【上田信行教授】学びをデザインする「教育建築家」の挑戦(下)

在籍する同志社女子大学で、学習環境デザインの授業やゼミ生と共に行うワークショップなど、「新しい学びの場づくり」の実践的な研究を続けてきた上田信行教授。インタビュー最終回では、ゼミに所属する6人の学生の声なども交えながら、上田教授が目指す「学びの本質」に迫る。


「How」で考えるか「Can」で考えるか

【学生の声】上田ゼミで過ごした2年間で「Not Yet精神」が養われて、できないことがあっても「まだできないだけだな」と思えるようになりました。自分がやりたい、頑張りたいと思ったことであれば、テストなどの結果が自分の思ったように出なかったとしても、「大丈夫、まだできていないだけ。これからできるようになる!」と思って取り組めるようになりました。

【学生の声】私は「How」で考えるか、「Can」で考えるかということを学びました。自分はこれまで「自分には無理、できない」と考えてしまうタイプでした。それが上田ゼミでの学びや活動を通して、「できる」という可能性を自分の中に持つことや、自信を持ってやるということの大切さを学び、何事も前向きにチャレンジしようと思える自分に変わりました。

――この「Not Yet精神」、「How」で考えるか「Can」で考えるか、とは具体的にどういった考え方なのでしょうか。

マインドセットで著名なスタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授は、シカゴのある高校の成績表に「Fail」ではなく「Not Yet」と書かれていたことに驚いたそうです。「Fail」だとそれで終わりですが、「Not Yet」だと生徒に「まだまだこれからだよ」と伸びしろや可能性を意識させることができます。

その後、ドゥエック教授は「TED Conference」で「The Power of Yet」というスピーチを行いました。その映像がインターネット上に流れると同時に大きな反響があり、この考え方が広がっていったのです。

企業でさまざまなワークショップを共に行っているゼミ生と

最近の生徒や学生は、難しそうな課題を与えるとすぐに「無理!」と言います。でも、物事は「Can I do it ?」と考えるのではなく、「How can I do it ? 」もしくは「How can we do it ?」と考えないと、大きな学習機会を逃してしまうことになります。「できるかな」と考えるのではなく「どうすればできるかな」と考えるのです。

「How」で考えることや、「Not Yet精神」は、学生や生徒の注意をセルフ(自分の能力)に向けるのではなく、タスク(課題)に向けることができます。自分の能力のなさを悲観的に捉えて課題から逃げるのではなく、困難な課題に向かうことによって、多くを学べるチャンスが手に入れられるのです。

自分を「よく見せる」のではなく、「良くなる」ことに学生や生徒の注意とエネルギーを注がせることで、能力を最大限発揮させることができます。

ちなみにドゥエック教授は僕の大学院時代の指導教官でもあり、彼女から今の僕の研究アイデアをたくさんいただきました。

――学校教育でこれを実践するには、どうすればよいのでしょうか。

まず、生徒や学生たちに課題を「自分ごと化」させることです。先生から与えられる課題を、与えられたままこなすのではなく、別の視点から捉え直したり、自分の興味と関連づけて課題を設定し直したりして再構成し、自分のプロジェクト(Project)にするのです。

そうすると、課題が面白くなってきて情熱(Passion)が湧きます。さらに、同じことに興味がある仲間(Peers)を巻き込んでチームになると、モチベーションに火がつきます。

失敗を恐れず課題にチャレンジする「プレイフル・スピリット」があれば、生徒たちは遊びの感覚で冒険(Play)し、自分の能力をどんどん拡張していくのです。

この四つのPは、MIT Media Labのミッチェル・レズニック教授が提唱する「創造性を耕すための4Ps」です。これからのクリエーティブな学びのプロセスには、この4要素が必要です。

誰かに喜んでもらいたいから学ぶ

【学生の声】高校までは受験のこともあり、「自分のために学んでいる」と思っていました。それが上田ゼミに入ってからは、「誰かに喜んでもらいたい」「誰かに何かを伝えたい、揺さぶりたい」という思いで学んでいます。誰かが喜んでくれるからこそ自分が学ぶことが楽しいし、学びがいがある。学ぶ姿勢が変わったと感じています。

――「誰かに喜んでもらうために学ぶ」とは、具体的にどういうことなのでしょうか。

課題に意味を見いだし、意欲的に取り組めるか否かは、「誰かに喜んでもらう」ことに自分の価値観を置けるかどうかです。自分がやっていることが人の役に立ち、喜んでもらえる。そのプロセスを通して深く学ぶことができるということが、わかっているのだと思います。

例えば、誰かに向けてプレゼンテーションをする、その準備を一生懸命にやって発表した結果、すごくよかったと感謝される、この全プロセスが学びになるのです。すなわち、この喜びの循環の中で学びが起こっているわけです。このような「喜びの循環モデル」が、もっと広まっていけばいいなと思っています。

【学生の声】高校生の時に同志社女子大のオープンキャンパスで、上田ゼミ生と一緒に体験したワークショップやミュージックビデオをつくっている授業の映像を見て、「なんて楽しそうなんだ! こういうのも学びっていうのか」と衝撃を受けました。高校までは勉強嫌いでしたが、学びの本質を教えてもらった気がします。

――「学びの本質」とは。

自分の知的好奇心を行動に移し、自らの体験を省察し、それに意味付けをして経験に熟成させることです。知識を集積するのではなく、さまざまな経験を通して、ハッとしたり、驚いたり、悩んだりしながら、自分自身の可能性を拡張していく。そうした変容のプロセスだと思います。

学びは、状況との対話の中で生まれます。状況を構成する環境(空間、道具、活動、他者)と学習者との、相互作用や関係性の中で立ち現れてくるもので、個人の頭の中だけでは成立しません。

「ゼミ生とやっていることは、学びの実践そのもの」と語る上田教授

ゼミ生とやっていることは、学びの実践そのものです。私は、学生自身が自分の「経験の可能性」を拡張していける場や機会をデザインしているのです。

例えば、ワークショップをスタートする時には、こんな学びが起こるだろうという可能性は想像していますが、その時のメンバーや状況によって何が起こるか分かりません。分からないから面白いわけです。学生は自分たちで考えていく楽しさを知っているから、学びを楽しいと思えているのです。ある方から教えていただいた表現ですが「行き当たりバッチリ!」ですね。

――「ワークショップ」に、どのようなイメージをお持ちですか。

私の考えるワークショップのイメージは、47年前にニューヨークで出会った『セサミストリート』のスタジオ「チルドレンズ・テレビジョン・ワークショップ(CTW)」です。

CTWでは、スタジオにみんなで集まって、ワイワイガヤガヤ、誰も見たことのない実験的な番組をつくろうとしていました。この「実験」というのが、僕にとってとても重要な概念です。

その当時、テレビで教育ができるなんて誰も思っていませんでした。『セサミストリート』には、米国の貧困問題を解決するという社会的な大義名分があり、そこに多様な専門家が集まり、誰もチャレンジしたことのない「テレビで教育する」というプロジェクトに取り組んでいたわけです。

夢があって、それに向かって知恵を出し合う。「これだ!」と思ったんです。何か分からないけれど、面白いことが起こりそうな、そういう実験的な試みを「ワークショップ」と呼び、これまで実践を重ねてきました。

自分の弱さをさらけ出す勇気を

【学生の声】ゼミの活動の一環として、企業研修のワークショップを行うなど、大学生活の中で普通なら関われないような人たちと出会え、活動することで、自分の興味が大きく広がりました。ゼミの活動を通して将来の選択肢も増えました。

――ゼミ生は具体的には、どのような活動をしているのでしょうか。

例えば企業の働き方改革や、企業経営に対するビジョンについて語り合う会議、社員のエンゲージメント(仕事への熱意)やモチベーションを高めるための研修などで、ゼミ生と共にワークショップを行っています。学生の新鮮な視点から意見を述べるという、社外のコンサル的な関わり方ができています。

こうした活動によって学生は、企業の部長クラスや経営者クラスの方たちとじかに話すことができます。企業側にとっても、学生のキラキラした目の輝きや、フレッシュなエネルギーに触れることで、活力が得られる、元気が湧くといったメリットがあるように思えます。

学生は、もっともっといろんなことにチャレンジできるんです。だから、多様な人との出会いを提供するなどして、できるだけ広い世界を見せてあげたい、もっと面白い世界があることを伝えたいと思ってやってきました。

【学生の声】一番教えてもらったのは、挑戦することの楽しさです。私は人前で自分の意見を伝えるのが苦手だったのですが、ゼミでの活動で何回も挑戦することによって、自分の可能性が広がりました。この経験を教員になって子供たちに伝えていきたいと考えています。

――今、学校現場では先生も子供も失敗を恐れ、チャレンジすることの大切さを忘れています。挑戦することの楽しさに気付くために必要なことは何でしょうか。

面白いと思ったらすぐに行動に移すことです。一歩踏み出す勇気や、自分の弱さをさらけ出す勇気を持つことで、人は強くなれます。

上田教授は「弱さを受け止めてくれるコミュニティーが必要」と話す

弱さ(vulnerability)を受け止めてくれる、支え合える教室や組織、コミュニティーがあれば、「弱さをさらけ出す文化」が全体に広がっていきます。そうなれば、その教室や組織が弱さをさらけだすことによって、逆に強くなっていくことでしょう。

学校現場においても、「弱さをさらけ出しても大丈夫」という空気をつくることが大切です。知らないこと、できないことは恥ずかしいことじゃない。先生も同僚にもっと自分をさらけ出し、共に成長して、発達していくことが大切です。
小学校では来年度から新学習指導要領が実施され、外国語科やプログラミング教育など新しい試みが増えますが、これを素晴らしいチャンスと捉え、チャレンジしていってほしいです。先生も子供たちと共に学んでいく姿勢で、勇気を出して一歩踏み出していってほしいと思っています。世界を変えるために!

ROCK to Change the World !

教員は最先端の学び手です。子供たちと一緒になって学びをつくっていく「協同探究者」であってほしいと思います。

(先を生きる取材班)