボランティア(任意)であることは「極秘事項」みたいになっているんですよね。本当はボランティアなのだけれど、資源が足りないなどの理由から強制している。その事実を、まず学校側が認識しないといけないでしょう。

妹尾 そういったことをちゃんと確認して考えられるようになると、学校はよりゆるやかになって、過ごしやすいと感じる子供たちも多いだろうなと思いますね。

木村 最近はいじめ対策にも同じ傾向があって、危惧しています。よく「傍観者でいるな」と言いますが、いじめの真っただ中に介入するのはとても危険な行為です。学校は、自分たちのコストをかけたくないので、いじめ対策のリソースを子供たちから引き出そうとしているのでしょう。街中で暴力団が人を殴っているときに「傍観者でいるな」とは言わないでしょう。警察に通報する責任はあるかもしれませんが。

そうやって本来使ってはいけないリソースを使うのは、私は正しくないと思いますね。

妹尾 あとは、親も子供も教師も「先生の言うことは従って当たり前」と思い込んでしまっているところも、もうちょっとほぐしてあげる必要があるでしょうね。

木村 そうですね。「その校則に違反すると何が起きるのか」ということを考えてほしい。学校の校則やルールには、いろんなランクがあります。拒否すると刑罰を受けるレベルのものももちろんあれば、施設管理権の行使として学校から追い出されるレベルもあるし、何も起きないというレベルも実はある。

例えば、人を殴ってはいけない、というのは違反すると刑事罰級ですから、絶対守らなければいけないことですよね。

妹尾昌俊氏

妹尾 授業中にうるさく騒ぎ過ぎる、というのであれば、他の子供の学習権侵害になるので教室から追い出されることもあると。

木村 そうですね。一方、「制服を着なさい」というのはお勧めレベルなので、たぶん停学や退学にはできない。要は「誰の権利も侵害していないし、法律にも違反しない」というランクです。これは処分対象にはできないでしょう。

妹尾 そういう意味では、よく校則違反をする生徒が「いや、これは誰にも迷惑をかけていないし」と言うのは、結構本質を突いている話ですね。

木村 本質を突いています。