世界の教室から 北欧の教育最前線(27) 無理しない行事の工夫

フィンランドで就学前施設に通い始めた娘の初めての行事は、親も子供も先生も無理なく楽しめる朝食会だった。園行事の事例から垣間見られる、教員の労働環境を報告する。


保護者参観は朝の時間に

フィンランドでは幼稚園・保育園の区別がなく、生後9カ月以降の全ての子供がパイヴァコティ(Paivakoti)と呼ばれる就学前施設に通うことができる。娘がパイヴァコティに通い始めて最初の父の日に、保護者が参加する「父の日朝食」があった。日本でも父の日や母の日の前後に参観日が設けられることがあるが、その朝食版だ。

ユヴァスキュラ市のパイヴァコティでは、昼食とおやつの他に、必要に応じて毎日朝食が提供されている。「父の日朝食」の日は、特別に全ての子供と父親のために朝食が用意され、いつもより少し早く登園して、親子一緒にパイヴァコティで朝食を食べる。

保護者参観は、平日に行う場合は親が仕事を休まなければならないし、休日に行う場合は先生が休日出勤しなければならない。しかし朝の時間に行われれば、保護者はいつもより少し早く登園するだけで、仕事を休む必要はない。

パイヴァコティの朝食

「父の日朝食」では、親子が7時から9時の間の好きな時間に登園し、おのおの朝食を食べ、子供がプレゼントを渡すようになっている。先生は子供と一緒にプレゼントを用意する以外に特別なことはしない。当日は自宅で朝食を準備しなくていい分、逆にいつもよりも楽でさえあった。

子供は父親に園を案内し、保護者はクラスや食堂の様子を見たり、他の親子と話をしたりできる。誰も無理をすることなく、子供にとっても保護者にとってもうれしい行事だ。

合理化された行事

こうした行事のあり方は、教師の労働環境を考える上で重要だ。フィンランドでは、保育士を含む教員は子供を指導するプロとして尊重されていて、授業・保育に最大限の時間を費やせるよう、それ以外の業務はできる限り取り除かれている印象を受ける。

行事の合理化はその一例だ。入園式や卒園式、運動会などは無く、父の日などの季節ごとの行事は先生と保護者双方が無理のないように工夫されている。行事などの連絡は紙の「お便り」で配布されるのではなく、先生と保護者が見られるICTプラットホームで配信される。掃除や給食は、それぞれ専門の職員が雇用されているため、行事によって先生の業務が大幅に増えることはない。

授業・保育に最大限の時間を

フィンランドの教員の労働時間は、国際的に見て短い。例えば、今年6月に発表された国際教員指導環境調査(TALIS)によると、フィンランドの中学校教員の労働時間は調査参加国平均よりも短い週33.3時間だった。一方で、「指導(授業)」にかける時間は、参加国平均並みだ。子供と関わる時間はしっかり確保されていると言える。労働時間が短い傾向は、小学校・幼児教育においてもみられる。

長期休暇もとりやすい。小中学校の教員は学校が夏休みになる6月から8月頭までの2カ月強、幼児教育の教員もおよそ1カ月の夏休みを取るのが一般的だ。

教員を含む自治体職員の労働時間、給料、休暇などについては、全ての自治体において労働協約が結ばれており、それに基づいて決められている。97%の教員が加入するフィンランド教員労働組合(OAJ)の活動も活発で、幼児教育から成人教育に関わる教員全ての労働環境の促進に取り組んでいる。

リラックスした雰囲気の保育室

このようにフィンランドでは、教員が過重労働にならない慣習や仕組みが浸透していると言えよう。合理化・専門化された労働時間と空間、休暇や給料などを確保する仕組みがあることが、質の高い保育・教育を生み出す土台にもなっている。

一方で、余計な仕事を極力減らすような工夫が、近年のフィンランド経済の低迷により、経費削減にからめ捕られないか懸念される。現在、およそ300ある自治体が、教育費削減や人員削減、学校の統廃合、クラス人数の増加などを余儀なくされている。経費削減の流れの中で、フィンランドの教員の労働環境がどう守られ、同時に保育や教育の質がどう保たれていくのか、今後の動向に注目したい。

(矢田明恵=やだ・あきえ、フィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院博士課程。専門はインクルーシブ教育)