【大前研一氏に聞く(上)】「学び直さない教員は退くべきだ」

経営コンサルタントで、ビジネス・ブレークスルー(BBT)大学学長の大前研一氏は「教員が常に答えを持っている時代は終わった。これからは答えのない時代であり、『先生』も学び直しが必要だ」と語り、「学び直さない教員は、児童生徒にとって『加害者』になりかねない」とまで警告する。大前氏が考えるリカレント教育と、「答えがない時代の教員の役割」を聞いた。(聞き手・教育新聞編集部長 小木曽浩介)


リカレント教育の重要性
――BBT大学に「リカレントスタートプログラム」を新設するなど、リカレント教育の重要性を強く訴えられていますね。

ええ。リカレント教育というのは、元々スウェーデンからスタートした考え方なんですけれども、人生は全てのステージにおいて学び直さなければだめだ、と。リカレントとは、二度、三度、四度、繰り返すという意味なんですね。生きていく以上は時代、年代、世代、すべて変わっていくので、学び直さなきゃいけない。

スウェーデンでこの運動が始まったのは1968年で、そういう意味では新しい言葉ではないんです。

そのスウェーデンやデンマークで、いま教育がどうなっているかというと、「21世紀は答えのない時代ですよ」と。「答えがない時代の学校はどうするのですか」というと、「皆で答えを見つけましょう」と。つまり、教えるというのではなくて、答えを見つける。そのプロセスを介添えしてあげるのが、教員の役割になっているのです。

ここで、クラスにおけるリーダーシップというのが出てくるわけです。「いろいろな人が議論している中で、誰の言っていることが一番か」「自分もそのように思うかどうか」と、クラスのディスカッションで答えを見つけていき、皆で決めていく。こういうプロセスに90年代から変わったんですね。

デンマークまで授業見学に行ったとき、「26人の生徒がいれば、26通りの答えがあって当たり前。そこから先、どうやって皆のコンセンサスをまとめていくかというのが、教員のスキルだ。答えを教えるのではなくて、それをファシリテートするのが教員の役割だ」と言っていましたよ。

答えがない時代の教員
――日本でも、教員にファシリテーターとしての役割が求められるようになってきています。

日本の教育は、その役割に気が付くのが非常に遅れた。遅れた理由は、はっきりしています。「欧米に追い付け、追い越せ。欧米が答えを持っている」と思って、その答えを学んで、それを児童生徒もできるようにしようと一生懸命やってきた。

「これからは答えのない時代」と語る大前研一氏

日本の全ての教育は「答えがある」というのが大前提なのです。学校教育も要するに、答えの分かっていることを教えています。学習指導要領も、答えがあることが前提なんです。しかしこれからの答えがない時代には、学習指導要領なんて書けませんよ。

教員も教員免許を取って以降は、学習指導要領や教科書に基づいて教えていればいいので、自分で学ばない。先生という人が「最も自分で学ばない人」なんですよ。

だから21世紀、答えのない時代に最も窮地に陥るのは学校の先生だと、私は思っています。そして、そんな教員に教えられる生徒は不幸です。学び直さない教員は、児童生徒にとって「加害者」になりかねない。「悪いけど、学び直さない先生は退いてくれ」と私は言いたい。

学習指導要領ではなく「自分要領」で
――では、学校はどう変われば。

児童生徒が学校にいる間は、もうちょっと自由にしてあげればいいんです。ヒントは結構ありましてね、学習指導要領がない国は、学校の方針で教えるというので、その方針を皆に公開して、それで賛同した親御さんたちが来る。

または、基本的にはそれぞれの州が教育方針を出して、それを親に問うていく。先生方も答えがないということを前提にして、ファシリテートに専念しています。

日本の教育はいままだ、それを固めようとしていて、子供にとって非常に不幸な状況です。

そして二重に不幸なのは、シンギュラリティに備えて教育を変えていかなければいけないのに、いまだゼロなこと。今の中学生や高校生が一番活躍できるようになるはずの40歳ごろ、この子たちは今の教育を受けただけの状態でいたら、もう完全にコンピューターに置き換えられてしまって、やることがなくなるわけですよね。

私は親に聞きたい、文科省に聞きたい、先生に聞きたい。コンピューターに負けない教育を、あなたは子供たちにしていますかと。

日本にとっては、国家的な危機なんですよ。私はそういう認識を持っています。

――そうした問題を自覚し、悩んでいる教員もいます。そういう教員にアドバイスはありますか。

「学校単位、先生単位で変えていくしかない」と強調する大前研一氏

学習指導要領ではなくて「自分要領」でやってみる、それに尽きるのではないですか。こういう状況なのだから、先生にはそのくらい本当に危機感を持ってほしいです。

ただし、他人の子供である生徒を巻き込むのは、ある意味、罪深いことですから、まずは自分の子供を「自分要領」で教えるべきだと思います。

「とにかくこれではだめだ」という認識を持って、自分なりの、学習指導要領に寄らない教え方を自分で開拓する。そういう先生にならないといけません。

そうしたことにトライするのは、非常に重要なことです。学習指導要領の改訂を待っていたら、もう絶対に手遅れです。学校単位、先生単位で変えていくしかないんです。


【プロフィール】

大前研一(おおまえ・けんいち) 1943年、福岡県生まれ。マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク。その後は経営コンサルタントとしても各国で活躍し、経営や経済に関する多くの著書が世界各地で読まれている。

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